腰部脊柱管狭窄症を組織や構造だけでみてよいのか|整形外科領域の臨床再考

目次

腰部脊柱管狭窄症とは何か|まず押さえたい基本像

腰椎の症状をみるときは、類似した診断名を最初に分けて考える必要があります。

変形性腰椎症は腰椎全体の加齢性変化をまとめた名称で、椎間板や椎間関節、骨棘などの変化を含む病態です。腰椎椎間板ヘルニアは椎間板が突出し、神経根症状につながる病態です。

腰部脊柱管狭窄症は、神経の通り道が狭くなり、馬尾神経や神経根に関連する症状が出る病態です。

腰椎すべり症は椎骨が前後にずれ、腰痛や神経症状を伴うことがある病態で、脊椎圧迫骨折は椎体がつぶれる骨折であり、変性疾患とは異なる病態です。

腰部脊柱管狭窄症では、腰痛そのものよりも、殿部から下肢にかけてのしびれ、重だるさ、歩きにくさ、立ち続けにくさが前景に出やすいのが特徴です。

特に立位保持や歩行で悪化し、前かがみや座位で軽くなる間欠性跛行が代表的ですが、全例が典型的な症状が出るとは限りません。

一般には、椎間板変性、黄色靱帯肥厚、椎間関節変化、すべり症の合併などで説明され、保存療法としては運動療法、生活指導、薬物療法、神経ブロック、物理療法、徒手療法などが選択されます。

ただし、進行する筋力低下、膀胱直腸障害、会陰部の感覚異常、急速な神経脱落症状がある場合は、保存的介入のみで進めず医師評価を優先すべきです。

最近の研究からみた腰部脊柱管狭窄症|いま押さえたい知見

腰部脊柱管狭窄症では、画像所見と症状の関係、無症候者にみられる異常所見、外科治療と保存療法の位置づけを分けて考える必要があります。

狭窄があること自体と、現在の症状の主因であることは同じではありません。

腰痛未経験で無症状の67人にMRIという研究:

「60歳以上のグループでは36%が髄核ヘルニアがあり、21%は脊髄狭窄があった。つまり約57%で異常があった。

MRI画像上の異常は手術が計画される前に、年齢、あらゆる臨床的徴候、症状が厳密に相関しなければならないと結論した。」

Abnormal magnetic-resonance scans of the lumbar spine in asymptomatic subjects.
A prospective investigation.

狭窄像は単独で存在するとは限らず、他の変性所見と並んで無症候でもみられることがあります。

無症状の98名にMRIという研究・腰仙椎椎間板:

「被験者の52%が少なくとも1つの椎間板に膨隆があり、27%に突出、1%に脱出があった。38%は1つ以上の椎間板の異常があった。線維輪欠損は14%、椎間関節症が8%であった。7%に脊椎分離症、7%に脊椎すべり症、

7%に脊柱管狭窄、7%に神経孔狭窄が認められた。検査対象者のうち全レベルの椎間板が正常だったのはわずか36%だった。

これらの知見と腰痛の罹患率が高いことを考えると、腰痛患者の膨隆や突出のMRIによる発見はしばしば偶然である。」

Magnetic resonance imaging of the lumbar spine in people without back pain.
Jensen MC, et al. N Engl J Med. 1994.

狭窄の程度を画像で確認できても、症状の強さや手術成績までそこから単純には読めません。
腰痛や狭窄の有無に関わらず150人の研究:

「MRIスキャンから得られた印象は、腰椎狭窄が痛みの原因であるかどうかを決められるものではない。

症状の重症度、画像、狭窄の程度との間に明確な関係は存在しない。

外科手術の結果は画像の結果とは明らかに関連していない。MRIは脊柱管狭窄がある人に対して腰痛があるか全く症状がないかを区別できない。」

Spinal stenosis, back pain, or no symptoms at all?
A masked study comparing radiologic and electrodiagnostic diagnoses to the clinical impression.

「腰椎脊柱管狭窄症に対して、外科的治療と保存的アプローチのどちらが優れているかを結論付ける自信はほとんどなく、臨床の指針となるような新たな提言はできない。」

「非外科的治療と比較して、外科的治療では明確な利益は観察されなかった。」

Surgical versus non-surgical treatment for lumbar spinal stenosis

少なくとも現時点では、外科的治療が常に明確に優れているとみなす根拠は十分ではありません。

▶︎ 脊柱MRI異常は腰痛の原因なのか

▶︎ 整形外科領域の臨床再考とは何か

疼痛科学からみた腰部脊柱管狭窄症|症状の振る舞いをどう読むか

腰部脊柱管狭窄症では、狭窄という形の問題だけで症状のすべてを説明できるとは限りません。

腰部や下肢からの入力が中枢神経でどのように処理されているかによって、痛み、しびれ、重だるさ、歩きにくさの感じ方が変わることもあります。

また、手術後に症状の改善がみられたとしても、その変化が手術手技そのものの効果だけで起きたとは限りません。期待、安心感、術後リハビリ、治療文脈などの影響も含めて、手術の効果は慎重に考える必要があります。

▶︎ 手術とプラセボ効果をどう考えるか

腰部脊柱管狭窄症を末梢神経からどうみるか|分布から読み直す

腰部脊柱管狭窄症としてまとめられる訴えの中には、脊髄神経後枝やその皮枝、上殿皮神経、中殿皮神経の分布を踏まえた方が読みやすいケースがあります。

腰背部中央から傍脊柱部の張り感や痛みでは脊髄神経後枝やその皮枝、腸骨稜後方から殿部上外側へ広がる訴えでは上殿皮神経との重なりを確認したいところです。

仙骨周囲から殿部中央にかけての表在的な違和感では中殿皮神経の分布が参考になります。

腰殿部の表在症状をすべて狭窄症として一括りにするのではなく、腰背部の症状なのか、殿部外側や殿部中央の症状なのかを分けてみることで、評価の焦点は変わります。

また、歩行や立位保持で増悪する下肢のしびれや重だるさがある場合は、腰殿部の表在症状と分けてみる必要があります。

前かがみで変わるのか、休息で戻るのか、筋出力低下まであるのかを追うことで、腰殿部の症状と馬尾・神経根に関連する症状を切り分けやすくなります。

▶︎ 脊髄神経後枝とは何か

▶︎ 脊髄神経後枝の皮枝とは何か

▶︎ 上殿皮神経とは何か

▶︎ 中殿皮神経とは何か

結論

腰部脊柱管狭窄症をみる際には、まず狭窄所見の有無だけで判断せず、そのうえで殿部や下肢症状が前景に出ているのか、立位や歩行でどう変化するのかを丁寧に読むことが大切です。

診断名や画像所見だけで終えず、症状分布と動作での変化をみることで、評価の焦点はより明確になります。

 


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