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いくつかの整形外科手術による痛みの減少はプラセボ効果。

いくつかの整形外科手術による
痛みの減少は、
プラセボ効果

新しいペインサイエンス系の論文を紐解いていくと、構造の変性(関節唇、椎間板、ヘルニア、狭窄症など)は加齢によるものであり、痛みとの関連性は低いと言われています。

そういった構造への整形外科手術とプラセボ手術を比較したという研究がいくつかあります。

これら研究がサイエンスから見て妥当性が高いということになれば、いくつかの手術は不必要だと言えます。

果たしてどのような研究があるのでしょうか?

まずは膝についての研究をご紹介していきます。

◆変形性膝関節症の手術

変形性膝関節症とは、歩行時や階段を上り下りするとき、または正座が痛くてできないなど、膝の痛みを感じる症状のことです。

膝の軟骨が変性したり擦り減ったりすることで痛みが出ると言われています。

それに対して、整形外科では関節鏡視下手術を行うことがあります。

関節鏡という小さなカメラのようなものを膝関節に刺し、軟骨や半月板のささくれや増えた骨膜などを除去したり、綺麗にする手術のことです。

しかし、実際手術したのに良くならないと言った方もいらっしゃいます。

どうなのでしょうか?

◆変形性膝関節症165人が、関節鏡視下手術と偽プラセボ手術を受けたという研究。

「我々は、膝の変形性関節症に対する関節鏡検査の有効性を評価するために、無作為化プラセボ対照試験を実施した。」

「変形性膝関節症の合計180人の患者が、関節鏡視下デブリードマン、関節鏡下洗浄、またはプラセボ手術を受けるために無作為に割り当てられた。

プラセボ群の患者は、関節鏡を挿入せずに皮膚切開を受け、疑似デブリードマンを受けた。」

※デブリードマンとは、関節内遊離体の摘出や、変性断裂した半月板の部分切除、滑膜の切除などをおこなうこと。

「24ヶ月間にわたって複数の時点で転帰を評価した。 合計165人の患者が試験を完了した。」

「いずれの時点においても、関節鏡的介入群のいずれもプラセボ群よりも機能の改善に有意差はなかった。

例えば、プラセボ群と洗浄群またはデブリードマン群のいずれとの間でも、1年間の歩行および屈曲の自己報告能力に有意差は認められなかった。

実際に、客観的に測定された歩行および階段上昇は、2週間および1年において、プラセボ群よりもデブリードマン群で劣っていた。そして2年後に機能が悪化する傾向を示した。」

「変形性膝関節症患者を対象としたこの対照試験では、関節鏡下洗浄または関節鏡下デブリードメント後の結果は、プラセボ手術後の結果よりも良くなかった。

A Controlled Trial of Arthroscopic Surgery for Osteoarthritis of the KneeJ.

Bruce Moseley, M.D., Kimberly O’Malley, Ph.D., Nancy J. Petersen, Ph.D., Terri J. Menke, Ph.D., Baruch A. Brody, Ph.D., David H. Kuykendall, Ph.D., John C. Hollingsworth, Dr.P.H., Carol M. Ashton, M.D., M.P.H., and Nelda P. Wray, M.D., M.P.H.

つまり、関節鏡手術はプラセボ手術と同じ効果であり、予後が悪くなったという結論です。

◆肩SLAP損傷への手術と偽手術を比較した研究

肩の問題で手術をすることもあるかと思いますが、関節唇への手術と偽手術の結果を比較したという研究があります。

「関節唇修復術と上腕二頭筋腱固定術は、肩のSLAP損傷(上方肩関節唇損傷)に対して日常的に行われているが、エビデンスは不足している。

SLAP損傷に対する関節唇修復術、上腕二頭筋腱固定術および偽手術の効果を評価した。

118人の外科的候補者(平均年齢40歳)を用いて二重盲検、偽対照試験を実施した。」

「いずれのアウトカムにおいても、追跡調査ではグループ間の有意差は認められなかった。

SLAP II損傷を有する患者に対しては、関節唇修復術も上腕二頭筋腱固定術も偽手術と比較して有意な臨床的有用性は認められなかった。

※SLAPタイプⅡ…関節唇の剥離

Sham surgery versus labral repair or biceps tenodesis for type II SLAP lesions of the shoulder:
a three-armed randomised clinical trial
Cecilie Piene Schrøder, Øystein Skare, Jens Ivar Brox
Olav Reikerås, Petter Mowinckel,

肩の関節唇への手術も同じように偽手術と比較して有効性はないという結論です。

◆テニス肘への手術とプラセボ手術を比較した研究

ランダム化比較試験:

「テニス肘を管理するための多くの外科的手法が説明されている。

最も頻繁に行われる手術の一つに、短橈側手根伸筋の患部を切除するものがある。

この手術の結果は、この状態に対する他のほとんどの手術と同様に、優れたものとして報告されているが、プラセボ手術と比較したものはまだない。」

短橈側手根伸筋の変性部分を外科的に切除しても、慢性的なテニス肘の管理において、プラセボ手術以上の利点はない。

どの段階のどのパラメーターでも、グループ間に有意差は認められなかった。

Surgical Treatment of Lateral Epicondylitis
A Prospective, Randomized, Double-Blinded, Placebo-Controlled Clinical Trial

Martin Kroslak,yz MBBS, MSpMed, MS, and George A.C. Murrell,yz MBBS, DPhil, MD

Investigation performed at the Orthopaedic Research Institute,St George Hospital Campus, University of New South Wales, Sydney, Australia

テニス肘への手術も同じようにプラセボと変わらない結果でした。

◆腰部脊柱管狭窄症への手術と保存的アプローチを比較した研究

コクランのシステマティックレビュー/ 5つのRCT/腰部脊柱管狭窄症/643人:

「腰椎脊柱管狭窄症に対して、外科的治療と保存的アプローチの
どちらが優れているかを結論付ける自信はほとんどなく、臨床の指針となるような新たな提言はできない。

ただし、外科的ケースでは、副作用の割合は10%から24%の範囲であり、保存療法による副作用は報告されていない。

非外科的治療と比較して、外科的治療では明確な利益は観察されなかった。 

Surgical versus non-surgical treatment for lumbar spinal stenosis (Review)
Fabio Zaina, Christy Tomkins-Lane, Eugene Carragee, Stefano Negrini

どちらがいいとは言えないが、外科手術だと副作用があったという結論です。

◆切除した椎間板を見せた?という研究。

腰椎の椎間板を切除して、それを見せた患者と見せなかった患者で、どう効果が変わるかを調べたという興味深い研究です。

前向き・二重盲検・ランダム化・対照試験/実験群38人、対照群36人:

「腰椎のマイクロ椎間板切除術後に、切除した椎間板の破片を与えられた患者は、与えられなかった患者と比較して、坐骨神経痛、腰痛、下肢の麻痺、下肢の脱力感、鎮痛剤の摂取量減少などの改善を含む、著しく優れた転帰が報告された。

※与えられた=見せられた

切除された椎間板の破片を提示することは、腰椎のマイクロ椎間板切除術後の転帰を改善するための安価で効果的な方法である。」

Improved outcome after lumbar microdiscectomy in patients shown
their excised disc fragments: a prospective, double blind, randomised, controlled trial
M J Tait, J Levy, M Nowell, C Pocock, V Petrik, B A Bell, M C Papadopoulos

つまり、切除したんだなという「視覚的なプラセボ」は効果が高いと言えます。

◆すべり症が痛みの原因というより、たまたま腰痛と共存したという研究

システマティックレビュー:

「脊椎分離症/脊椎分離すべり症が、腰痛と同時に存在する可能性があり、観察された手術やその他治療法の影響は、主に害のない自然経過と非特異的な治療効果によるものである。」

「まず第一に、非特異的治療効果を過小評価することは、外科専門分野における長年の根本的な問題であり、著者自身も外科的「プラセボ反応」の重要性を指摘している。

Systematic review of observational studies reveals no association between
low back pain and lumbar spondylolysis with or without isthmic spondylolisthesis
Nicholas S. Andrade • Carol M. Ashton • Nelda P. Wray • Curtis Brown • Viktor Bartanusz

◆パラダイムシフトが必要

システマティックレビュー/6つのランダム化比較試験/ 277人:

疼痛の組織ベースモデルからのパラダイムシフトは、脳を含む疼痛のニューロマトリックスモデルにつながっている。

4種類の整形外科手術だけで構成された、6つのRCTの結果を注意深く推定すべきであるが、今回のレビューの結果は、本物の手術と比較して、偽手術が痛みと障害において同様の結果をもたらすことを示している。

…偽手術が、実際の手術と同様の結果をもたらすという事実は、痛みの調節に対する脳の強力な貢献を強調している。

Sham Surgery in Orthopedics: A Systematic Review of the Literature
Adriaan Louw, PT, PhD, Ina Diener, PT, PhD, Ce ́sar Fernandez-de-las-Pen~as, PT, PhD, Emilio J. Puentedura, PT, DPT, PhD

◆まとめ

これらのことから…

・変形性膝関節症への手術

・肩関節唇損傷への手術

・テニス肘への短橈側手根伸筋の手術

はプラセボと同じ、もしくは副作用のことを考えるとプラセボ以下の結果となるということが推測されます。

また、狭窄症への手術も同じように保存的アプローチと効果は変わらないということがわかります。

ではなぜ痛みが減ったり機能が改善されたりしたのでしょうか?

◆考察

それは椎間板を切除して破片を見せた方が効果が大きかったという研究からもわかりますが、プラセボ効果による鎮痛だと考えられます。

特に、視覚的なプラセボ効果の高さがこの研究から読み解くことが出来ます。

最近流行の筋膜の滑走性を良くして、筋膜性の痛みを減らすという仮説がありますが、あの行為もディスプレイという強力な視覚と、注射針という侵害受容刺激におけるDNIC効果(新しい痛みによって元からあった痛みが減る)による鎮痛という可能性もあります。

そして最後の論文にあるように、組織ベースの疼痛モデルからパラダイムシフトして、脳を含めた神経系ベースに頭の中を変革する必要があります。

あなたはそのまま組織ベースでいますか?

それとも神経系ベースに変われますか?

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