腰椎椎間板ヘルニアを組織や構造だけでみてよいのか|整形外科領域の臨床再考

目次

腰椎椎間板ヘルニアとは何か|まず押さえたい基本像

腰椎の症状をみるときは、類似した診断名を最初に分けて考える必要があります。

変形性腰椎症は腰椎全体の加齢性変化をまとめた名称で、椎間板や椎間関節、骨棘などの変化を含む病態です。腰椎椎間板ヘルニアは椎間板が突出し、神経根症状につながる病態です。

腰部脊柱管狭窄症は神経の通り道が狭くなり、馬尾神経や神経根に関連する症状が出る病態です。

腰椎すべり症は椎骨が前後にずれ、腰痛や神経症状を伴うことがある病態で、脊椎圧迫骨折は椎体がつぶれる骨折であり、変性疾患とは異なる病態です。

腰椎椎間板ヘルニアでは、腰痛だけでなく、殿部から下肢にかけての放散痛、しびれ、灼熱感、筋出力低下など、神経根症状が出ることがあります。

咳やくしゃみ、前かがみ、座位保持で増悪する例もありますが、画像所見と症状の強さが常に一致するわけではありません。

一般には、椎間板の変性や突出による神経根への圧迫や刺激で説明され、保存療法としては生活指導、薬物療法、運動療法、神経ブロック、徒手療法などが選択されます。

ただし、進行する筋力低下、膀胱直腸障害、会陰部の感覚異常、急速な神経脱落症状がある場合は、保存的介入のみで進めず医師評価を優先すべきです。

最近の研究からみた腰椎椎間板ヘルニア|いま押さえたい知見

腰椎椎間板ヘルニアでは、画像所見と症状の関係、無症候者にみられる異常所見、手術にまつわる意味づけを分けて考える必要があります。

ヘルニアがあること自体と、現在の症状の主因であることは同じではありません。

無症状の成人3110人・腰椎・システマティックレビュー:

「脊椎変性の画像所見は無症状の割合が高く、年齢とともに増加する。このような画像による所見は一般的で通常のことであり、加齢に関係しているものであると結論付けた。」

Systematic Literature Review of Imaging Features of Spinal Degeneration in Asymptomatic Populations.

まず押さえたいのは、脊柱の変性所見そのものが無症候でも広くみられるという点です。

腰痛と椎間板の膨隆や突出は偶然であるという研究:無症状の98名にMRI

「被験者の52%が少なくともレベル1で膨隆、27%が突出を有し、1%が脱出を有していた。
38%は1つ以上の椎間板の異常を有していた。膨隆の罹患率は、年齢とともに増加したが、突出の罹患率は増加しなかった。」

「腰椎のMRI検査では、腰痛のない多くの人々は、椎間板の膨隆または突出を有するが、脱出はない。」

「これらの知見と腰痛の罹患率が高いことを考えると、腰痛のある人の膨隆または突起のMRIによる発見はしばしば偶然である。」

Magnetic resonance imaging of the lumbar spine in people without back pain. Jensen MC, et al. N Engl J Med. 1994.

腰椎でも、膨隆や突出は症状のない人に少なくありません。

腰痛未経験で無症状の67人にMRIという研究:

「60歳以上のグループでは36%が髄核ヘルニアがあり、21%は脊髄狭窄があった。つまり約57%で異常があった。

MRI画像上の異常は手術が計画される前に、年齢、あらゆる臨床的徴候、症状が厳密に相関しなければならないと結論した。」

Abnormal magnetic-resonance scans of the lumbar spine in asymptomatic subjects.
A prospective investigation.

高齢の無症候者にもヘルニア像はみられるため、画像と臨床所見を切り離さずにみる必要があります。

無症状のテニス選手33人/腰椎MRI:

「33人中28人は椎間関節変性、滑膜嚢胞、椎間板変性、椎間板ヘルニア、腰椎分離症など少なくとも1つの異常が見られた。」

MRI findings in the lumbar spines of asymptomatic, adolescent, elite tennis players.」

若いアスリートでも画像異常は存在し、所見だけで病的状態を決めにくいことがわかります。

前向き・二重盲検・ランダム化・対照試験:

「腰椎のマイクロ椎間板切除術後に、切除した椎間板の破片を与えられた患者は、与えられなかった患者と比較して、著しく優れた転帰が報告された。」

Improved outcome after lumbar microdiscectomy in patients shown their excised disc fragments

手術後の転帰には、組織そのものだけでなく、患者様が介入をどう意味づけるかという中枢神経による文脈認識も影響しうることを示します。

▶︎ 脊柱MRI異常は腰痛の原因なのか

▶︎ 整形外科領域の臨床再考とは何か

疼痛科学からみた腰椎椎間板ヘルニア|症状の振る舞いをどう読むか

腰椎椎間板ヘルニアでは、画像でみえる突出の大きさだけで、症状の強さを十分に説明できるとは限りません。

腰部や下肢からの入力が中枢神経でどのように処理されているかによって、痛み、しびれ、過敏さ、動きにくさの感じ方が変わることもあります。

また、手術後に症状の改善がみられたとしても、その変化が手術手技そのものの効果だけで起きたとは限りません。自然経過、期待、安心感、術後リハビリ、治療文脈などの影響も含めて、手術の効果は慎重に考える必要があります。

▶︎ 手術とプラセボ効果をどう考えるか

腰椎椎間板ヘルニアを末梢神経からどうみるか|分布から読み直す

腰椎椎間板ヘルニアとしてまとめられる訴えの中にも、脊髄神経後枝やその皮枝、上殿皮神経、中殿皮神経の分布を踏まえた方が読みやすいケースがあります。

腰背部中央から傍脊柱部の張り感や痛みでは脊髄神経後枝やその皮枝、腸骨稜後方から殿部上外側へ広がる訴えでは上殿皮神経との重なりを確認したいところです。

仙骨周囲から殿部中央にかけての表在的な違和感では中殿皮神経の分布が参考になります。

腰殿部の表在症状をすべてヘルニアとして一括りにするのではなく、腰背部の症状なのか、殿部外側や殿部中央の症状なのかを分けてみることで、評価の焦点は変わります。

また、下肢へ広がるしびれや放散痛がある場合は、腰殿部の表在症状と分けてみる必要があります。

どこまで広がるのか、接触過敏を伴うのか、筋出力低下まであるのかを追うことで、腰殿部の症状と神経根に関連する症状を切り分けやすくなります。

▶︎ 脊髄神経後枝とは何か

▶︎ 脊髄神経後枝の皮枝とは何か

▶︎ 上殿皮神経とは何か

▶︎ 中殿皮神経とは何か

結論

腰椎椎間板ヘルニアをみる際には、まずヘルニア像の有無だけで判断せず、そのうえで腰痛が中心なのか、殿部から下肢への放散痛やしびれが前景に出ているのかを丁寧に読むことが大切です。

診断名や画像所見だけで終えず、症状分布と動作での変化をみることで、評価の焦点はより明確になります。

 


関連コラム|ペインサイエンスの理解を深める

▶︎ ペインサイエンスとは何か

▶︎ 慢性疼痛とは何か

▶︎ 痛みをどう理解するか

神経科学の理解を深める|DNM JAPAN 理論3つの軸

DNM JAPANでは、ペインサイエンス、末梢神経の構造と機能、そして臨床家に必要なクリティカルシンキングを、神経科学の視点から整理しています。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
目次