骨盤の歪みは本当にあるのか|骨盤矯正・仙腸関節・腰痛を研究から解説

目次

はじめに|骨盤の歪みとは何か

整体や姿勢矯正の分野では「骨盤の歪み」という言葉がよく使われます。

  • 骨盤が傾いている
  • 骨盤がねじれている
  • 骨盤の高さが違う

このような状態が 骨盤の歪み と説明されることが多くあります。

そして多くの施術では 骨盤矯正 によって腰痛や肩こりが改善すると説明されます。

しかし解剖学的に見ると、骨盤は左右の寛骨と仙骨から構成される非常に強固な骨構造です。

骨盤の動きの中心となるのは 仙腸関節(sacroiliac joint) です。

痛みは単純な構造問題ではなく、末梢神経からの侵害受容入力と中枢神経処理によって生じると考えられています。

▶︎ 慢性疼痛とは何か

骨盤の歪みの原因とは何か

一般的には骨盤の歪みの原因として

  • 姿勢の悪さ
  • 筋肉のアンバランス
  • 脚の長さの違い

などが説明されることがあります。

しかし研究では、骨格構造や姿勢と疼痛との関連性は必ずしも強くないことが示されています。

骨格の形状や位置だけで痛みを説明することは難しく、疼痛は神経系を含む複雑な要因によって生じると考えられています。

▶︎ 画像診断と痛みの関係とは

骨盤はどのくらい動くのか|仙腸関節の可動性

まず仙腸関節の可動性に関する研究を見ていきます。

研究① 仙腸関節の可動性

「予備的な二次元インビトロ実験に基づいた、仙腸関節の移動度を測定するための三次元立体写真法。男性15名および女性9名の被験者24名の骨内マーカーで行った。

回転と平行移動の平均値は低く、男性では1.8度/0.7mm、女性では1.9度/0.9mmであった。性別または年齢に関して統計学的有意差は示されなかった。」

The mobility of the sacroiliac joint in healthy subjects.
Kissling RO, et al. Bull Hosp Jt Dis. 1996.

この研究では仙腸関節の可動性は非常に小さいことが示されています。

回旋は約2度、平行移動は1mm未満です。

骨盤が大きく歪むという一般的なイメージとは異なり、仙腸関節は主に体重を安定して伝える構造として機能している可能性があります。

研究② 仙腸関節の動きと症状

「仙腸関節障害を有する25人の患者(21人の女性および4人の男性)を、生理的ポジションならびに極端な生理的ポジションでのレントゲン立体写真測定法で研究した。

回転は小さく、平均2.5度(0.8度〜3.9度)であった。平行移動は平均0.7mm(0.1-1.6mm)であった。
症状のある関節と症状の無い関節の間に差はなかった。」

Movements of the sacroiliac joints.
Sturesson B, et al. Spine (Phila Pa 1976). 1989.

症状のある仙腸関節と無症状の関節の可動性に差が見られなかったことは重要です。

これは仙腸関節の動きそのものが痛みの原因とは限らないことを示唆しています。

骨盤の歪みは触診で分かるのか

臨床では骨盤の高さや仙腸関節の動きを触診によって評価する方法が広く使われています。

しかし、その信頼性については多くの研究で検証されています。

研究③ 仙腸関節テストの信頼性

「仙腸関節領域の機能不全の人々を特定するための文献で提唱されている、骨盤の対称性または仙腸関節の動きによる4つのテストに基づいて行われた評価の被験者間の信頼性を検討した。

腰痛および片側の臀部痛を訴えた65人の患者 4つのテストで得られた測定値の信頼性は臨床的には低すぎると思われる。

このテストで測定誤差が認められたため、著者らは、試験結果に基づいて適切な治療法を選択しないか、または介入を間違った側に適用する可能性が高いと考えている。」

Evaluation of the presence of sacroiliac joint region dysfunction using a combination of tests:
Riddle DL, et al. Phys Ther. 2002.

骨盤の対称性や仙腸関節の動きを評価する臨床テストの信頼性は低いことが示されています。

つまり触診のみで骨盤の歪みを正確に判断することは難しい可能性があります。

研究④ 仙腸関節テストのレビュー

「文献では、仙腸関節において痛みを引き起こしたり関節可動性を検出するように設計された多くのテストが記載されている。

…これらのテストの信頼性を調査した11の研究をレビューした。 仙腸関節モビリティテストを受け入れて、日々の臨床診療に組み込むための根拠となるエビデンスはない。

この方法論的レビューの結論は、臨床現場での仙腸関節の可動性および疼痛誘発テストを支持するエビデンスはない。」

Clinical tests of the sacroiliac joint.
van der Wurff P, et al. Man Ther. 2000.

このレビューでは複数研究を分析した結果、仙腸関節の可動性テストを臨床診療に組み込む根拠となるエビデンスはないと結論づけられています。

つまり骨盤の歪みや関節の動きを触診によって正確に評価できるという前提には、科学的な裏付けが十分ではない可能性があります。

骨盤矯正は効果があるのか

骨盤矯正や徒手療法では、骨盤の歪みを整えることで痛みが改善すると説明されることがあります。

しかし骨盤の位置そのものが変化するのかについては研究で検証されています。

研究⑤ 仙腸関節診断の信頼性

「仙腸関節病理を診断するために触診を利用する現在の臨床方法は、信頼性が低く、文献において無効であることが判明しており、臨床的有用性に限界がある可能性がある。」

Three-Dimensional Movements of the Sacroiliac Joint:
Adam Goode, Eric J Hegedus, Philip Sizer, Jr, Jean-Michel Brismee, Alison Linberg, and Chad E Cook

このシステマティックレビューでは、仙腸関節の動きが臨床的に検出できるほど大きくない可能性が指摘されています。

さらに触診によって仙腸関節の機能不全を診断する方法の信頼性は低いと報告されています。

骨盤の歪みを触診で特定し、その結果に基づいて治療方針を決める方法には臨床的な限界がある可能性があります。

研究⑥ マニピュレーションの検証

「マニュピレーションが腸骨と仙骨の間の位置に影響を与えることができるかどうか、そして仙腸関節の位置検査が有効かどうかを調査する。

片側仙腸関節機能不全を示す症状と仙腸関節テストの結果10人の患者を募集した。

治療の前後に、患者を立位にしてレントゲン立体写真測量分析を行った。

10人の患者のいずれにおいても、マニピュレーションは腸骨に対する仙骨の位置を変更しなかった。

仙腸関節のマニピュレーションは異なるタイプの臨床試験結果を正常化したが、レントゲン立体写真分析によると仙腸関節の位置の変化を伴わなかった。したがって、位置テストの結果は無効だった。

想定されるプラスの効果は亜脱臼の減少の結果ではないので、マニュピレーションの効果のさらなる研究は軟部組織の反応に焦点を合わせるべき。」

Manipulation does not alter the position of the sacroiliac joint.
Tullberg T1, Blomberg S, Branth B, Johnsson R.

この研究では徒手操作によって仙腸関節の位置が変化するかを検証しましたが、骨の位置変化は確認されませんでした。

臨床テストの結果は改善したものの関節位置は変化していないため、徒手療法の効果は骨盤の位置矯正ではなく神経系や軟部組織の反応による可能性が示唆されています。

骨盤矯正は意味があるのか

ここまで見てきた研究では、仙腸関節の動きは非常に小さく、触診による評価の信頼性は低いことが示されています。

また、徒手療法やマニピュレーションによって骨盤の位置そのものが変化するという明確な証拠も確認されていません。

しかし一方で、骨盤周囲への徒手療法によって症状が改善することは臨床でしばしば経験されます。

この点について研究⑥では、徒手療法後に臨床テストは改善したものの、仙腸関節の位置は変化していなかったことが報告されています。

つまり、

症状の改善=骨盤の位置矯正

とは限らない可能性があります。

徒手療法による変化は

  • 神経系の反応
  • 侵害受容入力の変化
  • 軟部組織の反応
  • 感覚入力の変化

などによって説明される可能性があります。

この視点は、痛みを構造だけで説明する PSBモデル(Postural・Structural・Biomechanical) の限界とも関係しています。

▶︎ 姿勢・構造モデル(PSBモデル)の限界

PSBモデルでは、姿勢や骨格の歪み、筋バランスなどの構造的問題が痛みの原因と説明されることが多くあります。

しかし近年の研究では、姿勢や骨格構造と疼痛の関連は必ずしも強くないことが示されています。

疼痛は単純な構造問題ではなく、末梢神経からの侵害受容入力と中枢神経処理によって生じる複雑な現象です。

神経の視点から見る骨盤周囲の痛み

骨盤周囲の痛みは骨盤の歪みだけで説明できるとは限りません。

皮膚には多くの末梢神経が分布しており、皮膚からの感覚入力は身体感覚や疼痛に大きく影響します。

▶︎ 皮神経とは何か

骨盤周囲の痛みでは 中殿皮神経(superior cluneal nerve) が関与することも知られています。

中殿皮神経は腰椎後枝から分岐し、腸骨稜付近を通過して殿部皮膚に分布する神経です。

この神経が通過する腸骨稜周囲では圧迫や摩擦が起こりやすく、腰痛や殿部痛の原因となることがあります。

つまり骨盤周囲の痛みは

  • 骨盤の歪み
  • 関節の問題

だけではなく

  • 末梢神経の状態

によっても影響を受ける可能性があります。

結論|骨盤の歪みは痛みの原因とは限らない

研究では

  • 仙腸関節の可動性は非常に小さい
  • 骨盤評価テストの信頼性は低い
  • 徒手療法で骨の位置は変化しない

ことが示されています。

つまり骨盤の位置や構造だけで痛みを説明することは難しく、疼痛は末梢神経入力や中枢神経処理など複数の要因によって生じる可能性があります。

 


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