PSBモデルとは何か|姿勢・構造・バイオメカニクスと疼痛
徒手療法や運動療法の臨床では、姿勢の歪み、骨盤のアライメント、マッスルインバランス、関節の配列などの構造的要因が痛みの原因として説明されることがあります。
このように、姿勢・構造・生体力学から疼痛を説明する理論は、PSBモデル(Postural・Structural・Biomechanical)と呼ばれています。
PSBモデルでは、身体の非対称性や構造的な変化が機械的ストレスを生み、その結果として筋骨格系の疼痛が生じると考えられます。
そのため、姿勢矯正、骨盤アライメント調整、筋バランス改善などの介入は、このモデルを理論的背景として発展してきました。
PSBモデルは長年にわたり筋骨格系医療やトレーニング分野で広く用いられてきましたが、近年の論文では姿勢や構造と疼痛の関係は想定されていたほど単純ではない可能性が示されています。
本記事では、PSBモデルの概念と臨床的背景を整理し、姿勢、構造、マッスルインバランスと疼痛の関係について、論文をもとに批判的に検討します。
マッスルインバランスとは何か
マッスルインバランスとは、身体の前後左右の筋活動バランスが崩れることで、関節や姿勢に影響が生じるという考え方です。
この概念では、特定の筋肉が弱くなる、あるいは過剰に働くことで関節の位置や運動パターンが変化し、その結果として痛みや障害が生じると説明されます。
この考え方は、姿勢・構造・生体力学から疼痛を説明するPSBモデルと密接に関係しています。
PSBモデルでは、姿勢の歪みや関節アライメントの変化が疼痛を引き起こすと考えられ、その原因としてマッスルインバランスが想定されることが多いためです。
マッスルインバランスの代表的な概念として知られているのが、ヤンダが提唱した交差性症候群です。
これは、特定の筋肉群が過剰に働き、別の筋肉群が抑制されることで特徴的な姿勢パターンが形成されるというモデルです。
例えば、上位交差性症候群では胸筋や僧帽筋上部などが過活動となり、深部頸屈筋や僧帽筋下部が弱化すると説明されます。
また下位交差性症候群では腸腰筋や脊柱起立筋が過活動となり、腹筋群や殿筋群が抑制されると考えられています。
このようなモデルは、姿勢異常や筋肉の不均衡が疼痛を引き起こすというPSBモデルの説明と結びつきながら、運動療法や姿勢矯正プログラムの中で広く用いられてきました。
しかし近年の論文では、筋肉の左右差や筋機能の非対称性は必ずしも疼痛と一致しない可能性が示されています。
この点については、後半で論文を整理します。
PSBモデルはなぜ広まったのか
PSBモデルが広く普及した背景には、姿勢や構造が臨床で観察・触診によって確認できるという特徴があります。
骨盤の傾き、背骨のカーブ、筋肉の左右差などは視覚的に理解しやすく、症状の原因として説明しやすい要素でした。
また20世紀の筋骨格系医療では、生体力学による身体理解が主流であり、身体を機械構造的に捉えるモデルが広く用いられていました。
この背景の中で、構造やアライメントから疼痛を説明するPSBモデルは、臨床的に受け入れられやすい理論でした。
PSBモデルが現在も臨床で使われ続けている理由
論文では姿勢や構造と疼痛の関係は単純ではないことが示されていますが、PSBモデルは現在も多くの臨床現場で用いられています。
その理由の一つは、姿勢や構造が評価しやすく、臨床家と患者様の間で共有しやすい説明モデルであることです。
視覚的に確認できる身体の特徴は、症状の理解を助ける説明として受け入れられやすい側面があります。
さらに、運動療法や姿勢指導、トレーニングなど多くの介入方法がPSBモデルと結びつきながら発展してきた歴史もあります。
そのため臨床教育やトレーニングの中で、このモデルが長く継承されてきました。
しかし論文を整理すると、姿勢や構造のみで疼痛を説明することには限界がある可能性が示されています。
PSBモデルの前提|姿勢や構造は痛みを説明できるのか
PSBモデルでは、脊柱のカーブや骨盤アライメント、椎間板変性などの構造的問題が腰痛の原因であると説明されることがあります。
しかし論文では、姿勢や構造と腰痛の関連は必ずしも明確ではないことが報告されています。
腰椎の形態と将来の腰痛
脊柱の非対称性や腰椎前弯、画像所見が将来の腰痛をどの程度説明できるかを検討した論文では、構造の偏りがそのまま疼痛の予測因子にはなりにくいことが示されました。
若年期の脊柱の非対称性、成人期の前弯角度、局所的な腰椎角度や可動域の差、さらにX線やMRIの所見まで含めて検討しても、将来の腰痛や障害を十分には予測できませんでした。
34,902人の双子を含む大規模データも参照されており、年齢差や変性所見だけで腰痛頻度を単純に説明できない点が示されています。
この結果からは、構造の偏りが存在することと、患者様が痛みを経験することは別問題として考える必要があります。
「それ以来、いくつかの研究は脊椎/椎間板変性と腰痛との間の明確な関係を示すことができなかった。」
The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain.
Lederman, et al.
姿勢評価は信頼できるのか
PSBモデルの多くは、姿勢評価を前提にしています。
しかし、そもそも姿勢が安定した指標なのかという問題があります。
立位姿勢の再現性
また別の論文では、無症状者と腰痛患者の繰り返し立位を比較し、立位姿勢そのものの再現性がどの程度あるかが検討されました。
その結果、無症状者でも仙骨方向に20%を超える変動が約53%、30%を超える変動が約31%にみられ、立位は個人内でもかなり揺らぐ指標であることが示されました。
つまり、1回の立位観察だけで固定的な姿勢異常を決めつけるのは難しく、姿勢評価には測定対象そのものの不安定さが含まれています。
少なくとも、姿勢を静的で再現性の高い原因指標として扱う考え方には慎重さが必要です。
「したがって、立位の変動性は予測可能ではなくランダムである。」
How do we stand? Variations during repeated standing phases of asymptomatic subjects and low back pain patients.
Schmidt, et al.
骨盤アライメント・脚長差・足部アライメント
PSBモデルでは、骨盤の歪みや脚長差、足部アライメントも腰痛の原因として説明されることがあります。
骨盤アライメントと腰痛
骨盤の傾斜や仙骨アライメントと腰痛との関係を整理した論文では、骨盤の非対称性と症状の間に一貫した関連は確認されませんでした。
骨盤の角度や左右差は臨床で目につきやすい所見ですが、それ自体が腰痛の主要因であるとは言えない内容です。
つまり、骨盤の見た目の偏りをそのまま痛みの説明に使うと、説明が過剰に単純化される可能性があります。
The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain.
Lederman, et al.
脚長差と腰痛
別の論文では、脚長差がどの程度一般的で、どの程度から臨床的意味を持つのかが整理されています。
その内容では、多くの人に脚長差がみられ、平均は約5mmであり、臨床的に有意とみなされるのはおよそ20mm前後に達した場合とされています。
軽度の脚長差は珍しいものではなく、腰痛との相関も確認されていませんでした。
この結果からは、わずかな脚長差を痛みの原因として直結させる説明には無理があります。
「脚長差と腰痛との間に相関関係は見られなかった。」
The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain.
Lederman, et al.
足部アライメントと腰痛予防
足部の力学や装具による矯正が腰痛予防につながるかを扱った論文でも、期待されるほど明確な効果は示されていません。
足元の配列を整えれば腰痛が防げるという説明は直感的ではありますが、予防効果を裏づける強い根拠は乏しい内容でした。
つまり、足部構造の補正だけで腰痛発生を管理できるという見方は支持されていません。
「装具による矯正が腰痛の予防に効果がないという強いエビデンスがある。」
The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain.
Lederman, et al.
筋肉の硬さ・筋力・マッスルインバランス
筋肉の硬さ、筋力不足、マッスルインバランスも、PSBモデルでは痛みの原因として説明されることがあります。
筋の硬さや持久力は腰痛を予測できるのか
筋の柔軟性や持久力を将来の腰痛と結びつけた論文では、大腰筋やハムストリングの硬さ、体幹筋の持久力だけでは腰痛を十分に予測できないことが示されました。
筋の硬さや筋持久力は臨床で評価しやすい項目ですが、単独では説明力が高くないという内容です。
少なくとも、硬い筋を見つけたから痛みの原因が分かったとは言えません。
「体幹筋の低い持久力は腰痛と関連しないという強いエビデンスがある。」
The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain.
Lederman, et al.
股関節伸展可動域と姿勢アライメント
股関節伸展可動域と姿勢アライメントの関係を検討した論文では、両者の仮説的関係そのものが再評価の対象になっています。
臨床では、股関節が伸びないから骨盤前傾や腰椎前弯が生じると説明されることがありますが、その連結は自明ではありません。
つまり、可動域の制限と姿勢異常を一直線につなぐ説明は再検討が必要です。
Relationship between hip extension range of motion and postural alignment.
Heino, et al.
腰椎前弯角度と腰痛
腰痛のある女性とない女性を比較した論文では、腰椎前弯角度に有意差は確認されませんでした。
腰椎前弯の増減はPSBモデルで頻繁に使われる説明ですが、少なくともこの比較では、痛みの有無を分ける指標にはなっていません。
この結果からは、前弯角度の見た目だけで臨床像を判断することの難しさが分かります。
Study of patients with and without low back pain. Lumbar lordosis.
Murrie, et al.
筋力低下とアライメントの関係
筋力低下、腰痛、そして腰椎前弯や骨盤傾斜との関連を検討した論文では、筋力低下と腰痛の関連はみられた一方で、アライメントとの関連は確認されませんでした。
ここで重要なのは、筋機能に何らかの差があっても、それがそのまま姿勢アライメントの異常として表れるわけではない点です。
つまり、筋力低下を確認しても、それを骨盤傾斜や前弯異常と結びつけて説明するには飛躍があります。
Relationship between mechanical factors and incidence of low back pain.
Nourbakhsh, et al.
体重と腰痛
PSBモデルでは体重増加による機械的負荷が腰痛の原因になると説明されることがあります。
しかし論文では、この関係も単純ではないことが報告されています。
体重と腰痛の関係を扱った論文では、過体重や肥満と腰痛との関連は強くなく、重さによる累積負荷だけで椎間板や腰痛を説明できないことが示されています。
機械的負荷はゼロではありませんが、体重が重いほど単純に腰痛が起こるという構図は支持されていません。
つまり、荷重の大きさだけで痛みの有無を説明する見方には限界があります。
「より重い体重による累積的負荷が椎間板に有害ではないことが示されている。」
The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain.
Lederman, et al.
妊娠と腰痛
妊娠中には姿勢や骨盤アライメントが変化することが知られています。
しかしこの変化も、腰痛との直接的な関連は確認されていません。
妊娠中の前弯増加や骨盤傾斜の変化を扱った論文では、こうした姿勢変化と腰痛との関連性は確認されませんでした。
妊娠は姿勢や体重、支持組織の状態が大きく変わる時期ですが、それでも構造変化だけでは疼痛を説明しきれないことになります。
少なくとも、姿勢変化が大きい時期ですら、それだけで腰痛を決められない点は重要です。
The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain.
Lederman, et al.
肩・頸部の姿勢と痛み
姿勢と痛みの関係は、肩や頸部でも論文が行われています。
肩痛と頭部・肩の位置
肩の痛みがある人とない人を比較した論文では、頭部や肩の位置に差があるか、また筋肉の不均衡が痛みの説明になるかが検討されました。
その結果、両群で頭部と肩の位置に差は認められず、姿勢や筋肉の不均衡が原因であるという根拠も見つかりませんでした。
つまり、肩痛をみたときに、まず姿勢不良や筋バランス異常を主因とする説明は支持されていません。
Subacromial impingement syndrome: The role of posture and muscle imbalance.
Lewis, et al.
肩のオーバーユース損傷と姿勢
また別の論文では、肩のオーバーユース損傷がある人と健常者の姿勢が比較されています。
肩甲骨の外転、回旋、胸椎中央部の湾曲を調べても、有意差は確認されませんでした。
この結果からは、肩障害の背景を静的姿勢だけで説明するのは難しいと考えられます。
Posture in patients with shoulder overuse injuries and healthy individuals.
Greenfield, et al.
胸椎後弯と肩痛
胸椎後弯と肩の痛み、可動域、機能との関係を扱った論文では、胸椎姿勢と肩痛の関連は一貫していませんでした。
臨床では、胸椎後弯が強いから肩が痛いという説明がされがちですが、その単純な因果関係は支持されていません。
つまり、胸椎の見た目のカーブを主因に置く説明は慎重に扱う必要があります。
Is thoracic spine posture associated with shoulder pain, range of motion, and function?
Barrett, et al.
頸椎カーブと頸部痛
頸椎の湾曲と頸部痛との関連を調べた論文でも、両者の間に有意な関連は認められませんでした。
頸椎前弯やストレートネックのような形態所見は説明に使われやすい一方で、痛みとの対応関係は単純ではありません。
少なくとも、頸椎カーブだけで患者様の首の痛みを説明することはできません。
The association between cervical spine curvature and neck pain.
Grob, et al.
姿勢矯正エクササイズの研究
姿勢矯正エクササイズの効果についても論文が行われています。
ストレッチと筋力強化で肩甲骨位置は変わるのか
肩の運動に対するストレッチングと強化アプローチを検討した論文では、運動時のいくつかの指標には変化がみられた一方で、安静時の肩甲骨位置は変化しませんでした。
ここで重要なのは、機能的な変化があっても、それが静的な姿勢配列の変化と同義ではないことです。
つまり、エクササイズの効果を姿勢矯正の成功として短絡的に解釈することはできません。
Stretching and strengthening exercises: Their effect on three-dimensional scapular kinematics.
Wang, et al.
レジスタンス運動で姿勢偏位は変わるのか
姿勢調整を目的としたレジスタンス運動を検討した論文でも、姿勢偏位を客観的に変化させる明確なデータは確認されていません。
運動介入は症状や機能に有益であることがありますが、それを姿勢の再配列として説明するには根拠が足りません。
この結果からは、運動の価値とPSB的な説明は分けて考える必要があります。
A review of resistance exercise and posture realignment.
Hrysomallis, et al.
筋肉の対称性と疼痛
筋肉の左右差は問題とされることがありますが、論文では必ずしも単純ではありません。
脊椎カーブと健康状態
脊椎湾曲と健康との関係を整理した論文では、両者の間に強い証拠は見つかっていません。
脊椎カーブの違いは存在しても、それが健康状態や疼痛と一対一で対応するわけではないという内容です。
つまり、湾曲の見た目だけで健康や不調を評価することはできません。
Spinal curves and health: a systematic critical review.
Christensen, et al.
腰椎可動域と骨盤傾斜
腰痛の有無で腰椎・骨盤運動を比較した論文では、腰痛群で腰椎可動域の低下はみられた一方、腰椎前弯角度や骨盤傾斜には差がありませんでした。
ここでは、動きの特徴と静的アライメントは別のものとして現れています。
少なくとも、骨盤傾斜や前弯角度だけを見ても、腰痛の有無は説明できません。
Comparing lumbo-pelvic kinematics in people with and without back pain.
Laird, et al.
無症状者にも多い骨盤前傾
無症状者における骨盤傾斜を調べた論文では、男性の約85%、女性の約75%に骨盤前傾が確認されました。
臨床で問題視されやすい骨盤前傾が、症状のない人にも広く存在することを示す結果です。
つまり、骨盤前傾という所見だけで異常や原因を決めることはできません。
Assessment of the degree of pelvic tilt within a normal asymptomatic population.
Herrington, et al.
エリート選手の筋非対称
エリート選手の腰方形筋や大腰筋の左右差を調べた論文では、筋肉の非対称が確認されています。
これは、高いパフォーマンスを持つ無症候または競技継続可能な集団にも、左右差が珍しくないことを示す内容です。
この結果からは、筋非対称を見つけただけで障害や疼痛の証拠とは言えません。
Psoas and quadratus lumborum muscle asymmetry among elite Australian Football League players.
Hides, et al.
対称性の方が腰痛と関連した例
また別の論文では、クリケットの速球投手において、腹部筋形態の非対称ではなく対称性の方が腰痛と関連していました。
この結果は、非対称を一律に問題とみなす発想そのものを揺さぶります。
つまり、左右差があるから悪いという単純な見方は、論文の結果と一致しません。
Symmetry, not asymmetry, of abdominal muscle morphology is associated with low back pain in cricket fast bowlers.
Gray, et al.
結論
本記事では、姿勢、構造、生体力学、マッスルインバランスと疼痛の関係について、PSBモデルの視点と論文を整理しました。
PSBモデルは、姿勢の歪み、骨盤アライメント、筋肉のアンバランス、関節構造などから疼痛を説明する理論として広く用いられてきました。
また、交差性症候群のようなマッスルインバランスモデルも、この考え方と結びつきながら臨床に普及してきました。
しかし本稿でみたように、腰椎や頸椎のカーブ、骨盤アライメント、脚長差、足部アライメント、筋肉の左右差、さらには姿勢矯正エクササイズの効果まで含めて見ても、姿勢や構造だけで疼痛を一貫して説明できるとは言えません。
むしろ論文は、構造の偏りが無症状者にも広く存在すること、姿勢そのものの再現性が低いこと、そして機能の変化と静的アライメントの変化は同じではないことを示しています。
つまり、PSBモデルは身体の特徴を観察する枠組みとしては使えても、今ある痛みの主因を特定する理論としては限界があります。
そのため、動きやすさを改善する視点と、疼痛を理解する視点は分けて考える必要があります。
近年の疼痛科学では、疼痛は身体構造だけでなく、末梢神経の状態と入力、侵害受容信号、中枢神経での処理、予測、文脈など複数の要因によって生じる現象として理解されます。
したがって、患者様の痛みを捉えるには、姿勢や構造だけに依存しない多角的な臨床推論が重要です。
※Jason Silvernail 氏はDNM公式書籍の前書きを執筆している理学療法士 / 研究者。
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