コアスタビリティとは何か|体幹安定化エクササイズと腰痛を再検討する

目次

コアスタビリティと腰痛は本当に関係するのか

コアとは、主に体幹部の深層筋、すなわち骨盤底筋群、多裂筋、腹横筋、横隔膜などを指す言葉として使われています。

一般には、これらの筋を鍛えることで体幹が安定し、腰痛の軽減や予防につながるという説明が広く行われています。とくに腹横筋は、腹部のコルセットのような筋として語られ、コアスタビリティ理論の中心に置かれることが少なくありません。

しかし、本当に腹横筋のようなコアマッスルを鍛えることと腰痛には強い関連があるのでしょうか。

また、安定化エクササイズは、腰痛予防や外傷予防に特別な意味を持つのでしょうか。

本稿では、コアスタビリティ理論と腰痛の関係を研究から再検討し、体幹筋、運動介入、神経系の出力という視点から整理します。

コアスタビリティ理論をどう捉えるべきか|体幹筋と腰痛の前提を見直す

コアスタビリティは、体幹の安定性を高めるという意味で使われることが多く、体幹を鍛えること自体が腰痛対策として語られることがあります。

しかし、この考え方には、筋活動、脊柱安定性、運動効果を一つにまとめてしまう問題があります。

症状の改善が起きたとしても、それが本当にコア筋の特異的な強化によるものなのか、あるいは運動そのものの一般的な効果なのかは分けて考える必要があります。

▶︎ PSBモデルとは何か

コアトレーニングと体幹トレーニングはどう違うのか

日本では「体幹トレーニング」という言葉が広く使われていますが、海外では core stability という表現も多く用いられています。

一般的には、コアトレーニングは腹横筋、多裂筋、骨盤底筋、横隔膜などの深部筋を中心にしたトレーニングを指し、体幹トレーニングは腹直筋、腹斜筋、脊柱起立筋、広背筋、股関節周囲筋などを含めた体幹全体の運動を指すことが多くなっています。

ただし、この区分は解剖学的な便宜としては使えても、機能的に明確な境界があるとは限りません。

腹筋の弱さや体重増加は腰痛と本当に関係するのか

コア理論では、腹筋群の弱さや体幹の不安定性が腰痛の背景にあるように語られることがあります。

しかし、その前提をそのまま支持する証拠は強くありません。

妊娠中の女性を扱った下記の論文では、腹部の伸張によってシットアップ能力が低下していても、それ自体が腰痛と結びつくわけではないことが示されています。

実際には、妊婦の一部でシットアップが1回もできない例がみられましたが、腹筋機能の低下と腰痛との相関は確認されませんでした。

さらに、妊娠中の腰痛を局所的な筋骨格系の問題や脊柱安定性の低下だけで説明する証拠は乏しく、体重増加や肥満と腰痛との関連も強くありませんでした。

つまり、腹筋が弱いから腰痛になる、体重が多いから腰痛になる、という単純な説明は支持されにくいと考えられます。

「しかし、シットアップと腰痛との間に相関性はない、すなわち腹筋の強度は腰痛に関連していなかった。」

「脊柱の安定性を含む局所的な筋骨格系の問題が、妊娠中の腰痛の発症に重要な役割を果たしているという証拠はほとんどない。」

The Myth of Core Stability
Lederman, et al.

▶︎ 慢性疼痛とは何か

体幹筋活動と運動制御をどう考えるべきか

立位や歩行で体幹筋はどの程度活動しているのか

日常生活や歩行の中では、深部体幹筋が常に強く働き、脊柱を積極的に固定しているように理解されることがあります。

しかし、実際の筋活動はそのイメージほど大きくありません。

同論文では、立位における深部の脊柱起立筋、腰筋、腰方形筋の活動はごく小さく、被験者によっては検出できないこともあったとされています。

歩行中も腹直筋は平均約2%MVC、外腹斜筋は約5%MVCと低い活動にとどまり、立位で荷重が加わった場合でも、体幹屈筋と伸筋の共収縮は約1〜3%MVC程度でした。

この結果からは、日常姿勢や歩行に必要な脊柱安定性を、高い筋出力や強いコア収縮だけで説明することは難しいと考えられます。

「そのような低い共収縮レベルは、脊髄安定化のために強さの損失が問題になる可能性は低いことを示唆している。」

The Myth of Core Stability
Lederman, et al.

コア安定化運動は筋肥大や筋持久力を強く高めるのか

コア安定化運動は、深部筋を鍛えて体幹機能を高める方法として紹介されることがあります。

しかし、筋肥大や筋力向上という観点からみると、この説明にも限界があります。

同じ論文では、コア安定化運動中の筋活動は、筋肥大や十分な筋力増強に必要とされる水準を大きく下回るとされています。

慢性腰痛に対する4週間のコア安定化運動でも筋持久力の有意な改善は示されず、腹筋の筋力増強には約70%MVCが必要だとする知見とも一致しませんでした。

少なくとも、コア安定化運動の効果を深部筋の筋肥大や特異的な筋力向上として説明するのは難しいと考えられます。

「コア安定化運動の間、『コア筋肉』の最大随意収縮(MVC)は、筋肥大に必要とされるレベルをはるかに下回るので、筋強度の増加をもたらす可能性は低いことが示されている。」

「最近の研究では、腹筋の筋力増強を促進するには70%ものMVCが必要であることが実証されている。」

The Myth of Core Stability
Lederman, et al.

▶︎ 神経系の出力とは何か

脊柱安定性は筋力だけで決まるのか

体幹筋を鍛えることで脊柱が安定し、腰痛を予防できると説明されることがあります。

しかし、脊柱の安定性は単純に筋力だけで決まるものではありません。

脊柱の安定性には、椎間板、靭帯、筋活動、神経系による運動制御などが関与しています。

つまり、安定性は筋肉だけではなく、神経系と受動的構造の相互作用によって維持されています。

そのため、体幹筋の強化だけで腰痛を説明することは難しいと考えられます。

コアマッスルの分離という発想は妥当なのか

コアマッスルだけを分けて使うことはできるのか

腹横筋などの深部筋を他の筋から分けて特異的に使う、あるいは鍛えることができると説明されることがあります。

しかし、この前提にも強い支持はありません。

また別の記述では、コアという筋群を全身の筋活動から切り離して捉える発想そのものに疑問が示されています。

腹横筋だけを他の体幹筋と独立して機能させるという考え方は、解剖学的な分類としては使えても、実際の運動出力を説明する枠組みとしては不十分です。

実際の運動では筋の動員は広範囲に及び、局所筋だけではなく、全身的な協調の中で制御されます。

つまり、インナーマッスルとアウターマッスルを明確に切り分け、特定の深部筋だけを狙って再教育するという考え方には限界があります。

「このような分類は解剖学的だが、機能的な意味はない。運動出力および筋肉の動員は広範囲であり、全身に影響を与える。」

「実際、腹横筋が特異的に活性化できるという研究からの支持はない。」

The Myth of Core Stability
Lederman, et al.

内部フォーカスはパフォーマンスを高めるのか

コアトレーニングでは、腹横筋や深部筋を意識させるような内部フォーカスが重視されることがあります。

しかし、このような注意の向け方が常に有利とは限りません。

内部フォーカスと外部フォーカスを比較した記述では、初心者では内部フォーカスが役立つ場面がある一方で、熟練者では外部フォーカスの方がパフォーマンスを高めやすいことが示されています。

とくに競技場面や熟練した動作では、特定の筋に意識を向けすぎることが、自然な運動制御を妨げる可能性があります。

したがって、腹横筋や体幹筋への注意集中を一律に有効な方法として扱うことはできません。

「この原則は、腹横筋または他の筋肉群への内部フォーカスが、熟練した運動能力を低下させることを強く示唆している。」

The Myth of Core Stability
Lederman, et al.

運動介入の効果をどう再解釈するか

ピラティスや体幹トレーニングはどう理解すべきか

ピラティスは体幹トレーニングとして広く知られており、腹横筋や骨盤底筋などの深部筋を意識する運動として紹介されることが多くあります。

しかし、近年の知見からみると、体幹筋を単独で分離して働かせることは難しく、運動は複数の筋群の協調によって行われます。

そのため、ピラティスや体幹トレーニングを理解する際にも、特定の筋肉だけではなく、動作全体の運動制御として考えることが重要になります。

▶︎ 動作時痛とは何か

なぜコアスタビリティ・エクササイズでも腰痛が改善するのか

コアスタビリティのエクササイズで腰痛が改善されたと感じることがあります。

しかし、その変化をそのまま「コアを鍛えたから」と説明できるとは限りません。

コア安定化訓練と一般的な運動を比較したLederman, et al. の論文では、コアスタビリティ訓練が有望に見える場面はあっても、一般的な運動と比べて特別に優れているとは言えないことが示されています。

改善があったとしても、それは脊柱安定性という特別な理論の正しさを裏づけるものではなく、運動そのものが持つ幅広い影響で説明できる可能性が高い内容です。

また、The corrective exercise trapという論文も、特定の修正運動や局所安定化の理論を過大評価せず、運動介入の効果をより広い文脈で捉える必要があることを示しています。

つまり、コアスタビリティ・エクササイズの改善効果を、体幹深部筋への特異的作用だけで説明するのは難しいということです。

運動による変化は、活動量の増加、恐怖回避の低下、自己効力感の変化、感覚入力の変化、神経系の出力の変化など、複数の要因を含めて理解する必要があります。

「これらの研究は、改善が、脊柱安定性の改善よりもむしろ物理的な運動が患者に及ぼし得る肯定的な効果によるものであることを強く示唆している。」

「コア安定化のエクササイズは、他のどのような運動よりも効果的ではなく、怪我を防ぐこともない。」

The Myth of Core Stability
Lederman, et al.

▶︎ 痛みと可動域制限とは何か

結論|腰痛をコアだけで説明することには限界がある

ここまでの研究から分かるのは、腹筋の弱さと腰痛の関連は強くなく、体重増加や肥満も腰痛の主要因としては捉えにくいということです。

また、立位や歩行での体幹筋活動は比較的低く、コア安定化運動が深部筋の筋肥大や筋力増強を特異的にもたらすという説明も支持されにくい内容でした。

さらに、腹横筋などのコアマッスルを他の筋から機能的に切り離して使うという前提や、内部フォーカスが常に望ましいという考え方にも強い裏づけはありませんでした。

したがって、コアスタビリティ・エクササイズに改善効果がみられるとしても、それは特別なコア理論の正しさを示すというより、より一般的な運動の効果として理解する方が妥当です。

腰痛に対する運動療法では、特定の深部筋だけに焦点を当てるのではなく、動作、身体活動量、運動習慣、自己効力感、恐怖回避、神経系の出力変化といった広い文脈の中で考えることが重要です。


|関連コラム

▶︎ クリティカルシンキングとは何か

▶︎ 徒手療法と認知バイアス

▶︎ 画像診断と痛みの関係

神経科学の理解を深める|DNM JAPAN 理論3つの軸

DNM JAPANでは、ペインサイエンス、末梢神経の構造と機能、そして臨床家に必要なクリティカルシンキングを、神経科学の視点から整理しています。

SNSでのコラムのシェアは歓迎しております。ただし当サイト内の文章・オリジナル画像等の無断転載、無断転用はご遠慮ください。掲載内容の引用は著作権法上認められた範囲で出所を明記のうえご利用ください。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
目次