トリガーポイント理論とは何か|筋由来モデルと筋筋膜性疼痛症候群を再検討する
トリガーポイント(TrP)理論は、Travell氏らによって1950年代に広められた理論です。
筋筋膜性疼痛症候群(myofascial pain syndrome:MPS)という概念も、この理論と強く結びついています。
一般的にMPSは、筋内のトリガーポイントが疼痛や関連痛を生み出す病態として説明されます。
しかし、筋筋膜性疼痛症候群という概念自体には、いくつかの根本的な問題があります。
第一に、トリガーポイントを病態の中心に置く診断基準は一貫しておらず、研究ごとに用いられる基準にもばらつきがあります。
第二に、筋の局所に独立した侵害受容の原因となる病変が存在することを裏づける十分な根拠は確立していません。
さらに、MPSやトリガーポイントの診断で重視される圧痛点、索状硬結、筋攣縮といった所見は、特異性や再現性に限界があることが指摘されています。
そのため、MPSを独立した筋病変として理解するよりも、末梢神経の状態と入力、二次痛覚過敏、中枢性感作、筋の反射反応を含む疼痛現象として再検討する方が、現在の神経科学やペインサイエンスの理解に合っています。
トリガーポイント現象は末梢神経由来の痛みとして再解釈できる
トリガーポイント現象を筋肉そのものの異常ではなく、末梢神経由来の疼痛として再解釈した論文があります。
この論文では、筋筋膜痛と呼ばれてきた現象の多くが、神経幹痛、末梢神経の感作、中枢性感作、さらに反射性筋緊張の組み合わせとして理解できる可能性が検討されました。
とくに重要なのは、神経幹痛の性質が筋筋膜痛として説明される痛みと非常に似ており、臨床的に区別しにくいと指摘している点です。
さらに著者らは、関連痛のようにみえる広がりも、末梢神経の感作や後角ニューロンの受容野拡大によって説明できる可能性があると述べています。
索状硬結についても、筋局所の特別な病変というより、同一脊髄分節に属する構造への侵害受容に続いて起こる反射性スパズムとして捉え直せる可能性が示されています。
この結果からは、トリガーポイント現象を筋肉の独立した病変として前提化するよりも、末梢神経の状態と入力、さらに中枢神経の処理変化を含む疼痛現象として理解する方が妥当です。
少なくとも、圧痛点や関連痛があるから筋が原因であると直結させる理解には慎重であるべきです。
「TrPを含む筋肉に描かれた索状硬結は、同じ脊髄分節によって神経支配された構造における、侵害受容に続いて起こる反射性スパズムを表す可能性がある。」A critical evaluation of the trigger point phenomenon.
Quintner et al.
この論文が重要なのは、トリガーポイント現象を筋肉だけの問題としてではなく、末梢神経由来の疼痛や中枢性感作、反射性筋緊張まで含めて説明できる可能性を示した点です。
とくに神経幹痛が筋筋膜痛と区別しにくいという指摘は、トリガーポイント理論の前提を大きく揺さぶります。
また、圧痛点から離れた部位に痛みが広がる現象も、末梢神経の感作や中枢性感作による受容野拡大として理解できる可能性があります。
同時に、筋緊張や防御反応をみるときには、局所的な筋の異常としてではなく、脊髄反射を含む神経系の逃避反射として理解する視点も重要です。
二次痛覚過敏は痛みの広がりを説明できる
別の研究では、二次痛覚過敏の領域が元の問題部位の周囲だけでなく、離れた領域にも及ぶことが整理されています。
ここでの論点は、接触によって誘発される痛みや圧痛の広がりを、局所筋の異常だけで説明できるのかという点です。
著者らは、二次痛覚過敏の重要な特徴として、元の損傷部位に隣接する領域だけでなく遠隔部にも接触誘発性疼痛が生じることを挙げています。
さらに、その神経生物学的メカニズムには中枢神経系が関与しており、低閾値機械受容器からの入力が、接触ではなく痛みとして知覚される可能性が示されています。
つまり、トリガーポイントで語られる関連痛や圧痛の広がりも、局所筋の特殊病変を前提にしなくても説明できます。
この結果からは、痛みの広がりをみたときに、筋肉の中の一点に原因を固定するより、二次痛覚過敏や中枢性感作を含む神経系の状態として考える方が自然です。
「二次痛覚過敏の最も顕著な特徴の1つは、接触誘発性疼痛、すなわち、元の損傷に隣接または遠隔の領域に適用される動的触覚刺激によって引き起こされる痛みである。」Secondary hyperalgesia and presynaptic inhibition: an update.
Cervero et al.
Eur J Pain. 2003.
この論文は、痛みの広がりを単純に局所筋の異常だけで説明することが難しいことを示しています。
つまり、トリガーポイントで語られる関連痛や圧痛の広がりは、二次痛覚過敏や中枢神経での処理変化としても理解できるということです。
神経の神経という視点は関連痛の理解を変える
ロリマー・モズリーは、神経鞘内の侵害受容器と広い受容野という視点から、トリガーポイント現象を再解釈しています。
ここで重要なのは、痛みを感じている部位と、実際に強く感作している構造が一致しない可能性です。
この説明では、神経鞘内の受容器活動が筋肉など別の深部組織の問題として知覚される可能性が示されています。
つまり、筋肉に痛みがあるように感じられても、必ずしも筋肉そのものが主な原因とは限りません。
少なくとも、この視点は、トリガーポイント理論で語られる関連痛を筋局所の病変だけで説明しようとする考え方に修正を迫ります。
「この知見の意味は、神経鞘などの1つの構造における受容体における活性が、筋肉のような別の部位で知覚され得ることである。」Posted by Lorimer Moseley
この視点では、筋肉に痛みがあるように感じられていても、必ずしも筋肉そのものが主な原因とは限りません。
神経の状態変化による、神経の神経の活性化によって、別の深部組織の問題として知覚される可能性があるからです。
これは、トリガーポイント理論で語られる「原因部位と痛みを感じる部位が一致しない」という現象とも合います。
索状硬結と筋攣縮は特異的所見とは言えない
トリガーポイント検査の妥当性を考えるうえでは、所見そのものの信頼性を確認した研究も重要です。
線維筋痛症患者7人、筋筋膜性疼痛症候群患者8人、健康者8人を対象に、筋筋膜痛症候群の専門家4人と線維筋痛症の専門家4人が圧痛点とトリガーポイントの検査を行った研究があります。
この研究では、活性トリガーポイントが確認されたのは患者群の検査の約18%にとどまりました。
一方で、索状硬結は約50%、筋攣縮は約30%にみられ、しかも3群すべてにほぼ同じように認められました。
つまり、トリガーポイント理論で重視される所見の多くは、健康な人にもみられる非特異的な現象であり、診断の決め手としては弱いということです。
少なくとも、索状硬結や筋攣縮が触れたから特別な病態があると判断することはできません。
「索上硬結、筋攣縮、活動的なトリガーポイントについて、信頼性に関する問題が確認された。」The fibromyalgia and myofascial pain syndromes: a preliminary study of tender points and trigger points in persons with fibromyalgia, myofascial pain syndrome and no disease.
Wolfe et al.
J Rheumatol. 1992.
この研究では、活性トリガーポイントは限られた割合でしか確認されず、索状硬結や筋攣縮は健康な人にも普通にありました。
つまり、トリガーポイントの診断で重視される所見が、そのまま特異的な病態を意味するとは言えないということです。
結論
以上の研究から、トリガーポイント現象は筋局所の特別な異常として断定するより、末梢神経の状態と入力、中枢性感作にのる二次痛覚過敏、脊髄分節性の逃避反射を含む疼痛現象として理解する方が妥当です。
つまり、トリガーポイント現象は神経系によるアウトプットとして捉える方が、現在の神経科学やペインサイエンスの理解に合っています。
したがって、トリガーポイントを強く押して確認したり、感作している末梢神経を強く刺激することにはデメリットが多いと考えられます。
一時的にはDNICのような機序によって今ある痛みが軽くなったように感じる可能性はありますが、それは組織や神経の状態が本質的に改善したことを意味しません。
むしろ、末梢性感作を増幅させたり、逃避反射などの防御的筋緊張を強めたり、中枢神経の警戒を高める方向に働く可能性があります。
臨床では、末梢神経の状態と入力を落ち着かせ、中枢神経に過剰な警戒を起こさせないように捉える視点の方が重要です。
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