TENS(経皮的電気神経刺激)は腰痛に効果があるのか|ゲートコントロール理論と臨床エビデンス

目次

TENS(経皮的電気神経刺激)は腰痛に効果があるのか

TENS(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation)は、日本語では経皮的電気神経刺激と呼ばれます。

皮膚表面から電気刺激を与え、痛みを軽減することを目的として使用される医療機器です。

理学療法やリハビリテーションの分野では、腰痛、神経痛、筋骨格系の痛みに対して使用されることがあります。

TENSはいわゆる電気治療の一種として広く知られており、理学療法の臨床では比較的古くから使用されています。しかし臨床では、「効いている感じがしない」「効果がよく分からない」といった声も少なくありません。

TENSの効果については数多くの研究が行われており、特にランダム化比較試験やシステマティックレビューによってその有効性が検討されています。

また、慢性腰痛などの長期的な痛みでは、痛みは単純な組織損傷だけでは説明できないことも多く、神経系の情報処理が関係することが知られています。

▶︎ 慢性疼痛はなぜ続くのか

本稿では、TENSの理論と臨床研究を整理し、腰痛に対する有効性を科学的エビデンスから検討します。

TENSの理論|ゲートコントロール理論と下行性疼痛抑制系

まず理論面では、TENSはゲートコントロール理論を背景として説明されることが多くあります。また、高頻度と低頻度など刺激条件の違いによって作用機序が異なる可能性や、内因性オピオイド系を含む上位中枢の関与も論じられてきました。

この理論からは、Aβ線維入力によって脊髄後角での侵害受容信号の伝達が抑制され、痛みの知覚が弱まる可能性が示されています。

一方で、周波数、振幅、パルス幅、波形などの設定は研究ごとに大きく異なっており、高モードと低モードの臨床的な差も明確ではありません。つまり、理論的背景は存在していても、その理論がそのまま安定した臨床効果につながるかどうかは別に検討する必要があります。

「全体として、TENSは『ゲートを閉め』、痛みの知覚を弱めるとされている(Melzack 1982)。
しかしながら、高モードと低モードとの間で臨床的有効性に有意な差があるかどうかは不明でありそして明確に定義されていない(Belanger 2002; Johnson 1991a)。」

Transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) versus placebo for chronic low-back painK

hadilkar, et al.

▶︎ ゲートコントロール理論とは何か|痛みの神経科学

▶︎ 下行性疼痛抑制系とは何か

TENSは慢性腰痛に有効なのか|コクランレビュー

慢性腰痛に対する有効性を検討した研究では、TENSの効果は一貫していません。

TENSとプラセボを比較した高品質のRCTが4件、対象者は合計約585人とされており、痛みの軽減については研究間で結果が分かれています。

一方で、機能改善については明確な利益が示されず、また軽度の皮膚刺激などの有害事象も報告されています。

この結果からは、慢性腰痛の日常管理においてTENSを積極的に支持できるほどの一貫した根拠は乏しいと考えられます。少なくとも、TENSが慢性腰痛に対して安定して有益であるとは言い切れません。

「要約すると、レビュの著者らは、慢性腰痛に対するTENSの恩恵に関して矛盾する証拠を見出し、慢性腰痛の日常管理におけるTENSの使用を支持しない。」
Transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) versus placebo for chronic low-back pain (Review)
Khadilkar, et al.

TENSを含む物理療法の科学的評価

TENSは電気刺激を用いる物理療法の一種ですが、電気刺激療法全体の臨床効果についても慎重な評価が必要です。

多くの研究では、一部の条件で一時的な鎮痛が示されることはあるものの、広範な慢性疼痛に対して一貫した効果を示すとは言えません。

また、仮に痛みが軽減したとしても、それを単純にゲートコントロール理論だけで説明するのは十分ではありません。

下行性疼痛抑制系や条件刺激性疼痛調節のような、より広い神経調節ネットワークが関与している可能性も考える必要があります。重要なのは、理論の存在と、臨床的に意味のある効果が再現性をもって確認されていることを分けて評価することです。

▶︎ DNICとは何か

NICEによる慢性腰痛の治療指針

ガイドラインの視点からみても、慢性腰痛に対するTENSの位置づけは強くありません。

英国のNICEガイドラインでは、慢性腰痛の管理において運動療法や心理社会的アプローチが重視される一方、TENSを標準的治療として推奨する立場はとられていません。

この点は、理論上の可能性があっても、臨床的有益性を支持する十分な証拠がそろっていないことを反映しています。

つまり、TENSは「理論がある治療」ではあっても、「慢性腰痛に広く推奨できる治療」とまでは評価されていないということです。

「Do not offer transcutaneous electrical nerve simulation (TENS) for managing low back pain with or without sciatica. [2016]」

NICE guideline: Low back pain and sciatica in over 16s . NICE, et al.

結論|TENSの臨床的有効性

現在の研究から示されるのは、慢性腰痛に対するTENSの有効性には一貫した証拠がなく、周波数やモードによる明確な臨床的差も確認されていないということです。

また、軽度の皮膚刺激などの副作用が報告されることもあります。

したがって、慢性腰痛の管理においてTENSを積極的に推奨する十分な科学的根拠は、現時点では確認されていません。

重要なのは、理論が存在することと、臨床的に意味のある効果が一貫して確認されていることは同じではない、という点です。

TENSを理解する際にも、ゲートコントロール理論、DNIC、下行性疼痛抑制系といった神経科学の概念と、実際の臨床効果を分けて評価する姿勢が重要です。


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