ストレッチの効果は筋肉の永続的な伸長ではなく、感覚の変化によるもの。
ストレッチを行うことで、短縮した筋肉を伸ばすと言/れています。しかし実際には自動・他動含めてストレッチでは筋肉の長さは長くなりません。
巷で理論的に言われていることは、粘弾性変形、サルコメア増加、伸張反射による神経筋の弛緩があげられています。しかし、それらは疑わしい理論だという研究があります。
◆組織的な変化は一時的であり、心理的要因もありうる。
次の研究では、粘弾性の変化や結合組織の伸張は一時的であり、サルコメアの増加を確認した試験も無く、伸張反射による変化も認められませんでした。
そして、ストレッチ後の伸張性の増加は、感覚の変化によるものであり、心理的要因もあり得るとの結果が出ています。
「粘弾性変形の生体力学的効果はごくわずかで時間も短いため、その後のストレッチに影響を与えることはない。」
「一連のサルコメア数が治療的介入により変化するかどうかを組織学的レベルで評価したヒトの伸張試験はない。」
「筋肉の伸展性を増大させるために、ゆっくりと行われる静的ストレッチはそれを受けている筋肉の弛緩を誘導する神経筋反射を刺激することがしばしば提案されてきた。しかし、実験によるエビデンスはこれらの主張のいずれも支持しない。 」
「これらの研究は、ストレッチング直後および短期間(3〜8週間)のストレッチプログラム後に観察された筋伸展性の増加は、感覚の変化のみによるものであり、筋長の増加によるものではないことを示唆している。」
「心理的要因も筋肉の伸展性の増加に役割を果たす可能性がある。」
Increasing Muscle Extensibility: A Matter of Increasing Length or Modifying Sensation? Cynthia Holzman WepplerS. Peter Magnusson
◆1ヶ月休むと効果が元に戻る
どれくらいストレッチをやめていると、元の可動域に戻るのか気になりますよね?
次の研究では、6週間ストレッチした効果は、4週間休憩すると完全になくなるとのことです。
例えば、4週間の休憩は6週間のストレッチングの増加を完全に無効にする。(Willy et al.,2001)。
◆拘縮に対してのストレッチは効果がない
次の研究では、神経症状のある患者の拘縮を減らすためにストレッチを行うことは、効果がないと結論が出ています。
ストレッチの回数などを増やしても、ストレッチの方法を変えても同じことだと言っています。
「神経症状による拘縮の予防へのストレッチに効果はない。」
「神経症状を持つ人々の痛み、痙縮、または活動制限に対するストレッチの効果はほとんどまたはまったくない。」
「ストレッチの量を増やしても関節の可動性が増加しないこと、そして特定のタイプのストレッチが他のものより優れているという証拠はないことを示す。」
「結論:規則的なストレッチは、神経症状を持つ人々の関節可動性、疼痛、痙縮、または活動制限において臨床的に重要な変化を生じることはない。」
Effectiveness of Stretch for the Treatment and Prevention of Contractures in People With Neurological Conditions. Owen M. KatalinicLisa A. Harvey Robert D. Herbert
◆遅発性筋肉痛への効果はない。
運動前後にストレッチする習慣があるかもしれません。
ある意見では、運動前後にストレッチを行うことで、遅発性筋肉痛を減らすと言われています。
しかし次の研究では、その効果はないと結論がでています。
「ランダム化試験からの証拠は、運動前後のいずれで行っても、筋肉のストレッチは臨床的に重要な遅発性筋肉痛(DOMS)の軽減をもたらさないことを示唆している。」
Stretching to prevent or reduce muscle soreness after exercise. Herbert RD, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2011.
◆筋肉や腱はほとんど変化しない。しかし神経系の変化はある。
2ヶ月くらいのストレッチは、筋腱などの構造をほとんど変化させません。でも可動域が変わったという体感があります。
その理由は先ほどからの論文と同じように、末梢神経や中枢神経、感覚的な部分、つまり「神経系」が変化している可能性があります。
「8週間よりも短い期間にわたるストレッチの適応は、主に感覚レベルで発生するようである。
現在のメタ分析の結果は、感覚理論をサポートしている。
たとえば、ほとんどの筋力トレーニングの研究では、神経の適応はトレーニングの最初の数週間で発生するが、構造の変化にはより長い介入が必要であり、筋肉量または構造の変化を引き起こすには最小限度時間が必要であることが示された。
したがって、筋力の初期の変化は、主に神経の適応によって説明される。
現在のシステマティックレビューの結果は、ストレッチへの初期の(すなわち、6-8週間まで)長期的な適応が、筋腱ユニットの構造に変化のない(またはわずかな)ものであり、主に感覚系の変化を引き起こすことを示唆している。
末梢または中枢神経成分の変化が関与している可能性がある。
Can chronic stretching change the muscle-tendon mechanical properties? A review. Sandro R. Freitas , Bruno Mendes, Guillaume Le Sant , Ricardo J. Andrade, Antoine Nordez, Zoran Milanovic.
◆まとめ
これらの研究から、ストレッチによって
・筋肉の永続的な長さは変わらない。
・粘弾性の一時的な変化はある
・伸張反射も起きない。
・1ヶ月休むとストレッチの効果が元に戻る。
・中枢性疾患による拘縮への効果はない
・筋肉や腱の変化は無い(長期間なら異なる可能性)
という既存の理論・常識が覆ることがわかります。
そして結論として、
・筋力の初期の変化は主に神経の適応
・感覚系変化で可動域が増えた。
・心理的な要因で可動域が変化する可能性がある。
・末梢神経系や中枢神経系の変化が関与している。
ということが、これら複数のエビデンスからわかります。
◆考察
例えば、施術の前後で可動域が変化することがあります。この可動域の変化は、感覚の変化や心理的要因のためであって、結合組織の変化ではないというわけです。
これは検査や動作確認で気をつけなければならない事を示唆しています。
また著名な先生による講習会などで、沢山の視線があると、心理的要因によって可動域が増えると言えるでしょう。
また神経症状を持つ方へのストレッチは効果がないとされていますが、これは中枢の損傷などの問題であって、末梢神経の問題ではないからです。だからこそ感覚(中枢)の変化が起こらないので効果がないということです。
ただし末梢神経の血流などもあるので、痛みを与えないストレッチをすることは体にとって良いとは言えます。
疼痛と可動域の関係で言えば、疼痛がなくなることで可動域が増えることはよくあります。
疼痛の原因が末梢神経の侵害受容によるものであれば、その原因を取り除けば身体感覚は変化して可動域は増えます。
また、ストレッチを行うことは、末梢神経をスライドさせたり伸ばしたりという行為にもなります。
末梢神経、末梢神経周囲のコンテナ、神経の血管が動き、脈管の配列が変化して神経やニューロンの健康に一役買います。
ストレッチの効果が筋肉の伸張によるものではないということは、同じような構造物である結合組織(筋膜)をリリースするアプローチも、感覚の変化や心理的な要素、神経系の変化による効果だという可能性も考えられます。
ストレッチ自体は良いことだと思います。
しかし、その機序を改めて考え直す必要があると思います。