ストレッチは筋肉か神経系か|可動域が変わる仕組みを考える

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高齢者の関節可動域制限は筋肉だけが原因なのか

関節可動域(ROM)が制限されると、臨床では筋短縮や筋の硬さといった筋肉の問題として説明されることが少なくありません。

しかし実際のROMは、筋肉だけで決まるものではありません。

筋膜、関節包、靱帯、末梢神経など、複数の組織が関与しています。

とくに高齢者では、筋だけでは説明しにくい可動域制限がみられることがあります。

そのため、ROM制限を筋の問題へ単純化せず、非筋組織を含めて捉える視点が重要です。

ここでは、末梢神経の力学的特性と関節可動域の関係を検討した研究を整理します。

▶︎ 末梢神経とは何か

坐骨神経剛性と足関節ROMの関係

ある研究では、坐骨神経へのストレッチが足関節背屈ROMにどのような影響を与えるかが検討されています。

この研究の重要な点は、ROMの変化が筋肉の剛性変化ではなく、坐骨神経の剛性変化と関連していたことです。

実際には、坐骨神経剛性は約13%低下し、最大背屈ROMは約6°増加していました。

さらに、神経剛性の低下と最大ROMの増加には有意な相関がみられています。

この結果からは、足関節ROMの制限を筋短縮だけで説明するのは不十分であり、末梢神経の力学的状態も可動域に影響していると考えられます。

少なくとも、可動域制限を筋だけの問題として扱うと、評価も介入も狭くなります。

「これらの結果は、筋肉の剛性を変化させることなく、坐骨神経を伸ばすことで最大背屈ROMを急速に増加させることができることを示している。
この研究は、末梢神経のストレッチが関節の最大ROMを改善するのに効率的であるといことを、生体内で初めて実験的に証明したものである。」

The potential role of sciatic nerve stiffness in the limitation of maximal ankle range of motion
Andrade, et al.

▶︎ 神経ストレッチを疼痛科学から再考する

高齢者では神経剛性がROMに関連する

別の研究では、若年者と高齢者を比較し、関節可動域の制限にどの組織が関わりやすいのかが検討されています。

この研究で注目すべきなのは、坐骨神経の剛性が他動的ROMと関連していたのは高齢者のみで、若年者では同じ関連がみられなかった点です。

つまり、加齢に伴ってROM制限の背景が変わり、筋組織だけではなく神経や結合組織などの非筋組織の寄与が相対的に大きくなる可能性があります。

これは、高齢者のROM制限を筋の柔軟性だけで評価することの限界を示す材料です。

つまり、高齢者の可動域制限では、筋肉中心の説明だけでは全体像を捉えきれないと考えられます。

「坐骨神経の剛性は高齢者では他動的ROMと関連していたが、若年者では関連していなかった。
これらの結果から、関節柔軟性の制限因子は若年者と高齢者で異なり、関節の柔軟性に対する非筋組織の寄与は加齢とともに大きくなる可能性が示唆された。」

Associations between Range of Motion and Tissue Stiffness in Young and Older People
Hirata, et al.

▶︎ ストレッチの効果は神経系によるものなのか

神経剛性という視点|ROM制限をどう捉えるか

末梢神経は、関節運動に伴って伸長、圧迫、変形の影響を受ける組織です。

その力学的特性が変化すると、関節可動域の制限だけでなく、痛みやしびれ、違和感といった症状にも関与する可能性があります。

そのためROM制限は、筋肉だけの問題としてではなく、神経、結合組織、関節構造を含めた複合的な現象として理解する必要があります。

▶︎ 感覚神経とは何か

臨床への示唆|高齢者のROM制限をどう評価するか

高齢者の関節可動域制限をみる際には、筋の柔軟性だけでなく、末梢神経の力学的特性も含めて考える必要があります。

ストレッチや徒手療法を組み立てる際にも、筋の起始停止だけでなく、神経の走行や関節運動に伴う変化を踏まえて介入を考えることが重要です。

また、可動域の変化がみられたとしても、その背景が筋によるものなのか、神経や他の組織によるものなのかを分けて考える視点が求められます。

▶︎ 徒手検査は何を見ているのか

結論|ROM制限を筋肉だけで説明してはいけない

これらの研究が示しているのは、高齢者の関節可動域制限において、末梢神経が重要な要因となる可能性があるという点です。

関節可動域は、筋肉だけでなく、神経、結合組織、関節構造など複数の要素の影響を受けて決まります。

とくに高齢者では、非筋組織の寄与が相対的に大きくなる可能性があり、筋肉のみを対象にした理解や介入では、可動域制限の全体像を捉えきれないことがあります。

そのため、筋、関節、末梢神経のどこを前景にみるべきかを見極めることが、徒手療法家にとって重要な臨床推論になります。


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