末梢神経末端でもオピオイド性鎮痛は起こる|中枢以外の鎮痛機構を解説
鎮痛機構としてよく知られているのが、脳から脊髄後角へ作用する下行性疼痛抑制系です。
これは中脳水道周囲灰白質などを含む中枢神経系の働きによって、入力されてきた侵害受容信号を抑制する仕組みとして理解されています。
しかし、鎮痛は中枢神経系だけで完結する現象ではありません。
近年は、末梢神経の末端や皮膚でも、オピオイドを介した鎮痛反応が起こることが示されています。
この視点は、鎮痛を脳だけの現象として理解するのではなく、末梢組織、感覚神経、免疫細胞、皮膚細胞まで含む多層的な生理反応として捉えるうえで重要です。
末梢神経末端でオピオイド性鎮痛は起こるのか
まず重要なのは、炎症が生じると、末梢組織だけでなく後根神経節や感覚神経終末の側でも、オピオイド受容体に関わる変化が起こる点です。
単に薬剤が末梢に届くという話ではなく、炎症環境そのものが、末梢神経終末でオピオイド性鎮痛が成立しやすい条件をつくる可能性があります。
免疫細胞由来オピオイドと感覚神経終末
この研究では、炎症局所で白血球がコルチコトロピン放出因子、サイトカイン、ケモカイン、カテコールアミンなどに反応してオピオイドを放出し、それが末梢オピオイド受容体に作用する流れが示されています。
さらに、その作用によって感覚神経の興奮性や炎症誘発性神経ペプチドの放出が抑えられることが論じられており、末梢の鎮痛が中枢からの抑制だけでなく、炎症局所の細胞間相互作用の中でも成立することが示されています。
つまり、炎症部位では免疫系と感覚神経系が局所で連動し、侵害受容信号の伝達そのものを弱める方向に働く可能性があります。
Opioids and sensory nerves. Handb Exp Pharmacol. 2009. Stein, et al.
オピオイド受容体はどう末梢へ運ばれるのか
次に重要なのは、末梢で作用するオピオイド受容体が、その場で偶然存在するのではなく、後根神経節で合成され、軸索輸送を介して末梢神経終末へ運ばれると考えられている点です。
この理解によって、末梢で起こる鎮痛も、後根神経節から神経終末まで連続した神経生理学的過程として捉えやすくなります。
後根神経節から末梢神経終末への輸送
別の研究では、μ受容体やδ受容体がラット皮膚の無髄軸索終末に確認されており、その背景として後根神経節で合成された受容体が軸索輸送で運ばれるモデルが示されています。
また、末梢炎症の誘発後数日で坐骨神経線維における受容体輸送が非常に増強されることも報告されており、炎症は受容体側の準備も進めることがわかります。
この結果からは、末梢で生じる鎮痛を単なる局所現象としてみるのでは不十分であり、受容体の合成、輸送、末端での発現まで含めて理解する必要があります。
末梢神経の末端で起こる反応であっても、その背景には神経全体の輸送システムが関与している、という点がこの論文の重要な示唆です。
Opioid Receptors on Peripheral Sensory Neurons. Stein, et al.
炎症環境では末梢オピオイド鎮痛が強まる
免疫細胞と皮膚細胞が鎮痛環境に関与する
炎症があると、末梢オピオイド鎮痛はより働きやすくなる可能性があります。
ここで重要なのは、内因性オピオイドの供給源が免疫細胞だけではないことです。
炎症環境を扱った研究では、免疫細胞由来のβ-エンドルフィンなどに加えて、ケラチノサイトのような皮膚細胞も内因性オピオイドに関与しうることが示されています。
さらに、動物研究では局所的に作用するオピオイドが炎症組織で侵害受容閾値を有意に上げる一方、非炎症組織では同様の反応が乏しいことが示され、ヒト研究でも慢性炎症組織は急性炎症組織や非炎症組織より鎮痛反応が良好であることが紹介されています。
少なくともこの知見は、炎症組織では受容体発現と有効性の上昇に加えて、作動物質の供給源も増え、末梢性の鎮痛反応が成立しやすい条件がそろうことを示しています。
Endogenous opioid analgesia in peripheral tissues and the clinical implications for pain control.
Kapitzke, et al.
皮膚でもオピオイドは働くのか
末梢オピオイド鎮痛は、末梢神経終末だけで完結するわけではありません。
皮膚そのものにもオピオイド系が存在し、神経線維、ケラチノサイト、メラノサイト、毛包、免疫細胞など、多様な構造が関与している可能性があります。
皮膚は感覚と鎮痛が交差する場である
また別の論文では、内因性オピオイドとその受容体が、末梢神経線維だけでなくケラチノサイト、メラノサイト、毛包、免疫細胞を含む複数の皮膚構造で機能している可能性が整理されています。
そこで扱われている内因性オピオイドにはエンケファリン、エンドルフィン、ダイノルフィン、エンドモルフィンが含まれ、受容体もμ、δ、κの3種類が示されています。
この結果からは、皮膚を単なる被覆組織としてではなく、感覚、免疫、鎮痛反応が交差する場として理解する必要があります。
つまり、皮膚入力の臨床的意味を考えるときも、触れている部位の下にある神経系と細胞環境を含めてみる視点が重要です。
Opioids and the skin – where do we stand? Bigliardi, et al.
皮膚入力をどう神経科学的に理解するかは、触覚や皮膚刺激の臨床的意味を考えるうえでも重要です。
結論
これらの研究から、オピオイドによる鎮痛は中枢神経系だけでなく、末梢神経終末や皮膚でも起こりうることがわかります。
とくに炎症環境では、免疫細胞由来のオピオイド、後根神経節からの受容体輸送、皮膚細胞からの内因性オピオイド供給が重なり、末梢での鎮痛反応が強まる可能性があります。
つまり鎮痛は、脳、脊髄、末梢神経、皮膚がそれぞれ独立して働くのではなく、相互に関係する多層的な生理機構として理解できます。
この視点は、痛みの調整を中枢神経系だけで説明しないためにも重要です。
末梢神経の状態と入力、炎症環境、皮膚で生じる局所反応まで含めてみることで、鎮痛の成り立ちはより立体的に捉えられます。
関連コラム|末梢神経の理解を深める

