侵害受容器は痛みのセンサーだけではない
侵害受容器(nociceptor)は一般的に「痛みを伝える感覚受容器」として理解されています。
しかし神経科学の研究では、侵害受容器は単なる侵害刺激のセンサーではなく、神経や標的組織(神経が支配し、その神経から機能的な影響を受ける組織のこと)の維持に関わる重要な栄養機能を担っていることが示されています。
この機能には 神経栄養因子(neurotrophic factors) や 神経成長因子(NGF:nerve growth factor) が関与しています。
神経栄養因子は単なる神経伝達物質ではありません。
これらは
・神経細胞の生存
・軸索の維持
・神経再生
・組織の恒常性維持
など、神経系の維持に重要な役割を持つ分子群です。
この栄養システムには、侵害受容器が深く関与しています。
神経栄養因子と逆行性軸索輸送
神経栄養因子の重要な特徴は、標的組織から神経へ栄養情報が運ばれるという点です。
神経栄養因子は標的組織で産生され、神経末端から取り込まれた後、逆行性軸索輸送によって神経細胞体へ運ばれます。
「神経栄養因子の基本的な概念は、栄養タンパク質が標的組織で合成され、逆行性輸送を介して神経細胞体に運ばれ、そこで栄養効果と生存効果を発揮するという仮説に基づいている。
NGFは標的器官で産生され、神経末端で吸収され、そして特定の受容体に結合した後、逆行性軸索輸送によって神経細胞体に運ばれる。」
Peripheral nerve regeneration and neurotrophic factors
GIORGIO TERENGHI
このプロセスは 逆行性軸索輸送(retrograde axonal transport) と呼ばれます。
標的組織から送られる栄養シグナルは、神経細胞の生存や機能維持にとって不可欠な情報となります。
侵害受容器の遠心性機能と組織維持
侵害受容器は求心性の感覚神経として知られていますが、それだけではありません。
侵害受容器は神経ペプチドなどを放出することで、末梢組織の生理状態にも影響を与える遠心性機能を持っています。
研究では、この機能が組織の恒常性維持に重要な役割を持つことが示されています。
「自然な節減の例では、侵害受容器の遠心性機能は、損傷がない場合に保護的な役割を果たす。
通常の日常的な条件下では、ペプチド作動性侵害受容器は神経支配された組織の健康を促進する。
したがって、人の一生の間であっても、組織損傷のシグナルを発することがないかもしれないが、侵害受容器は神経支配された組織の健康を維持する栄養効果を発揮する役割を担っている。
実際、ほとんどの侵害受容器は、ほとんどの場合、痛みを誘発する刺激のセンサーとしてよりも、標的組織への栄養的な影響としての活性が高い。
皮膚、毛包、歯髄、鼓膜、硬膜、椎体、関節、内臓など多様な身体組織はすべて、侵害受容器の神経支配を受けている。
侵害受容器がない場合、毛髪や爪の成長、皮膚、骨、軟骨などに明らかな変化が見られる。
侵害受容器の重要な栄養的役割の結果として、侵害受容器による神経支配の喪失は、創傷治癒、すなわち損傷に対する組織の反応を大幅に遅らせる。
侵害受容器からの栄養の影響がなければ、標的組織は損傷に直面しても健康と弾力性がなくなる。
交感神経性遠心性神経への損傷もまた、末梢組織の健康障害の原因となる。その結果、末梢神経障害のある人はしばしば皮膚や爪が厚くなり、創傷治癒が非常に遅くなることがある。」
Peggy Mason, Medical Neurobiology, Oxford University Press; Second edition (March 8 2017).
Pages 322 and 323, Chapter 17, Somatosensation: From Movement to Pain.
侵害受容器と組織の恒常性
これらの研究から分かることは、侵害受容器は
侵害刺激の検出だけでなく
・組織栄養
・創傷治癒
・組織恒常性
に関与する神経システムであるという点です。
侵害受容器は多くの組織に分布しています。
例えば
・皮膚
・毛包
・骨
・関節
・内臓
・硬膜
などです。
そのため侵害受容器による神経支配が失われると
・創傷治癒の遅延
・皮膚の変化
・筋など組織の脆弱化
といった変化が生じる可能性があります。
これらの現象には 軸索輸送(axonal transport / axonal flow) が深く関与しています。
結論|侵害受容器は神経と組織をつなぐ栄養システム
侵害受容器は単なる痛み受容器ではありません。
神経栄養因子や神経ペプチドを介して、神経細胞体や末梢組織の両方向に影響を与える神経栄養システムの一部として機能しています。
重要なのは、このような栄養交換は 生きた神経細胞による軸索輸送によって成立する生理的システムであるという点です。
そのため、単なる結合組織であるファッシアなどは、このような神経栄養システムを担う構造ではありません。
末梢組織の健康や再生を理解する際には、侵害受容器を単なる侵害刺激のセンサーとしてではなく、神経栄養と組織維持を担う神経システムとして捉える必要があります。

