パーキンソン病は腸から始まる可能性があるのか|腸脳軸と腸管神経系から考える
パーキンソン病は、中脳黒質の神経細胞減少やドーパミン機能の低下と関連する神経変性疾患として知られています。
一方で近年は、変性の出発点が脳だけではなく、腸管神経系や腸内環境にある可能性も注目されています。
重要なのは、脳と腸を別々にみるのではなく、腸脳軸という連続した神経生理学的ネットワークとして理解することです。
腸管神経系とは何か|消化管を調整する神経ネットワーク
腸管神経系とは、胃腸などの消化管を調整する神経ネットワークです。
Enteric Nervous System、略してENSと呼ばれます。
中枢神経系から独立した反射機能も持ちますが、完全に孤立しているわけではありません。
迷走神経や自律神経系を介して中枢神経系と情報をやり取りし、腸の状態は入力として脳へ伝わり、脳の状態は出力として消化管機能に影響します。
腸脳軸とは何か|腸と脳は双方向につながっている
腸脳軸とは、腸から脳への感覚入力と、脳から腸への自律神経、内分泌、免疫を介した出力を含む双方向の関係です。
そのため、消化管の状態は中枢神経系へ影響する可能性がある一方で、情動やストレスもまた消化管機能に影響します。
腸と脳は独立した器官ではなく、相互作用する系として理解する必要があります。
パーキンソン病と腸の関係|腸起源仮説は何を示しているのか
近年の研究では、パーキンソン病の一部は脳から始まるのではなく、腸管神経系や嗅覚系から始まる可能性が示唆されています。
とくに注目されているのは、α-シヌクレインの異常な折りたたみが腸や鼻で先に生じ、迷走神経などを介して中枢神経系へ広がるという仮説です。
別の論文では、飲み込まれた物質や嗅覚経路からの曝露が炎症反応や腸内微生物の変化と関係し、その過程で異常なα-シヌクレインが生じて脳へ波及する可能性が論じられています。
また、パーキンソン病の患者様では便秘などの消化器症状が運動症状に先行することや、嗅覚低下が比較的早期からみられることも、この仮説を支える背景として扱われています。
さらに、炎症性腸疾患を有する人ではパーキンソン病の発症リスクが約30%高い可能性が示されており、腸の炎症や腸内環境の変化を無視できないことが示唆されています。
この結果からは、パーキンソン病を脳内変性だけで説明するのではなく、腸由来の入力、炎症、迷走神経経路まで含めて考える必要があります。
「炎症性腸疾患を有する人々は、それがない人々よりもパーキンソン病を発症する可能性が約30%高い。」
A gut-brain link for Parkinson’s gets a closer look. The misfolded proteins may start with microbes in the digestive system.
Beil, et al.
腸脳軸と免疫の関係
腸脳軸は神経だけでなく、免疫系とも密接に関係しています。
したがって、腸内環境や腸管の炎症は、神経系だけでなく免疫を介して脳機能に影響する可能性があります。
また別の論文では、腸脳軸の破綻がパーキンソン病や過敏性腸症候群など多様な疾患に関与する可能性が論じられています。内容としては、食事や腸内環境の変化が腸の免疫応答を変え、その免疫シグナルが脳血管や脳機能に悪影響を及ぼしうるというものです。
この内容はパーキンソン病そのものを直接証明するものではありませんが、腸管の免疫変化が脳の脆弱性や神経系の病態に関わる可能性を示す背景資料として重要です。
つまり、腸脳軸は神経入力だけの問題ではなく、免疫を含む広い相互作用として理解する必要があります。
「腸から送られた免疫シグナルが脳の血管を傷つけ、脳の病気や認知障害を悪化させる可能性がある。」
A New Connection between the Gut and the Brain. A surprising way that diet leads risks of stroke and cognitive impairment.
Grinstein, et al.
便秘が注目される理由|運動症状より前にみられる可能性
パーキンソン病では、便秘などの消化器症状が運動症状より前にみられることがあります。これは、腸の変化が単なる二次的問題ではなく、比較的早い段階から関与している可能性を示しています。
別の研究では、胃腸機能障害、とくに便秘がパーキンソン病の重要な非運動症状であり、運動症状の発症より何年も前からみられることが示されています。
さらに、腸内細菌叢は腸管神経系、迷走神経、自律神経系など多様な経路を介して中枢神経系と相互作用することが示されており、腸の状態を神経系全体の問題としてみる視点が強調されています。
少なくともこの研究は、パーキンソン病を腸脳軸から再考するうえで、便秘や腸内細菌叢の変化が早期から重要な手がかりになる可能性を示しています。
「腸内細菌叢は、腸管神経系および迷走神経を含む多様な経路を介して自律神経系および中枢神経系と相互作用することが示されている。」
Gut microbiota are related to Parkinson's disease and clinical phenotype
Scheperjans, et al.
日常活動はなぜ重要なのか|進行後の生活機能をどう考えるか
パーキンソン病の病態理解とは別に、発症後の生活機能をどう保つかも重要な論点です。
とくに、特別に強い運動だけでなく、日常生活の中で身体を動かし続けることの意義が指摘されています。
また別の報告では、強度の高い運動をときどき行うこと以上に、日常生活のなかで継続的に身体を動かすことが運動機能の維持に関係する可能性が示されています。
つまり、進行後の生活管理では、特別な訓練だけでなく、座位時間を減らし、日常活動を保つこと自体が重要になります。
これは腸起源仮説そのものとは別の論点ですが、病態の理解と生活機能の維持を分けて考えながら、どちらも軽視しないことが重要です。
「…座っていることは誰にとっても悪いことだが、パーキンソン病患者にとってはさらに悪いことである。」
Parkinson's disease: Everyday activity more beneficial than occasional strenuous exercise
University of Michigan Health System, et al.
結論|パーキンソン病は腸脳軸から再考する必要がある
パーキンソン病は、脳だけで始まる疾患としてではなく、腸管神経系、腸内環境、迷走神経、免疫系を含む腸脳軸の問題として再考されつつあります。
現時点で、すべてのパーキンソン病が腸から始まるとは言えません。
しかし少なくとも一部では、腸由来の変化が中枢神経系の変性に関与している可能性があります。
脳と腸を切り離さず、連続した神経生理学的ネットワークとして理解することが重要です。
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