非特異性腰痛の原因①
脊髄神経後枝。
腰痛の85%は非特異性と言われて原因がよく分かっていません。
近頃では心理的要因が多いとされています。なぜならMRI画像所見で椎間板ヘルニア、椎間板の膨隆、腰部脊柱管狭窄があっても痛みと関連性が低いという研究が多数あるからです。
もちろん痛みは脳からのアウトプットであり、組織の損傷がなくても起こるものです。それはメルザックのニューロマトリックス理論と重なります。
心理的ストレスは、痛みに対して敏感になり、痛みを増やすことがあります。
しかし、本当に非特異性腰痛の全ての原因が、心因性だと言い切ってしまっていいものなのでしょうか?
実は、画像に映りにくい末梢神経や皮神経による腰痛がいくつかあります。
今回はその中で脊髄神経後枝について取り上げていきます。
◆脊髄神経後枝による腰痛
脊髄神経後枝とは、脊髄神経が椎間孔で内側枝と外側枝に枝分かれして、脊柱近くの筋肉や皮膚を神経支配する背中側の神経のことです。
GRAY1918より引用
皮神経/皮枝・筋枝/運動神経&感覚神経で構成されています。
脊髄神経後枝の筋枝は、脊柱起立筋とも呼ばれる、固有背筋を神経支配しています。
固有背筋とは、横突棘筋、回旋筋、多裂筋、半棘筋、腸肋筋、最長筋、棘筋、上後鋸筋、下後鋸筋、頭板状筋、頸板状筋のことを言います。
それらをコントロールしている脊髄神経後枝への刺激は、腰痛になります。そのような腰痛は椎間関節症の腰痛とは異なります。
◆論文1
「病因として、脊髄神経後枝を刺激する要因が腰痛を引き起こす可能性があり、これは椎間関節症とは異なる。臨床的には、L1とL2は、後枝が関与する最も一般的な部位である。」
「内側枝と外側枝はどちらも感覚線維と運動線維を含み、血管を伴っている。」
「脊髄後枝への刺激は腰痛の潜在的な原因である。解剖学的構造および臨床症状に基づいて、関与する脊髄後枝を限局化し治療することができる。」
「これらの研究は、潜在的に疼痛を生みだすものとして脊髄後枝を支持した。
「lumbar dorsal ramus syndrome」という用語は、1980年にBogdukによって作られ、1995年にSihvonenによっても記述された。」
The Anatomy of Dorsal Ramus Nerves and Its Implications in Lower Back Pain.
Linqiu Zhou, Carson D. Schneck, Zhenhai Shao.
◆論文2
脊髄神経後枝の皮枝(皮神経)も絞扼されて、腰痛症状を起こします。
「慢性腰痛は、機能不全の筋肉、靭帯または椎間板、脊柱関節の不適切な動き、または神経根の圧迫など、さまざまな症状によって引き起こされることがある。
最近、慢性腰痛は、後部皮神経絞扼症候群(POCNES)と呼ばれる、胸部神経後枝の皮枝の絞扼を有する患者において首尾よく治療された。」
「結論: POCNESは慢性局所性腰痛の鑑別診断において考慮されるべきである。」
Chronic localized back pain due to entrapment of cutaneous branches of posterior rami of the thoracic nerves (POCNES): a case series on diagnosis and management.
Authors Maatman RC, Boelens OB, Scheltinga MRM, Roumen RMH
◆考察
腰痛の85%が非特異性だからといって、その全てを心理的要因だと決めつけるのは早計過ぎます。
なぜならヘルニアや狭窄のように画像に映りやすいものではない神経が原因のこともあるからです。
脊髄神経後枝が圧迫や絞扼を受けることで、痛みや痺れという症状が出る可能性があります。
筋枝であれば、筋肉が細くなったり、力が入りにくくなります。
皮神経/皮枝であれば、痛みや痺れがでます。
混合神経であれば両方に影響を与えます。
また、これ以外にも上殿皮神経、中殿皮神経も絞扼されて、痛みが出ることもあります。
認知行動療法を行なっても慢性腰痛が良くならない場合は、脊髄後枝の筋枝や皮枝を考えてみることが必要です。
DNMでは脊髄神経後枝の筋枝へのアプローチも皮枝へのアプローチもあります。
腰痛を評価するとき、脊髄神経後枝も視野に入れる必要があります。
しかし現状のアセスメントに皮神経の存在がほとんどないことは大きな問題だと考えられます。