CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは|細径神経線維と神経科学から考える

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CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは

CRPS(Complex Regional Pain Syndrome:複合性局所疼痛症候群)は、外傷や手術を契機として生じる慢性疼痛症候群です。

骨折、捻挫、打撲、手術後などのあとに、通常の治癒期間を過ぎても痛みが持続し、感覚異常、自律神経異常、運動異常が重なってみられることがあります。

重要なのは、CRPSを単なる「痛みが長引いている状態」としてではなく、複数の神経系の変化が重なる病態としてみることです。

灼熱痛、痛覚過敏、アロディニア、皮膚温の変化、発汗異常、腫脹、皮膚色の変化、筋力低下、振戦、ジストニア、関節可動域制限など、症状が多系統にわたる点は、その特徴をよく示しています。

CRPSの主な症状

CRPSでは、症状が単独で現れるというより、感覚、自律神経、運動の異常が重なって現れます。

感覚面では、持続痛、灼熱痛、感覚異常、痛覚過敏、アロディニアがみられます。自律神経系の変化としては、皮膚温の左右差、発汗異常、腫脹、浮腫、皮膚の色調変化がみられることがあります。

さらに運動面では、筋力低下、振戦、ジストニア、不使用や痛みに伴う関節可動域制限がみられることがあります。

長期化した症例では、局所的骨粗鬆症や、不安、抑うつなどの心理的負担が重なることもあります。

CRPSの分類|I型とII型

CRPSは従来、CRPS-IとCRPS-IIに分類されてきました。

CRPS-Iは、明らかな末梢神経損傷が確認されないものです。

以前は反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)と呼ばれていましたが、この概念は長く、客観的な生物学的基盤が曖昧なまま用いられてきた側面があります。

一方、CRPS-IIは、末梢神経損傷が確認されるもので、カウザルギーとも呼ばれます。

ただし近年では、この二分類自体の妥当性にも疑問が出てきています。

とくにCRPS-Iについては、「神経損傷がない」のではなく、「従来の検査で捉えにくい神経障害があるのではないか」という見方が強くなっています。

CRPSと細径神経線維損傷

ある研究では、CRPS-Iの患者様を対象に、皮膚生検などを用いて細径神経線維の変化が調べられました。

この研究が重要なのは、CRPS-Iを「神経損傷のない病態」とみなす従来の理解を再検討させる点にあります。

少なくとも一部の症例では、C線維やAδ線維のような細径線維に変性が生じている可能性があり、灼熱痛、痛覚過敏、アロディニア、温度異常、発汗異常といった症状を末梢神経の視点から説明しやすくなります。

つまり、CRPS-IとCRPS-IIを明確に切り分ける見方には限界があり、CRPS-Iにも捉えにくい末梢神経障害が含まれている可能性があります。

Evidence of focal small-fiber axonal degeneration in complex regional pain syndrome-I (reflex sympathetic dystrophy) Oaklander, et al.

なぜ神経損傷が検査で見つからないのか

CRPSで神経損傷が関与している可能性があるにもかかわらず、一般的な検査で異常が見つからないことがあります。

その理由の一つは、細径神経線維が神経伝導検査や筋電図で捉えにくいことです。

細径線維は伝導速度が遅く、電位も小さいため、通常の電気生理学的検査では感度が低くなります。

つまり、神経伝導検査や筋電図で異常が確認されないからといって、末梢神経の問題がないとは言い切れません。

この点は、CRPSを「検査で異常がないから中枢神経だけの問題」と短絡的に捉えないためにも重要です。

▶︎ 神経伝導検査の問題とは

神経損傷が痛みを引き起こすメカニズム

神経の喪失や損傷が起こると、残存ニューロンの興奮性亢進や異常発火が生じる可能性があります。

その結果として、神経障害性疼痛、痛覚過敏、アロディニアといった症状が現れます。しかも末梢神経には、感覚神経、運動神経、交感神経が混在しています。

そのため、どの線維がどの程度影響を受けているかによって、症状の現れ方は大きく変わります。CRPSで感覚異常、自律神経異常、運動異常が併存しやすいのは、このような末梢神経の構成からも理解できます。

このような症状は、神経障害性疼痛の特徴とも重なる部分があります。

▶︎ 神経障害性疼痛とは何か

CRPSは末梢神経と中枢神経の複合的疾患

CRPSの発症は、末梢神経だけでも、中枢神経だけでも十分には説明できません。

一方では、細径神経線維を含む末梢神経の状態変化や損傷が関与している可能性があります。もう一方では、持続する侵害受容信号や異常入力に伴って、中枢神経の可塑的変化が重なっていくことも考えられます。

つまりCRPSは、末梢神経の状態と入力、中枢神経での処理変化、自律神経異常が相互に影響し合う複合的な病態として理解する方が妥当です。

この点を考えるうえでは、痛みを侵害受容性疼痛だけで捉えない視点も重要です。

▶︎ 3つの痛みの分類とは何か

結論|CRPSを理解する神経科学的視点

CRPSは、単一の原因で説明できる病態ではありません。

近年の研究では、細径神経線維損傷、末梢神経の状態変化、自律神経異常、中枢神経の可塑的変化が関与する可能性が示されています。

そのためCRPSは、中枢神経だけ、あるいは末梢神経だけの問題としてではなく、両者の相互作用として理解することが重要です。慢性疼痛を理解するためには、中枢神経、自律神経、末梢神経を切り分けて考えるのではなく、神経系全体のつながりとしてみる視点が必要です。

徒手療法家にとっても、こうした神経科学的理解は、症状を単純化しすぎず、臨床判断を組み立てるための重要な基盤になります。

 


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