喫煙は慢性疼痛に関係するのか|腰痛・線維筋痛症・ストレス反応への影響

目次

喫煙は慢性疼痛に関係するのか|腰痛・線維筋痛症・ストレス反応への影響

慢性的な腰痛、頸部痛、神経障害性疼痛、線維筋痛症などで悩む患者様では、局所組織の問題だけでは説明しきれない背景因子が関与していることがあります。

そのなかで見落とされやすい要因のひとつが喫煙です。喫煙は心血管疾患、呼吸器疾患、がんとの関連がよく知られていますが、近年は慢性疼痛との関連も多く報告されています。

痛みを構造だけで理解しないためには、生活習慣も含めて整理する視点が重要です。

▶︎ ペインサイエンスとは何か

▶︎ 慢性疼痛とは何か

喫煙は慢性疼痛と関係するのか|疫学研究からみる関連

まず重要なのは、喫煙と慢性疼痛のあいだに統計的な関連が報告されていることです。6,000人以上の女性を対象にした研究では、日常的な喫煙と慢性疼痛の関連が検討されています。

「その結果、日常的に喫煙していた女性は、喫煙していなかった女性よりも慢性疼痛を多く報告していることが示された。

これらの結果は、禁煙が慢性疼痛症候群の重要な補助治療になる可能性があることを示唆しています。」

Association of Smoking and Chronic Pain Syndromes in Kentucky Women

この研究は、喫煙が慢性疼痛と無関係ではなく、症状の持続や慢性化に関わる背景因子である可能性を示しています。

喫煙は腰痛や頸部痛と関係するのか|代表的な筋骨格系症状との関連

喫煙と慢性疼痛の関連は、腰痛や頸部痛でも報告されています。9,000人以上を対象にした研究では、慢性的な頸部痛や腰痛と喫煙、ニコチン依存との関連が調べられました。

「生涯にわたる慢性頸部痛または慢性腰痛の既往歴のある人は、現在喫煙者であり、ニコチン依存症と診断される可能性が有意に高かった。」

Chronic pain and cigarette smoking and nicotine dependence among a representative sample of adults

この結果は、慢性腰痛や頸部痛と喫煙のあいだに統計的な関連があることを示しています。喫煙は局所組織だけの問題ではなく、神経系の感受性や生活習慣の偏りを含めた全体像のなかでみる必要があります。

ニコチンは神経系に何を起こすのか|慢性疼痛の調節機構への影響

ニコチンは神経系に強く作用する物質であり、痛みの調節に関わる複数の神経伝達系に影響します。研究では、内因性オピオイド系、セロトニン系、ノルアドレナリン系、ドーパミン系などへの作用が指摘されています。

「ニコチンは、内因性オピオイド系、セロトニン系、ノルアドレナリン系、ドーパミン系の神経伝達物質系を含む、線維筋痛症に関連する多数の中枢神経系プロセスに影響を与えることが示されている。」

Associations Between Pain, Current Tobacco Smoking, Depression, and Fibromyalgia Status Among Treatment-Seeking Chronic Pain Patients

この点は、喫煙の影響を局所循環や組織障害だけで捉えるのではなく、慢性疼痛の調節機構に関わる中枢神経過程としても考える必要があることを示しています。

喫煙は線維筋痛症のリスクと関係するのか|長期追跡研究からの示唆

喫煙は線維筋痛症との関連でも報告されています。線維筋痛症は全身の痛み、疲労、睡眠障害などを特徴とする慢性疼痛疾患ですが、25年間の追跡研究では喫煙とその発症の関連が検討されています。

「我々の発見は、過去の喫煙が後の線維筋痛症の発症に強い影響を与えることを示唆している。」

The Association between Incident Self-reported Fibromyalgia and Non-psychiatric Factors: 25-years Follow-up of the Adventist Health Study

この研究は、喫煙が線維筋痛症のリスク要因のひとつである可能性を示しています。慢性疼痛や線維筋痛症を考える際には、喫煙歴も重要な背景因子として確認する価値があります。

▶︎ 線維筋痛症とは何か

ニコチンは一時的に痛みを軽くするのか|短期鎮痛と長期的感作

喫煙がやめにくい理由のひとつとして、ニコチンの短期的な鎮痛作用が考えられます。実際、研究ではニコチンに短期的な鎮痛効果があることが指摘されています。

「ニコチンは短期的な鎮痛効果を有し、痛みに対する感受性を低下させる。」

しかし同じ文脈では、長期的には逆方向に働く可能性も示されています。

「タバコの煙への慢性的な暴露は、時間の経過とともに痛み受容体を感作し、痛みに対する感受性を増加させる可能性がある。」

Smoking Status and Opioid Related Problems and Concerns among Men and Women on Chronic Opioid Therapy

つまり、喫煙は短期的には痛みが軽くなったように感じさせる一方で、長期的には神経系の感受性を高め、痛みの持続に関わる可能性があります。この点は、短期的変化と長期的適応を分けて考える重要性を示しています。

喫煙は痛みの治療を難しくするのか|鎮痛薬使用との関連

喫煙者では、鎮痛薬の使用量やオピオイド治療の割合が高いことも報告されています。これは、喫煙が痛みの背景因子として作用し、治療の難しさに関与している可能性を示しています。

慢性疼痛をみる際には、症状の強さだけでなく、喫煙習慣が治療反応性や薬物使用にどう影響しているかも評価する必要があります。

喫煙はストレス反応や睡眠にも影響するのか|HPA軸の視点

喫煙は痛みそのものだけでなく、睡眠の質やストレス反応系にも影響する可能性があります。慢性疼痛では、睡眠障害やストレス反応の変化が症状の持続に関わることが少なくありません。

また研究では、HPA軸の変化も指摘されています。HPA軸は視床下部、下垂体、副腎からなるストレス反応システムであり、この系の変化は疲労、睡眠障害、筋痛の持続などと関係する可能性があります。

この点からも、喫煙は単独の習慣ではなく、睡眠、ストレス、痛みの相互作用のなかで理解する必要があります。

▶︎ ストレス反応とは何か

▶︎ 生活習慣と慢性疼痛とは何か

結論|慢性疼痛では喫煙習慣の評価と禁煙支援を考える必要がある

多くの研究から、喫煙は慢性疼痛、腰痛、頸部痛、線維筋痛症、睡眠障害などと関連している可能性が示されています。

さらに、ニコチンは短期的には鎮痛的に働くことがあっても、長期的には神経系の感作や痛みの持続に関わる可能性があります。そのため、喫煙習慣は慢性疼痛の背景因子として評価する価値があります。

「慢性的な痛みのあるすべての人は禁煙するよう奨励されるべきである。」

慢性疼痛で悩んでいる患者様では、自身の喫煙だけでなく、周囲の喫煙環境も含めて見直すことに意味があります。自力で禁煙が難しい場合は、禁煙外来など専門家の支援を受けることも選択肢になります。

痛みの治療では、構造や局所所見だけでなく、生活習慣を含めた全体像を評価することが重要です。


関連コラム|ペインサイエンスの理解を深める

▶︎ ペインサイエンスとは何か

▶︎ 慢性疼痛とは何か

▶︎ 生活習慣と慢性疼痛とは何か

▶︎ ストレス反応とは何か

神経科学に基づく徒手療法を学ぶ

SNSでのコラムのシェアは歓迎しております。ただし当サイト内の文章・オリジナル画像等の無断転載、無断転用はご遠慮ください。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
目次