はじめに|慢性疼痛は本当に筋肉が原因なのか
慢性的な肩こりや腰痛は、臨床では「筋肉が硬い」「筋肉の炎症」「筋肉が原因」と説明されることが多くあります。
しかし慢性疼痛は一般的に 3か月以上持続する痛み と定義されています。
この時間経過を考えると、慢性疼痛を筋肉の問題だけで説明することには疑問が生じます。
慢性疼痛の基本的な概念については、次の記事でも詳しく解説しています。
筋肉痛は長く続かない|慢性疼痛との違い
筋肉に生じる代表的な痛みとして知られているのが遅発性筋肉痛です。
遅発性筋肉痛は運動後に出現する筋痛であり、通常は数日以内に改善します。
筋損傷が生じた場合でも、筋組織は通常数週間以内に修復されます。
つまり筋組織そのものの損傷であれば、痛みは比較的短期間で回復することが一般的です。
このことは、数か月から数年続く慢性疼痛を筋肉の損傷だけで説明することが難しい可能性を示唆します。
慢性疼痛が増える年代と筋肉損傷説の矛盾
慢性疼痛は特に40代以降で増加することが知られています。
しかしこの年代の多くの人は、日常生活で強い筋損傷を起こすような激しい運動をしているわけではありません。
もし慢性疼痛の原因が筋肉の損傷であるならば、繰り返し強い筋損傷が生じている必要があります。
しかし実際の臨床ではそのような状況が確認できないケースが多く、慢性疼痛の筋肉の痛みは 筋組織そのものではなく別のメカニズムで生じている可能性 が考えられます。
トリガーポイント仮説への批判
筋肉原因説として広く知られている概念の一つがトリガーポイントです。
しかしトリガーポイントの実在や機序については長年議論が続いています。
「いくつかのタイプの慢性的な筋骨格性疼痛に特徴的な『機能障害』は、正常な保護適応であり、痛みの原因ではないことを示唆している。」
A critical evaluation of the trigger point phenomenon
この研究では、トリガーポイントと呼ばれる現象が筋肉の病変ではなく 神経系の保護反応として説明できる可能性 が指摘されています。
防御反応としての筋緊張
神経系には侵害受容刺激から身体を守るための防御反応があります。
その代表例が 逃避反射(withdrawal reflex) です。
侵害受容信号が脊髄に入力されると、脊髄レベルで反射が起こり筋収縮が生じます。
この反応は身体を守るための適応反応ですが、侵害受容信号が持続すると筋収縮や筋防御も持続する可能性があります。
その結果として筋肉の硬さや痛みが知覚されることがあります。
運動神経活動と筋肉の痛み
筋肉の痛みを説明するもう一つの視点が 運動神経活動の変化 です。
運動神経は筋収縮を制御するだけでなく、神経の状態によって活動レベルが変化します。
侵害受容信号や情動ストレスなどの影響によって運動神経活動が変化すると、筋収縮や筋防御が持続する可能性があります。
このような状況では、筋肉の痛みは筋組織の損傷ではなく 神経状態の変化の結果として生じている可能性が考えられます。
末梢神経の状態と入力
慢性疼痛では筋肉そのものだけでなく、末梢神経の状態と入力 が重要になります。
末梢神経の状態が変化すると、侵害受容信号の伝達や神経系の反応が変化し、防御反応や筋活動に影響を与える可能性があります。
その結果として筋肉のコリや筋緊張、筋肉の痛みが生じることがあります。
結論
慢性疼痛(3か月以上持続する痛み)でみられる筋肉の痛みは、必ずしも筋組織の障害を意味するわけではありません。
筋肉痛は通常、数日から数週間で回復します。
また慢性疼痛が増加する40代以降では、多くの人が強い筋損傷を伴う運動をしているわけではありません。
これらの事実は、慢性疼痛の筋肉の痛みを筋肉の問題だけで説明することが難しい可能性 を示しています。
慢性疼痛の理解には、侵害受容信号、神経系の防御反応、運動神経活動、末梢神経の状態と入力など神経系のメカニズムを含めて考えることが重要になります。
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