慢性疲労症候群と筋受容器の活動亢進は疼痛に寄与する。
慢性疲労症候群とは極度の疲労感に襲われ、痛みも発症する、いまだに原因がはっきり特定されていない症候群のことです。
下記の研究では、筋肉などにある固有受容器の過度の活性化とストレスによって、脊髄後角のミクログリアを増やし、慢性痛になるといわれています。
ミクログリアとは、中枢神経系(脳と脊髄)に存在し、細菌やウイルスや細胞の残骸を処理したりなど免疫系の働きを行い、ニューロンの状態を警戒したりしています。そのためサイトカインなどの化学物質を放出することも行いますが、逆に働きすぎると炎症状態に陥ってしまいます。
つまり組織自体の損傷がもし治っていたとしても脊髄後角のミクログリアの働きによって、痛みを常に感じてしまうことも起こり得るという事です。
固有受容器の活動亢進は、慢性疲労症候群のラットモデルにおいてミクログリアを介した長期持続性疼痛を誘発する。
慢性疲労症候群(CFS)または線維筋痛症と診断された患者は慢性疼痛を経験する。CFSのラットモデルは末梢組織の損傷および/または炎症なしで腰髄におけるミクログリア活性化と疼痛行動を示す。
慢性的な固有受容器の活性化が、脊髄反射弓に沿ったニューロンの連続的な活性化を誘導し、ニューロン活性化がさらに反射弓に沿ったミクログリアを活性化することを示唆している。
足首関節の固定化による固有受容器の抑制は、疼痛行動と同様に、脊髄におけるミクログリアの蓄積を有意に抑制した。
我々は以前に、CS下のラットが足底表面に機械的異痛症および前脛骨筋に機械的痛覚過敏(すなわち筋肉痛)を示すことを実証した。炎症や損傷の兆候は見られなかったが、ラットは腰椎の脊髄後角でミクログリアの蓄積と活性化を示した(L4-6)。
※持続的ストレス負荷(CS)
したがって、ヒラメ筋の高張活動を弱めることは、CS誘発疼痛およびミクログリア活性化を減弱させる可能性がある。
末梢炎症および神経損傷の非存在下でさえもCFSのラットモデルが長期の異痛症および筋肉痛を経験し、そしてこの痛みはDRGにおける固有受容体の持続的な活動亢進によって開始される可能性があることを示す。
ミクログリアの活性化は異常な疼痛を悪化させ長期化させる。慢性疲労症候群および線維筋痛症における疼痛発生の根底にあるのは、固有受容器が誘導するミクログリアの活性化である可能性がある。
筋肉活動の急激な増加は、線維筋痛症患者の疼痛を引き起こす可能性がある。これは反射弓の活動亢進をもたらす固有受容器活性化によって説明される可能性がある。
Hyperactivation of proprioceptors induces microglia-mediated long-lasting pain in a rat model of chronic fatigue syndrome.
Masaya Yasui, Yuki Menjyo, Kyohei Tokizane, Akiko Shiozawa, Makoto Tsuda, Kazuhide Inoue and Hiroshi Kiyama.
◆まとめ
ストレス下において筋肉に過度の負荷をかけすぎると、脊髄のミクログリアが増え、活性化しすぎることによって慢性痛になる可能性があります。
長期にわたると、筋肉自体の損傷が癒えても、ミクログリアの活性化が変わらなければ慢性痛になってしまいます。
もちろん筋肉を常に収縮状態に置くという事は、その中を通る末梢神経も圧迫してしまい、神経内血流も変化します。
過去のコラム、「真皮に発芽する異所性の交感神経線維は疼痛に関与する」で書いたように末梢神経を圧迫したり縛ると、真皮に交感神経線維が発芽して痛みに寄与する可能性があります。
筋肉を持続的に収縮することで似た状況が生まれることも考えられます。
つまり、ミクログリアの活性化とともに、真皮層の神経線維も変化し、中枢神経も感作し慢性痛になってしまうということ。
神経系全体で見なければいけない理由に繋がります。