頚椎症を組織や構造だけでみてよいのか|整形外科領域の臨床再考

目次

頚椎症とは何か|まず押さえたい基本像

頚椎症は、頚椎全体の加齢性変化をまとめた名称で、椎間板や椎間関節、骨棘などの変化を含む病態です。日常診療では広く使われる名称ですが、その中には病態の異なるものが含まれます。

頚椎椎間板ヘルニアは、椎間板が突出し、神経根症状や脊髄症状につながる病態です。

頚椎症性神経根症は、神経根が圧迫または刺激され、首から肩、腕、手にかけての痛みやしびれが出る病態で、頚椎症性脊髄症は脊髄が圧迫され、手の不器用さや歩行のしにくさなどが出る病態です。

そのため、頚椎症という診断名をみたときは、加齢変化の総称として使われているのか、ヘルニアなのか、神経根症なのか、脊髄症まで含むのかを最初に分けて考える必要があります。

症状としては、頚部痛、肩甲帯周囲の重だるさ、上肢痛、しびれ、巧緻運動障害、歩行障害などがみられます。

一般には、椎間板変性、骨棘形成、椎間関節変化、反復負荷、姿勢や加齢変化などで説明され、保存療法としては運動療法、薬物療法、生活指導、物理療法、装具、徒手療法などが選択されます。

ただし、進行する筋力低下、手指の巧緻運動障害、歩行障害、膀胱直腸障害、発熱、外傷後の重篤な損傷が疑われる場合は、保存的介入のみで進めず、医師評価を優先すべきです。

最近の研究からみた頚椎症|いま押さえたい知見

頚椎症では、画像所見と症状の関係、アライメントの意味、椎間板ヘルニアの自然経過を分けてみる必要があります。画像異常があること自体と、現在の訴えの原因であることは同じではありません。

無症候でも椎間板膨隆は高頻度にみられるため、MRI所見だけで頚部痛や上肢症状を説明しない姿勢が求められます。

「ほとんどの被験者は椎間板の膨隆(87.6%)を示し、頻度、重症度、およびレベルに関して年齢とともに有意に増加した。これらの数値は年齢とともに、特に50歳以降に増加した。」

Abnormal findings on magnetic resonance images of the cervical spines in 1211 asymptomatic

いわゆるストレートネックや頚椎の前弯減少も、それだけで症状の強さを説明する指標とは限りません。

「我々の研究の結果は、頸椎(または個々の分節)の矢状方向の整列と首の痛みとの間に関連性を示さなかった。

同様に、首の痛みのあるグループでは、前弯と痛みの激しさ、障害、健康管理などの症状の重症度の指標との間に関係はなかった。」

The association between cervical spine curvature and neck pain. D. Grob, H. Frauenfelder, and A. F. Mannion

▶︎ ストレートネックと首の痛み|MRI異常は原因なのか

X線異常があっても、その所見だけで患者様の訴え全体を説明できるわけではありません。

「レントゲン写真の異常は、脊椎の構造変化を表すが、それらは必ずしも症状を引き起こさないことを認識することが重要である。」

Roentgenographic findings of the cervical spine in asymptomatic people.

これは腰椎ヘルニアのレビューですが、椎間板ヘルニア組織は自然に退縮することがあり、保存的治療後に完全に消失することもあるという結論です。

また、自然退縮率は、遊離で96%、脱出で70%、突出で41%、膨隆で13%であったという、ヘルニア画像をみた時点で固定的な病態とみなさないという研究です。

「The probability of spontaneous regression of lumbar herniated disc: a systematic review. Chiu CC, Chuang TY, Chang KH, Wu CH, Lin PW, Hsu WY.」

▶︎ 整形外科領域の臨床再考とは何か

疼痛科学からみた頚椎症|症状の振る舞いをどう読むか

頚椎症では、画像や局所所見だけでなく、どの場面で症状が強まり、どの条件で軽くなるのかをみることが大切です。

症状の変動には、頚部周囲の状態だけでなく、負荷量、注意、情動、睡眠、生活背景、中枢神経での処理などが関わっていることもあります。

▶︎ 痛みの中枢神経処理とは

頚椎症を末梢神経からどうみるか|分布から読み直す

頚椎症としてまとめられる訴えの中には、脊髄神経後枝やその皮枝、頚神経叢由来の皮神経、副神経の分布を踏まえた方が読みやすいケースがあります。

後頚部から項部の痛みや張り感では脊髄神経後枝やその皮枝、耳の後ろから後頭外側の違和感では小後頭神経との重なりを確認したいところです。

耳下部や下顎角周囲の不快感では大耳介神経、前頚部の違和感では頚横神経、鎖骨周囲や肩前上方の訴えでは鎖骨上神経が関わる分布を考えやすくなります。

僧帽筋周囲の張り感や肩甲帯の使いにくさが目立つ場合は、副神経の関与も候補に入ります。

また、頚椎症性神経根症が疑われる場面でも、首から肩、上腕、前腕、手へどのように広がるのか、しびれが主なのか、接触過敏を伴うのか、筋出力低下まであるのかで見え方は変わります。

頚椎症という名称だけで止めず、分布と感覚の質を追うことで、評価の焦点が絞りやすくなります。

▶︎ 脊髄神経後枝とは何か

▶︎ 脊髄神経後枝の皮枝とは何か

▶︎ 副神経とは何か

▶︎ 頚神経叢とは何か

▶︎ 鎖骨上神経とは何か

▶︎ 小後頭神経とは何か

▶︎ 大耳介神経とは何か

▶︎ 頚横神経とは何か

結論

頚椎症をみる際には、まず加齢変化の総称なのか、ヘルニア、神経根症、脊髄症なのかを分け、そのうえで症状分布、感覚の質、動作や接触での変化を丁寧に読むことが大切です。

診断名や画像所見を起点にしつつも、それだけで終えず、中枢神経での処理と末梢神経の状態もあわせてみることで、頚部痛や上肢症状をより立体的に理解しやすくなります。

 


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