認知行動療法は慢性疼痛に有効なのか|線維筋痛症の研究から考える

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認知行動療法は慢性疼痛に有効なのか|線維筋痛症の研究から考える

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)は、慢性疼痛や線維筋痛症に対して広く用いられている心理療法の一つです。

認知行動療法では、思考パターンや行動パターンを見直すことでストレス反応を軽減し、症状の改善を目指します。

慢性疼痛の治療では、痛みへの恐怖、破局的思考、活動回避などの心理的要因が症状の維持に関与すると考えられており、認知行動療法はそれらへの介入として導入されることがあります。

ただし、ここで区別すべきなのは、心理的支援としての有用性と、痛みそのものを軽減する治療効果は同じではないという点です。

▶︎ 慢性疼痛とは何か

線維筋痛症に対する認知行動療法の研究

線維筋痛症を対象に、ランダム化比較試験を統合したシステマティックレビューとメタ解析では、認知行動療法の効果が複数のアウトカムで検討されています。

この研究では、抑うつ気分や痛みに対する対処行動には一定の改善がみられる可能性がある一方で、痛み、疲労、睡眠障害、健康関連QOLといった主要症状では明確な有効性が確認されませんでした。

この結果からは、認知行動療法に心理面や行動面への影響はありえても、線維筋痛症の中核症状そのものを直接改善する治療としては限界があると考えられます。

つまり、慢性疼痛に認知行動療法を用いる場合には、何に対して効果を期待するのかを明確にしておく必要があります。

「一方で、痛み、疲労、睡眠障害、健康関連QOL(HRQOL)といった主要症状に対する有効性は確認されなかった。」

「つまり、この研究では線維筋痛症の主要症状そのものに対する、明確な改善効果は示されなかったと報告されている。」

Efficacy of Cognitive-Behavioral Therapies in Fibromyalgia Syndrome — A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials

▶︎ 中枢神経処理をどう理解するか

抑うつ症状や行動面には一定の役割がある

別の角度からみると、認知行動療法は、抑うつ、不安、活動回避、痛みに対する意味づけといった心理社会的側面に働きかける方法として理解する方が自然です。

そのため、患者様が痛みによって生活範囲を狭めている場合や、症状への不安が強い場合には、補助的な支援として役立つ可能性があります。

少なくとも、この研究が示しているのは、認知行動療法を心理的・行動的側面への介入として位置づけるなら一定の意味がありうるという点です。

一方で、それをそのまま疼痛の生理学的メカニズムそのものを変える治療とみなすのは適切ではありません。また、抑うつ気分の改善についても、期待効果や研究バイアスの影響を完全に切り分けることは簡単ではありません。

▶︎ バイオサイコソーシャルモデルをどう理解するか

痛みそのものの軽減には明確なエビデンスがない

この研究で重要なのは、認知行動療法が線維筋痛症の主要症状である痛み、疲労、睡眠障害を明確に改善したとは言えなかったことです。

つまり、認知行動療法を「慢性疼痛そのものに有効な治療」と単純化して理解するのは適切ではありません。

慢性疼痛では、末梢神経の状態と入力、侵害受容信号、中枢神経での統合、注意、期待、記憶、文脈などが相互に関与します。そのため、心理療法だけで疼痛全体を説明しようとすると、病態理解を狭めてしまう可能性があります。

この結果からは、慢性疼痛を心理社会的要因だけに還元せず、神経科学や生活背景を含めたより広い枠組みで捉える必要があると考えられます。

▶︎ 慢性腰痛は心理だけで説明できるのか

疼痛治療における認知行動療法の位置づけ

認知行動療法は否定されるべきものではなく、役割を限定して理解することが重要です。

すなわち、心理的負担、活動回避、破局的思考、抑うつ傾向などに対する支援としては一定の意味を持つ可能性があります。

一方で、慢性疼痛を理解するには、心理社会的要因だけでなく、末梢神経の状態と入力、中枢神経処理、下行性調整、生活背景まで含めた多面的な視点が必要です。

つまり、認知行動療法はその一部を担いうる方法であって、慢性疼痛の全体像を単独で説明したり、主要症状を十分に改善したりする万能な治療として扱うべきではありません。

▶︎ ストレス反応とは何か

結論|認知行動療法の役割をどう考えるか

認知行動療法は、抑うつや活動回避などの心理的・行動的側面には一定の役割を持つ可能性があります。

しかし、線維筋痛症の主要症状である痛み、疲労、睡眠障害を明確に改善するエビデンスは示されていません。

そのため、慢性疼痛に対しては、心理社会的要因だけに比重を置くのではなく、末梢神経の状態と入力、中枢神経処理、侵害受容信号、生活背景を含めて統合的に理解することが重要です。

認知行動療法は補助的な支援として位置づけることはできますが、疼痛そのものを単独で十分に変える方法として過大評価しない視点が必要です。

▶︎ クリティカルシンキングとは何か


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