睡眠不足は痛みに影響。脳内のグリンファティック系と睡眠。
睡眠といくつかの病気は前から関係があると言われています。
そして、脳や脊髄にはリンパがないともずっと言われてきました。
この二つを結びつける発見があります。
まず、脳は古くなり不必要になったタンパク質を毎日除去する必要があります。
これは1日に7gくらいと言われています。
しかし、100年もの間、リンパが脳や脊髄には存在しないと言われており、こういった老廃物の排出経路がはっきりと理解されてきませんでした。
最近では、このようなことが分かってきました。
◆脳にはリンパ管があった?!
「髄膜に出入りするT-細胞の出入り口を探索する際、硬膜洞の内側を覆う機能的なリンパ管を発見した。
これらの構造は、リンパ内皮細胞のすべての分子的特徴を表現し、脳脊髄液から流体と免疫細胞の両方を運ぶことができ、深頸部リンパ節に接繋がっている。」
Structural and functional features of central nervous system lymphatic vessels
Antoine Louveau, Igor Smirnov, Timothy J. Keyes, Jacob D. Eccles, Sherin J. Rouhani, J. David Peske, Noel C. Derecki, David Castle, James W. Mandell, Kevin S. Lee, Tajie H. Harris & Jonathan Kipnis
硬膜の内側にリンパ管があり、それが頚部のリンパ節とつながっているという研究結果です。
◆アストロサイトと脳内のリンパ系
そして次の論文ですが、アストロサイトと呼ばれるグリア細胞と血管との間の空間から、静脈へと流れ、リンパに流れ循環していく「グリンファティック系」という存在を確認したという、とてもエキサイトする内容となっています!
「脳の血管は、血管周囲腔と呼ばれるものに囲まれている。それはすべての血管を囲むドーナツ型のトンネルである。
各スペースの内壁は、血管細胞の表層、主に内皮細胞と平滑筋細胞で構成されている。
しかし、外壁は脳と脊髄に固有のものであり、アストロサイトと呼ばれる特殊な細胞から枝分かれして伸張した部分によって構成されている。
アストロサイトは、脳全体で信号を中継するニューロンのネットワークを相互接続するために多くの機能を果たすサポート細胞である。」
「アストロサイトの伸張した部分—アストロサイトの終足—は、脳と脊髄の静脈と毛細血管、動脈を完全に囲んでいる。
終足と血管の間に形成された管状の空洞は、障害物がほとんどなく、脳内の流体の速い輸送を可能にする余水路を形成している。
動脈の拍動は、血管周囲のスペースを通じてCSF(脳脊髄液)を動かす可能性がある。
そこから、そのいくらかは終足を通ってアストロサイトに入ることができる。
その後、細胞間領域に移動し、最終的に静脈周囲の血管周囲腔に移動して、脳から老廃物を取り除く。
流体は、脳を流れる小静脈を取り囲んでいる血管周囲腔を通って脳から出て行く。
そしてこれらの静脈は、頸部に繋がるより大きな静脈に合流した。
老廃物の流体はさらにリンパ系に入り、そこから全身の血液循環に還流した。」
「私たちはこの発見をグリンファティック系と名付けた。」
◆アルツハイマーとグリンパティック系
アルツハイマー、パーキンソン病などの原因となる物質の排出にもグリンパティック系が役に立っている可能性があります。
そしてさらに睡眠不足が関与していることも言われています。
「アルツハイマー病では、βアミロイドの凝集体が細胞間にアミロイド斑を形成し、この疾患の進行に寄与している可能性がある。
健康な脳において、βアミロイドはグリンパティック系によって除去されることを発見した。
パーキンソン、レビー小体型や多系統萎縮症に現れるシヌクレインタンパク質など、神経変性疾患に関与する他のタンパク質も運び去られ、グリンパティック系が機能不全になると異常に蓄積する可能性がある。
アルツハイマー病の患者の多くは、認知症が明らかになるずっと前から睡眠障害を経験している。
◆睡眠不足と様々な問題はリンパ系にある。
疫学研究では、中年期に睡眠不足を報告した患者は、25年後に検査を行った場合、対照群に比べて認知機能低下のリスクが高かいことが示されている。
目を覚まし続けることを余儀なくされた健康な人でも、神経疾患や精神疾患の典型的な症状である、集中力の低下、記憶力の低下、疲労、イライラ感、感情の起伏などが見られる。
深刻な睡眠不足は、混乱と幻覚を引き起こし、てんかん発作や死に至る可能性がある。
これらのことから、認知症の睡眠障害は単に障害の副作用ではなく、病気のプロセスそのものに寄与しているのではないかと推測した。
睡眠障害は副作用というよりも、プロセスそのものに寄与している疑い。
また、マウスの実験ではありますが、グリンファティック系がβアミロイドを除去し、睡眠時は2倍になっているという結果が出ています。
つまり、睡眠時にグリンファティック系の働きが活発になっている可能性があるということですね。
私たちがマウスで行った実験では、睡眠中、実際にグリンファティック系が脳内からβアミロイドを驚くほど効率よく除去していることを示した。その除去率は睡眠時には2倍以上になる。
目覚めている時はグリンファティック系の働きは低下する。つまり、睡眠の必要性の大きな一つの要素に関与している可能性があります。
グリンファティック系のCSFは、研究用マウスが目覚めている間、劇的に低下することが判明した。しかし、睡眠の開始または麻酔の影響の後、数分以内に流体の流入が大幅に増加した。
ニューヨーク大学のチャールズ・ニコルソンとの共同研究では、マウスが眠りに落ちると、脳の間質腔(グリンファティック液が静脈周囲の血管周囲腔に向かう途中で通る細胞間の領域)が60%以上増加することを発見した。
細胞間の空間が広がり、脳組織を通して流体を押し出すのに役立つため、睡眠中にグリンファティック液の流れが増加すると私たちは今考えている。
◆ノルエピネフリン
そのグリンファティック系による流体のペースを調節しているのが「ノルエピネフリン」であると示唆されています。
交感神経の神経伝達物質でもあるノルアドレナリンのことです。
ノルエピネフリンと呼ばれる神経伝達物質またはシグナリング分子は、間質領域の体積を調節し、その結果、グリンファティック流のペースを調節するように見えた。
ノルエピネフリンレベルは、マウスが目覚めているときに上昇し、睡眠中には減少していたことから、ノルエピネフリンの有効性における睡眠に関連した一時的な低下が、グリンファティック流の増加につながったことを示唆している。
◆脳内のリンパ系は栄養も届けている。
さらに、脳内の老廃物の排出だけでなく、栄養も届けている可能性も示唆されています。
興味深いことに、グリンファティック系を流れる液体は、老廃物を除去するだけでなく、脳組織に様々な栄養素や他の物質を届けている可能性がある。新しい研究では、グルコースをニューロンに届けてエネルギーを供給することが明らかになった。
◆まとめ
これらのことから、脳内にはグリンファティック系と呼ばれるリンパ-グリアによる老廃物の排出経路があり、それのおかげで脳の機能が維持されていると考えられます。
またその機構は老廃物の排出だけではなく、グルコースなどの栄養素を脳内に届けている可能性があります。
まだまだラットレベルでの研究だはありますが、ヒトでもこのような機構が存在する可能性があります。
参考文献:Brain Drain
Maiken Nedergaard and Steven A. Goldman
◆考察
睡眠不足によって、痛みが増えてしまうということは前から言われていました。
その要素の一つとして、脳内の老廃物をちゃんと排出できないことが原因として考えられます。
末梢神経でも排出が大切ですが、脳内も同じこと。
どちらにせよ、しっかりと睡眠を取る必要はありますね。