はじめに|身体図式(ボディ・スキーマ/Body Schema)とは何か
私たちは自分の身体の位置や大きさを常に意識しているわけではありません。
それでも歩くことができ、物をつかみ、姿勢を保つことができます。
このような身体の位置や形状の感覚は、脳の中に存在する 身体図式/ボディスキーマ(Body Schema) と呼ばれる仕組みによって支えられています。
身体図式とは、脳が作る 身体の内部モデル です。
この内部モデルによって、私たちは視覚に頼らなくても身体を正確に動かすことができます。
身体図式とは何か
身体図式とは、脳の中に形成される身体の位置や形状の表象です。
脳は身体からの感覚入力を統合し、現在の身体の状態を推定します。
このとき脳の中に作られる身体の内部地図が身体図式です。
身体図式には身体の位置、大きさ、姿勢、運動といった情報が統合されています。
この内部モデルによって、私たちは視覚に頼らなくても身体を動かすことができます。
身体図式とボディマップ(Body Map)の違い
身体図式と似た概念として ボディマップ(Body Map) があります。
ボディマップとは、体性感覚野などに存在する身体部位の神経表現です。
有名な例として、体性感覚野に存在する ホムンクルス(homunculus) が知られています。
これは手や唇、顔など感覚受容の多い部位ほど大きく表現される神経地図です。
一方で身体図式は、単なる感覚地図ではありません。
身体図式は感覚入力だけでなく、運動情報や脳の予測を統合して形成される 動的な身体モデル と考えられています。
つまりボディマップが脳の感覚地図であるのに対し、身体図式は身体を動かすための内部モデルという違いがあります。
身体図式と身体イメージ
身体図式と混同されやすい概念として 身体イメージ(body image) があります。
身体図式は運動制御に関係する無意識的な身体モデルです。
一方で身体イメージは、自分の身体についての主観的認識を指します。
例えば「腕が長い」「身体が歪んでいる」「肩が重い」といった感覚は身体イメージに関係します。
つまり身体図式が無意識の運動モデルであるのに対し、身体イメージは主観的な身体認識といえます。
身体図式を作る感覚入力
身体図式は単一の感覚だけで形成されるわけではありません。
複数の感覚入力が統合されることで成立します。
特に重要とされるのが固有受容感覚、皮膚感覚、内受容感覚です。
固有受容感覚は筋肉や関節の位置情報を脳へ伝えます。
皮膚感覚は触覚や皮膚の伸張などの情報を伝えます。
内受容感覚は心拍や呼吸など身体内部の状態を脳へ伝えます。
脳はこれらの感覚情報を統合し、身体の状態を推定する内部モデルを形成します。
皮膚感覚と身体図式
皮膚感覚も身体図式の形成に重要な役割を持っています。
皮膚にはメルケル細胞、マイスナー小体、パチニ小体、ルフィニ終末などの感覚受容器が存在します。
特に ルフィニ終末(Ruffini endings) は皮膚の伸張を検出する受容器として知られています。
皮膚の張力が変化すると、その情報が脳へ伝わり関節位置の知覚や姿勢認識に影響します。
このため身体図式は筋肉や関節だけでなく、皮膚からの感覚入力も含めた複数の情報によって形成されると考えられています。
身体図式と慢性疼痛
慢性疼痛では身体図式の変化が起こる可能性があります。
研究では、慢性疼痛のある人では身体認識が変化することが報告されています。
例えば痛みのある部位が大きく感じたり、身体の位置感覚が変化する現象などです。
このような変化は、脳の身体モデルが変化している可能性を示唆しています。
慢性疼痛では身体の構造だけでなく、脳による身体認知の変化が関係している可能性があります。
結論
身体図式とは、脳が作る身体の内部モデルです。
この内部モデルによって、私たちは身体の位置や動きを把握することができます。
身体図式は固有受容感覚、皮膚感覚、内受容感覚など複数の感覚入力の統合によって形成されます。
また身体図式は脳の感覚地図であるボディマップとは異なり、感覚と運動を統合した動的な身体モデルとして機能します。
そのため身体機能を理解するためには、骨格や筋肉といった構造だけでなく、脳が作る身体モデルという視点 も重要になります。
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