「〇〇ということが分かっています」という表現の危うさ・科学的発信におけるエビデンスと立場
医療・施術・健康分野の情報発信において、「〇〇ということが分かっています」という表現は、一見すると科学的で信頼性が高いように見えます。
しかしこの言い回しは、あたかも100%確定した事実であるかのような印象を与えてしまう点で、慎重に扱う必要があります。
より科学的な表現とは何か
科学的態度に近い表現は、たとえば次のようなものです。
• 「〇〇という研究報告があります」
• 「〇〇ということを示唆する論文が存在します」
• 「私の臨床経験上、この条件では〇〇となることが多いです」
これらは、
• 根拠の種類(研究か、経験か)
• 確実性の程度
• 解釈の余地
を明示しており、情報の限界を含めて提示している点で、より科学的です。
一方で、
「〇〇ということが分かっています」
という表現は、
• 誰が
• どの方法で
• どのレベルで
分かっているのかが省略されており、不確実性が不可視化されるという問題を含みます。
エビデンスレベルという視点
「エビデンスがある/ない」という二分法は、科学的には正確ではありません。
重要なのは、エビデンスの“レベル”です。
たとえば、
• 症例報告
• 観察研究
• ランダム化比較試験
• システマティックレビュー
これらはすべて「エビデンス」ですが、信頼度は同一ではありません。
したがって、
• 根拠がある=正しい
• 根拠がない=効果がない
という単純な構図にはなりません。
エビデンスベースとサイエンスベースの違い
ここで整理しておくべきなのが、エビデンスベースとサイエンスベースの違いです。
エビデンスベース
• 既存の研究データを重視する立場
• 「何が観測されたか」を基準にする
サイエンスベース
• 解剖学・生理学・神経科学などの理論構造を重視する立場
• 「なぜそうなるのか」を説明しようとする
両者は対立概念ではなく、本来は補完関係にあります。
仮説は常に間違っている可能性を含む
科学において重要なのは、正しさではなく反証可能性です。
• 根拠があっても
→ 仮説が間違っている可能性は残る
• 理論的に筋が通っていても
→ 実測結果が否定することもある
この前提を忘れた瞬間、「科学」は「信念」に変わります。
科学的態度とクリティカルシンキング
科学的であるとは、
• 断定しないこと
• 出典を明示すること
• 限界を含めて語ること
• 反証の余地を残すこと
です。
さらに重要なのが、クリティカルシンキング(批判的思考)です。
それは、
• その研究はどのような条件で行われたのか
• サンプルサイズは十分か
•仮説のバイアスは無いか(利益相反など)
• 解釈が飛躍していないか
といった点を検討し、情報をそのまま受け取らず、妥当性を吟味する姿勢を指します。
DNMJAPANの情報発信方針について
DNMJAPANでは、科学的態度およびクリティカルシンキングに基づいた情報発信を重視しています。
そのため、以下の姿勢を基本方針としています。
• 「〇〇ということが分かっています」といった断定的な表現は用いない
• 常に不確実性を含めて説明する
• 論文・研究に基づく説明と、個人的・臨床的経験則による説明を明確に区別する
• 「正しい/正しくない」という二分法ではなく、
「妥当性が高い/低い」という表現を用いる
• 前提条件・研究デザイン・解釈の妥当性を検討する
・クリティカルシンキングを重視する
私たちは、
「根拠がないから否定する」
「論文があるから正しいと断定する」
という、どちらか一方に偏った立場は取りません。
あらゆる知見は、確定した真理ではなく仮説として扱うべきものであり、常に検証と再検討の対象となります。
仮説として扱い、批判的に吟味し、検証し続ける態度を保つこと。
それこそが、臨床と科学を現実的につなぐ立場であると、DNMJAPANは考えています。
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