なぜ症状は良い日と悪い日を繰り返すのか|神経系の揺らぎと非線形回復

ペインサイエンス
目次

なぜ症状は良い日と悪い日を繰り返すのか

慢性的な痛みやしびれでは、症状が毎日同じ強さで続くとは限りません。

昨日は楽だったのに今日はつらい、一度落ち着いたと思ったのにまた気になる、という波のような変化を経験する方は少なくありません。

多くの人は回復を、時間とともに少しずつ良くなる直線的な変化としてイメージします。

しかし慢性疼痛では、症状が揺らぎながら、全体として少しずつ安定していくことがあります。

そのため、良い日と悪い日があること自体を、すぐに悪化と結びつけすぎないことが大切です。

▶︎ 慢性疼痛とは何か

神経系はいつも同じ状態ではありません

身体の状態は、1日の中でも少しずつ変化しています。

神経科学では、身体反応は次の流れで理解されます。

身体

= 感覚入力 → 神経処理 → 神経系の出力

身体から中枢神経へ送られる感覚入力は、姿勢、筋活動、皮膚の触覚、関節の状態、末梢神経の状態、睡眠や疲労の影響などによって常に変化しています。

さらに中枢神経の処理も固定されているわけではなく、そのときの身体状態や環境、過去の経験によって変わります。

その結果として生じる痛みや筋緊張、動かしにくさといった身体反応も一定ではありません。

つまり神経系は、完全に同じ状態を保ち続ける仕組みではなく、揺らぎながら変化する仕組みです。

そのため症状にも日ごとの波が出ることがあります。

▶︎ 神経入力とは何か

▶︎ 神経処理とは何か

▶︎ 神経系の出力とは何か

身体には自然な揺らぎがあります

神経系は、機械のように毎回まったく同じ反応を返すシステムではありません。

神経細胞の発火やシナプス伝達には、常にわずかなばらつきや変動があります。

このような変動は、異常というより、生体がもともと持っている自然な揺らぎの一部です。

身体はその揺らぎを含みながら、環境や身体の状態に合わせて調整されています。

そのため、症状が少し変動すること自体は、必ずしも悪いことではありません。

慢性疼痛では小さな変化が症状に反映されやすくなります

慢性疼痛では、中枢神経系の感受性が高まっていることがあります。

この状態は中枢性感作と呼ばれます。

中枢性感作では、通常であれば問題にならないような感覚入力でも、強く知覚されやすくなることがあります。

そのため、姿勢の変化、身体活動、皮膚からの触覚、末梢神経の状態の変化など、日常の小さな違いが症状の変動として現れることがあります。

つまり、症状が日によって変わるのは、必ずしも新たな損傷が起きているからではなく、神経系が入力の変化に敏感になっているために起こる場合があります。

▶︎ 中枢性感作とは何か

こうした神経処理は無意識のうちにも起こります

感覚入力の評価や、身体にとって安全かどうかの判断は、必ずしも意識的に行われているわけではありません。

多くの神経処理は無意識のレベルで進んでいます。

そのため、ご本人が特に何もしていないつもりでも、身体からの小さな入力の変化が中枢神経で強く処理され、痛みや違和感として知覚されることがあります。

これは気のせいという意味ではなく、神経系の情報処理として起こりうる現象です。

予測も症状の波に影響します

近年の神経科学では、脳は身体の状態を予測しながら感覚入力を処理していると考えられています。

身体からの入力と過去の経験をもとに、何が起きているかを評価し、その結果として症状の知覚が形づくられます。

慢性的な痛みが長く続いている場合、中枢神経は身体からのちょっとした変化を警戒すべきものとして予測しやすくなることがあります。

そのため、普段なら気にならない小さな変化でも、その日は症状として前に出てくることがあります。

こうした予測の影響も、良い日と悪い日を繰り返す理由の一つです。

▶︎ 予測脳とは何か

▶︎ 予測符号化とは何か

回復は一直線ではありません

神経系がこのような性質を持つことを考えると、回復は必ずしも一直線には進みません。

良い日があり、少し悪い日があり、また少し落ち着く。

そのような変動を繰り返しながら、全体として少しずつ安定していくことがあります。

このような回復の形は、直線的な回復ではなく、波を伴いながら進む回復として理解した方が現実に近いことがあります。

つまり、症状の揺らぎは必ずしも悪化ではなく、神経系が新しい状態に適応していく過程の一部として起こる場合があります。

強い刺激で悪化した痛みとは分けて考える必要があります

ここで大切なのは、慢性疼痛にみられる症状の揺らぎと、強い刺激による組織損傷や炎症を同じものとして扱わないことです。

強いマッサージや無理な刺激のあとには、局所組織への負担によって侵害受容入力が増えることがあります。

一方で、慢性疼痛でみられる日ごとの揺らぎは、必ずしも新しい組織損傷を意味せず、神経系の感受性や入力処理の変化として説明しやすい場合があります。

同じ「痛い」でも、その背景にある生理学的な意味は同じとは限りません。

DNMではこの揺らぎをどうみるか

DNMでは、痛みを単なる局所組織の問題としてではなく、末梢からの入力と神経系の処理の結果として捉えます。

そのため施術後に数日ほど症状が少し揺らぐ場合も、それだけで失敗や悪化と判断するのではなく、身体が新しい入力に適応している途中として慎重に観察します。

もちろん、強い悪化や不安が強い場合は別途確認が必要ですが、軽い波があること自体は珍しいことではありません。

慢性的な痛みやしびれが続いている方は、症状の波を一人で抱え込まず、神経科学に基づく視点から整理していくことも大切です。

▶︎ 神経科学に基づく施術について見る

症状が揺らいだときの考え方

症状が少しぶり返したように感じると、不安になる方は少なくありません。

しかし、強い刺激や明らかな新しい損傷がない場合、数日の変動だけで悪化と決めつける必要はありません。

大切なのは、その日の一瞬だけで判断するのではなく、数日から数週間の流れの中で身体の変化をみることです。

無理のない範囲で生活を続け、必要なセルフケアを淡々と続けながら、全体としてどう変わっているかを確認していくことが重要です。

結論

慢性疼痛では、回復が一直線に進むとは限りません。

神経系は常に揺らぎながら状態を変化させており、身体からの入力や神経処理の変化によって、症状も日によって変動します。

そのため、良い日と悪い日があることは、必ずしも悪化を意味するわけではありません。

症状の波を単なる後戻りとして捉えるのではなく、神経系の揺らぎと非線形な回復の一部として理解することが、慢性疼痛を落ち着いてみていくうえで重要になります。

 


関連コラム|ペインサイエンスの理解を深める

▶︎ ペインサイエンスとは何か

▶︎ 慢性疼痛とは何か

▶︎ 痛みをどう理解するか

神経科学の理解を深める|DNM JAPAN 理論3つの軸

DNM JAPANでは、ペインサイエンス、末梢神経の構造と機能、そして臨床家に必要なクリティカルシンキングを、神経科学の視点から整理しています。

ペインサイエンス

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!
目次