神経系の処理とは何か
神経科学では、身体は入力・処理・出力という枠組みで理解することができます。
皮膚、筋肉、関節、内臓などからの感覚情報は神経系へ入力され、その情報は中枢神経で処理されます。
そしてその結果として、痛み、筋活動、姿勢、血流などの身体反応が出力されます。
この中枢神経で行われる情報統合の過程を英語では neural processing(神経処理)と呼ばれます。
ここで使われる「処理」という言葉は単なる機械的な反応を意味するものではありません。
神経科学における処理とは、感覚入力、過去の経験、記憶、文脈など複数の情報を統合し、どのような身体反応を生み出すかを決定する情報統合の過程を指します。
つまり神経処理とは、身体からの情報を統合し、身体反応を決定する神経系の情報処理過程です。
脳は単に入力に反応しているわけではない
従来のモデルでは、脳は感覚入力を受け取り、それに対して反応すると考えられてきました。
しかし近年の神経科学では、脳は単に入力に反応しているのではなく、常に身体や環境の状態を予測していると考えられています。
脳は過去の経験や記憶をもとに身体の状態を予測し、その予測と実際の感覚入力を比較しながら身体反応を調整します。
この考え方は 予測脳(predictive brain) と呼ばれることがあります。
予測符号化(predictive coding)という考え方
予測脳の働きを説明する代表的なモデルの一つが 予測符号化(predictive coding)です。
このモデルでは、脳はまず身体や環境の状態を予測し、その予測と実際の感覚入力を比較します。
そしてその差、すなわち予測誤差(prediction error)をもとに予測を更新します。
つまり神経系は、単純に入力を処理しているのではなく、予測と感覚入力の差を調整しながら情報処理を行っています。
予測に基づく神経処理
この視点から見ると、神経処理は単なる入力処理ではなく、予測と感覚入力を統合する情報処理として理解することができます。
脳は過去の経験や記憶をもとに身体の状態を予測し、その予測と感覚入力との差(予測誤差)を調整しながら身体反応を決定します。
つまり身体反応は単に入力によって決まるのではなく、予測、感覚入力、文脈などを統合した神経処理の結果として生じます。
このような情報処理の枠組みは 予測に基づく神経処理(predictive neural processing)と理解することができます。
痛みも予測に基づく神経処理の結果
ペインサイエンスでは、痛みは単なる組織損傷の信号ではなく、脳によって生成される知覚と理解されています。
身体からの侵害受容信号は神経系へ入力されますが、それが必ず痛みとして知覚されるわけではありません。
脳は過去の経験や文脈をもとに身体の状態を予測し、その予測と感覚入力を統合して痛みを生成することがあります。
この意味で痛みは、単純な入力ではなく、予測に基づく神経処理の結果として生じる知覚と考えることができます。
神経処理は文脈(コンテクスト)の影響を受ける
神経処理は身体からの感覚入力だけで決まるわけではありません。
人の脳は周囲の状況や経験、意味づけを含めて身体反応を調整しています。
環境、安心感、恐怖、過去の経験、施術者との関係などは神経処理に影響します。
このような状況や意味づけの総体は コンテクスト(文脈)と呼ばれることがあります。
そのため身体の反応は、単純な刺激の結果ではなく、神経系が文脈を含めて統合した情報処理の結果として生じる可能性があります。
徒手療法と神経処理
徒手療法では、皮膚や身体組織に触れることで感覚入力が変化します。
皮膚には多くの感覚受容器が存在し、触覚や圧覚などの情報が神経系へ伝えられます。
この入力は神経処理に影響し、その結果として痛み、筋活動、血流などの身体反応が変化することがあります。
この視点から見ると徒手療法は、身体組織を直接変化させるというよりも感覚入力を通して神経処理に影響し、結果として身体反応の出力を変化させる可能性のある介入として理解することができます。
結論
神経処理とは、身体からの感覚入力を統合し、どのような身体反応を生み出すかを決定する神経系の情報処理過程です。
近年の神経科学では、この神経処理は単純な入力処理ではなく 予測に基づく処理として理解されています。
脳は過去の経験や文脈をもとに身体の状態を予測し、感覚入力との誤差を調整しながら身体反応を決定します。
つまり身体反応は
感覚入力
↓
神経処理
↓
神経系出力
という枠組みで理解することができます。
身体を理解するためには、組織の状態だけでなく 予測に基づく神経処理という視点が重要になります。
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