肩の画像所見と痛みは一致するのか|腱板断裂・MRI研究から肩痛を再考

画像初見と痛み
目次

はじめに|肩の画像所見は痛みの原因なのか

肩の痛みの臨床では、MRIや超音波検査などの画像所見が原因として説明されることがあります。

代表的なものとして

・回旋筋腱板断裂
・肩峰下インピンジメント
・肩関節唇損傷
・腱炎や滑液包炎

などが挙げられます。

しかし近年の研究では、画像所見と症状が必ずしも一致しない可能性が数多く報告されています。

つまり、画像で確認された構造変化だけでは痛みを十分に説明できない場合があるということです。

本記事では、肩の画像所見と痛みの関係について研究を整理し、臨床的に検討します。

無症状者にも多い肩のMRI・超音波異常

画像研究では、痛みがない人にも多くの構造異常が確認されることが報告されています。

肩の回旋腱板が損傷していても痛みを起こしていないという研究があります。

「無症状の患者411人の23%において、回旋腱板の損傷の証拠を見出した。50〜59歳のグループでは、患者の13%(167人のうち22人)が損傷。

60〜69歳では、患者の20%(108人中22人)が損傷。70〜79歳では、患者の31%(87人のうち27人)が損傷していた。

80歳以上では、51%(49人のうち25人)の患者が損傷していた。

したがって、無症状の肩を有する患者における回旋腱板の損傷は、年齢の増加とともに実証された。結果、回旋腱板の裂傷は、必ずしも疼痛および機能障害を引き起こすとは限らない、「正常な」変性衰弱とみなされなければならない。」

Age-related prevalence of rotator cuff tears in asymptomatic shoulders.
Tempelhof S, et al. J Shoulder Elbow Surg. 1999 Jul-Aug.

また、肩の超音波研究でも無症状者の多くに異常が確認されています。

「肩の無症状者の異常は96%に見られた。超音波検査では肩峰下-三角筋下滑液包肥厚が78%、変形性肩鎖関節症が65%、棘上筋腱炎が39%、肩甲下筋腱炎が25%、棘上筋腱滑液包外側の部分肥厚が22%、肩関節唇後部の異常が14%だった。」

Ultrasound of the Shoulder: Asymptomatic Findings in Men.

さらに別の研究でも同様の結果が示されています。

「第1群(50歳から59歳)では13%に断裂、第2群(60歳から69歳)では20%、第3群(70歳から79歳)では31%、第4群(80歳以上)では51%に断裂がみられた。肩の無症状患者における回旋筋腱板断裂の割合は患者の年齢が上がるにつれて驚くほど高くなることが示された。現時点で腱板断裂はある程度までは“正常な”摩耗変性とみなされ、必ずしも痛みや機能障害を引き起こすものではない。」

Age-related prevalence of rotator cuff tears in asymptomatic shoulders.

MRI研究でも同様の所見が報告されています。

「手術、または肩に負傷の既往歴のない無症状の成人53人の55%~72%において、上方肩関節唇損傷と一致するとMRI画像を解釈した。医師は過度の治療を避けるために、45歳から60歳の年齢のMRIによって診断された上方肩関節唇損傷が正常な年齢関連の所見である可能性があることを認識すべきである。」

High Prevalence of Superior Labral Tears Diagnosed by MRI in Middle-Aged Patients With Asymptomatic Shoulders.

これらの研究は、回旋筋腱板断裂や関節唇損傷などの画像異常が無症状者にも高頻度で存在することを示しています。特に年齢とともに発生率が増加することから、多くの所見は病的変化というより加齢に伴う変性である可能性があります。したがって、画像所見のみで痛みの原因を断定することには慎重である必要があります。

腱板断裂の重症度と肩痛

腱板断裂の重症度と痛みの関係についても研究が行われています。

慢性肩痛患者130人を対象とした研究では次の結果が報告されています。

「肩峰下痛症候群と診断された慢性肩痛患者が、痛いと感じる動作や活動において、回旋筋腱板の数やMRIで異常と報告された各腱の重症度は、痛みの発生と関連しないことを示す証拠を示した。これは、動作時痛は組織損傷の正確な表現であり、より多くの痛みはより多くの組織損傷の正確な尺度であるとする一般的な見解とは正反対である。」

Shoulder pain across more movements is not related to more rotator cuff tendon findings in people with chronic shoulder pain diagnosed with subacromial pain syndrome.

さらに回旋筋腱板断裂患者393人のMRI研究でも次の結果が示されています。

「断裂の重症度(関与する腱、牽引量)、上腕骨頭の移動の有無、棘上筋の脂肪変性の量などの指標は疼痛とは関連がなかった。患者が報告した疼痛レベルと回旋筋腱板断裂の重症度を示す解剖学的指標との間に相関関係がないことが示された。」

Symptoms of Pain Do Not Correlate with Rotator Cuff Tear Severity.

これらの研究は、回旋筋腱板断裂の重症度と疼痛の強さが必ずしも一致しない可能性を示しています。臨床では断裂の大きさや重症度が痛みの原因として説明されることがありますが、研究結果を見ると痛みの経験は単純な組織損傷の程度だけで決まるわけではない可能性があります。

肩インピンジメント症候群と手術研究

肩インピンジメント症候群に対する手術についても研究が行われています。

ランダム化比較試験では次の結果が示されています。

「肩インピンジメント症候群の患者を対象としたこの対照試験では、24ヶ月時点での関節鏡視下肩峰下除圧は、診断的関節鏡検査に比べて有益性は認められなかった。」

Subacromial decompression versus diagnostic arthroscopy for shoulder impingement: randomised, placebo surgery controlled clinical trial

さらに別の研究でも次の結果が報告されています。

「手術群と無治療群との差は、例えばプラセボ効果や術後の理学療法の結果である可能性がある。」

Arthroscopic subacromial decompression for subacromial shoulder pain (CSAW): a multicentre, pragmatic, parallel group, placebo-controlled, three-group, randomised surgical trial

これらの研究は、肩インピンジメント症候群に対する肩峰下除圧術が必ずしも大きな臨床的利益を示さない可能性を示しています。手術による構造的除圧だけで症状が説明できるとは限らず、肩痛の発生には神経系の反応や運動、心理社会的要因など複数の要素が関与している可能性があります。

結論|肩の画像所見=痛みの原因ではない可能性

これらの研究から示唆されるのは次の点です。

回旋筋腱板断裂や関節唇損傷などの画像異常は、無症状者にも高頻度で存在することが報告されています。

また腱板断裂の重症度と痛みの強さが必ずしも一致しない可能性も示されています。

さらに肩インピンジメント症候群に対する手術研究では、構造的な除圧が必ずしも症状改善につながらない可能性が報告されています。

したがって、肩の画像所見は臨床情報の一部ではありますが、痛みの原因を単独で決定するものではありません。

肩痛を理解するためには、構造変化だけでなく、末梢神経の状態と入力、そして神経系の情報処理を含めた神経科学の視点が重要になります。

 


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