腱板損傷(断裂)とは何か|まず押さえたい基本像
肩の腱板損傷(断裂)は整形外科領域でよくみられる疾患名です。
肩の挙上時痛、夜間痛、上げにくさ、力の入りにくさ、結帯や洗髪、衣服の着脱での困りごととして語られることが多く、肩外側だけでなく前方や後上方に違和感が広がることもあります。
一般には、加齢変性、反復性の負荷、外傷、炎症、オーバーユース、肩峰下組織の環境などで説明され、運動療法、物理療法、生活指導、薬物療法、徒手療法などが選択されます。
また、外傷後の急激な筋力低下、著明な挙上不能、強い安静時痛、発熱、急速な腫脹、明らかな神経脱落症状がある場合は、保存的介入のみで進めず、医師評価や画像検査を優先すべきです。
最近の研究からみた腱板損傷(断裂)|いま押さえたい知見
腱板損傷(断裂)は、近年も研究が続いています。ここでは、現在支持されている評価、介入、説明モデルを確認します。
無症状でも腱板断裂が一定数みられることは、画像所見だけで現在の症状を説明しにくいことを示しています。
60〜69歳では、患者の20%(108人中22人)が損傷。70〜79歳では、患者の31%(87人のうち27人)が損傷していた。80歳以上では、51%(49人のうち25人)の患者が損傷していた。
したがって、無症状の肩を有する患者における回旋腱板の損傷は、年齢の増加とともに実証された。
結果、回旋腱板の裂傷は、必ずしも疼痛および機能障害を引き起こすとは限らない、「正常な」変性衰弱とみなされなければならない。」
Age-related prevalence of rotator cuff tears in asymptomatic shoulders.
Tempelhof S, et al. J Shoulder Elbow Surg. 1999 Jul-Aug.
同じ傾向は別の文章でも示されています。
「第1群(50歳から59歳)では13%に断裂、第2群(60歳から69歳)では20%、第3群(70歳から79歳)では31%、第4群(80歳以上)では51%に断裂がみられた。
肩の無症状患者における回旋筋腱板断裂の割合は、患者の年齢が上がるにつれて驚くほど高くなることが示された。
現時点で腱板断裂はある程度までは“正常な”摩耗変性とみなされ、必ずしも痛みや機能障害を引き起こすものではない。」
Age-related prevalence of rotator cuff tears in asymptomatic shoulders.
慢性的な肩痛では、動作時痛の広がりとMRI所見の多さが一致しないことも報告されています。
「肩峰下痛症候群と診断された慢性肩痛患者が、痛いと感じる動作や活動において、回旋筋腱板の数やMRIで異常と報告された各腱の重症度は、痛みの発生と関連しないことを示す証拠を示した。
これは、動作時痛は組織損傷の正確な表現であり、より多くの痛みはより多くの組織損傷の正確な尺度であるとする一般的な見解とは正反対である。」
Shoulder pain across more movements is not related to more rotator cuff tendon findings in people with chronic shoulder pain diagnosed with subacromial pain syndrome.
解剖学的な重症度だけでは疼痛は読み切れません。
断裂の重症度(関与する腱、牽引量)、上腕骨頭の移動の有無、棘上筋の脂肪変性の量などの指標は疼痛とは関連がなかった。
患者が報告した疼痛レベルと回旋筋腱板断裂の重症度を示す解剖学的指標との間に相関関係がないことが示された。
Symptoms of Pain Do Not Correlate with Rotator Cuff Tear Severity.
疼痛科学からみた腱板損傷(断裂)|中枢神経での処理も含めて考える
腱板損傷(断裂)では、局所の組織変化だけでなく、そこからの侵害受容信号や感覚入力が中枢神経でどう処理されるのかを含めて理解する必要があります。
腱板損傷(断裂)を末梢神経からどうみるか|分布から読み直す
ここで大切になるのが、末梢神経の視点です。
腱板損傷(断裂)としての訴えの中にも、末梢神経の分布を踏まえた方が良いケースがあります。
肩外側から上腕外側の症状が前景にある場合は腋窩神経、肩後上方の痛みや挙上時の深部不快感が強い場合は肩甲上神経、上腕前面から前腕外側にかけての違和感や筋出力低下が目立つ場合は筋皮神経という見方が役立ちます。
しびれ、接触過敏、放散感、筋出力低下の出方まで追うことで、腱板だけをみている時には曖昧だった評価の焦点が絞られてきます。
画像上の断裂があっても、症状分布が神経分布とより強く重なるなら、その解釈は分けて考える必要があります。
結論
腱板損傷(断裂)をみる際には、診断名や画像所見をそのまま受け取るのではなく、研究知見を踏まえながら、どの動作で悪化するのか、感覚の質はどうか、症状がどこに広がるのかを丁寧に読むことが重要です。
断裂という構造変化だけで現在の訴えを決めつけず、中枢神経での処理と末梢神経の状態と入力もあわせてみる必要があります。
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