天気痛とは何か|気圧・ストレス・自律神経と慢性疼痛の関係を考える

目次

天気が悪くなると痛みが強くなるのはなぜか

「雨が降る前に痛みが強くなる」

「台風が近づくと関節がうずく」

といった訴えは、慢性疼痛のある方から臨床でよく聞かれます。

いわゆる天気痛、気象病と呼ばれる現象です。

実際に、気圧、気温、湿度などの気象条件と痛みの変化の関連を調べた研究は数多く報告されています。

ただし、天候の影響を強く受ける人もいれば、ほとんど受けない人もおり、その関係は一様ではありません。

そのため本稿では、天気痛や気象病を、関節や筋肉そのものの問題としてではなく、神経系の反応として再解釈します。

気圧変化、ストレス反応、自律神経、神経血流、神経の感作といった視点から、天候と痛みの関係をみていきます。

▶︎ 生活習慣と慢性疼痛とは何か

天気痛はどう理解すべきか

天気痛は「本当か嘘か」という二分法では捉えられません。

痛みは主観的体験であり、同じ環境変化でも強く影響を受ける方もいれば、ほとんど変化しない方もいます。

慢性疼痛では、末梢神経の状態と入力、中枢神経の感受性、情動状態、ストレス反応などが重なり、通常なら問題にならない刺激が痛みの引き金として知覚されることがあります。

したがって天気痛は、気圧だけで説明できる現象というより、神経系の感受性が高まった状態で生じる現象として理解する方が自然です。

こうした背景を考えるうえで、ストレス反応の視点は外せません。

▶︎ ストレス反応とは何か

天候と痛みの研究は一貫していない

関連を支持しない人の研究

ある研究では、関節炎患者様18人を1年以上追跡し、各個人の痛みと気象条件の関係が検討されました。

この研究の重要な点は、痛みと天候の間に明確な統計的関連が確認されなかったことに加えて、人が「雨の日に痛かった」という印象的な一致を強く記憶しやすい可能性まで論じていることです。

この結果からは、天気痛を語る際には生理学だけでなく、認知や記憶の偏りもあわせて考える必要があるといえます。

少なくとも、「天気が悪いから必ず痛くなる」という単純な因果関係は、この研究からは支持されません。

「患者(n = 18人)を1年以上研究し、関節炎の痛みと各個人に関係する気象条件との間に統計的に有意な関連性は認められなかった。

関連する統計的概念による、人々の直感的な概念の展開は、関節炎の痛みが天気の影響を受けるという信念に寄与することを示唆する。」

On the belief that arthritis pain is related to the weather
Redelmeier, et al.

低気圧とストレス反応に注目した人の研究

別の研究では、線維筋痛症の患者様を対象に、痛み、不快感、湿度、気温、気圧、ストレスとの関連が調べられました。

この研究では、低気圧と湿度上昇が痛みや不快感の増加と関連し、さらに低気圧はストレスレベルとも関連していました。

つまり、天候の影響を考えるときには、気圧そのものの物理的変化だけでなく、ストレス反応を介した神経系の変化も視野に入れる必要があります。

慢性疼痛では神経系の警戒状態が高まりやすいため、環境変化とストレス反応が重なることで、痛みの知覚が増幅される可能性があります。

「低気圧と湿度の増加は、痛みの強さと不快感の増加と有意に関連していたが、低気圧だけがストレスレベルと関連していた。」

Blame it on the weather? The association between pain in fibromyalgia,
relative humidity, temperature and barometric pressure
Fagerlund, et al.

▶︎ 交感神経と副交感神経は二択ではない

気圧変化はどのように神経系へ影響するのか

天気痛や気象病の説明として、しばしば内耳、特に前庭系の関与が指摘されます。

内耳には三半規管や耳石器があり、身体の回転や加速度だけでなく、圧力変化の影響を受ける可能性があります。低気圧環境では外耳、中耳、内耳の圧力バランスが変化し、前庭系からの感覚入力が変わる可能性があります。

前庭系からの情報は脳幹や小脳に伝わり、自律神経系とも関連するため、めまい、頭痛、吐き気、自律神経反応などにつながることがあります。

ただし、すべての天気痛が内耳だけで説明できるわけではありません。

天候による疼痛変化は、前庭系を含む複数の神経メカニズムが重なった現象として理解する方が自然です。

低気圧で痛みは悪化するのか

動物研究からみた交感神経と神経血流

また別の研究では、慢性疼痛モデルのラットを用いて、模擬的な気象変化が痛み行動に与える影響が検討されました。

この研究では、低気圧環境で機械的アロディニアや痛覚過敏、熱性アロディニアの悪化がみられ、その変化は最低気圧に達した直後に強まり、その後徐々に消失しました。

さらに論文中では、交感神経活動、寒冷による皮膚温低下、ストレスホルモン、血管収縮、虚血といった経路が悪化要因として論じられています。

つまり、低気圧によって交感神経活動や末梢循環が変化し、末梢神経の代謝環境や興奮性が変わることで、疼痛が増強する可能性が考えられます。

この仮説は生理学的には理解できますが、これはあくまで動物研究であり、そのままヒトの天気痛を説明する決定的根拠とはいえません。

「これらのラットが低気圧環境にさらされると、機械的アロディニアおよび痛覚過敏、ならびに熱性アロディニアが悪化した。さらに、機械的アロディニアの増加は、最低気圧に達した直後に現れ、低気圧環境では時間とともに徐々に消失した。交感神経系は、低気圧環境における神経障害性疼痛の悪化に寄与する。」

Weather change and pain: a behavioral animal study of
the influences of simulated meteorological changes on chronic pain
Sato, et al.

頭痛や関節痛はどう理解すべきか

低気圧や台風が近づくと頭痛や関節痛が悪化すると感じる方は少なくありません。

ただし現在の研究では、低気圧が頭痛や関節痛を直接引き起こす単一メカニズムは確立していません。

考えられているのは、交感神経活動の変化、神経血流の変化、三叉神経系の反応性、前庭系からの入力、自律神経系との相互作用などです。

慢性疼痛や片頭痛のように神経系の感受性が高まっている状態では、環境変化によるわずかな入力でも痛みとして知覚されることがあります。

そのため、天候による頭痛や関節痛は、組織そのものの変化だけでなく、神経系の反応性の変化として理解する方が妥当です。

天気痛への対処法はあるのか

現在の医学研究では、天気痛そのものを直接的に治療する確立した方法は多くありません。

ただし、痛みは神経系の状態に影響を受けるため、日常生活の中で神経系の過度な興奮を抑える工夫は重要です。

たとえば、睡眠を安定させること、過度なストレスを避けること、軽い運動を継続すること、身体を冷やしすぎないことは、痛みの変動を小さくする助けになる可能性があります。

天候そのものは変えられませんが、環境変化に対する身体の反応を悪化させにくい生活条件を整えることには意味があります。

▶︎ 運動と鎮痛の神経科学

結論

天気痛、気象病は、「気圧が痛みを起こす」といった単純な説明だけでは捉えられません。

研究をみると、天候と痛みの関係は一貫しておらず、関連を支持しない報告もあれば、低気圧や湿度、ストレス、自律神経反応との関連を示唆する報告もあります。

そのため、天候によって痛みが変化するという経験そのものを否定する必要はありませんが、それを単純な物理現象として理解するのも適切ではありません。

天気痛は、気圧という単一要因ではなく、神経の感作、情動やストレス、交感神経活動、感覚入力、環境刺激が重なって生じる現象として理解する方が妥当です。

 


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