肩関節唇損傷とは何か|まず押さえたい基本像
肩関節唇損傷は、整形外科領域でよくみられる疾患名です。
肩の深部痛、引っかかり感、不安定感、挙上時や外転/外旋時の不快感、投球や反復使用での違和感として語られることが多く、前方だけでなく後方や肩上部に症状が広がることもあります。
SLAP病変(上方関節唇の損傷)が問題になることもありますが、実際の訴えは一様ではありません。
一般には、反復性の負荷、外傷、脱臼、投球動作、加齢変化などで説明され、運動療法、生活指導、物理療法、薬物療法、徒手療法などが選択されます。
また、外傷後の著明な不安定性、急激な筋力低下、強い安静時痛、発熱、急速な腫脹、明らかな神経脱落症状がある場合は、保存的介入のみで進めず、医師評価や画像検査を優先すべきです。
最近の研究からみた肩関節唇損傷|いま押さえたい知見
肩関節唇損傷は、近年も研究が続いています。ここでは、現在支持されている評価、介入、説明モデルを確認します。
無症状でも関節唇損傷があるという画像所見が少なくないことは、MRIだけでは現在の症状を説明しにくいことを示しています。
「手術、または肩に負傷の既往歴のない無症状の成人53人の55%~72%において、上方肩関節唇損傷と一致するとMRI画像を解釈した。
医師は過度の治療を避けるために、45歳から60歳の年齢のMRIによって診断された上方肩関節唇損傷が正常な年齢関連の所見である可能性があることを認識すべきである。」
High Prevalence of Superior Labral Tears Diagnosed by MRI in Middle-Aged Patients With Asymptomatic Shoulders.
下記研究では、肩関節唇損傷やSLAP病変に対する徒手検査は、単独の検査だけで確定的に判断できるものではなく、複数の検査を組み合わせても診断精度の向上は限定的でした。
したがって、病歴と身体所見を含めた包括的な評価が重要であり、より質の高い研究が今後も必要とされているとのことです。
Which physical examination tests provide clinicians with the most value when examining the shoulder? Update of a systematic review with meta-analysis of individual tests.
「444名の患者を対象とした本後向き研究では、SLAP病変の診断における感度、特異度、および精度はいずれも、これまでの文献で報告されている値よりも低かった。
我々のデータによると、MRIはSLAP病変を除外できるものの(陰性予測値=95%)、MRI単独では正確な臨床ツールとは言えなかった。
MR関節造影では、本研究において偽陽性例が多数認められた。
関節内造影剤を用いた場合でも、MRIは外科的に確認されたSLAP病変の診断能力に限界があると結論付けた。
Accuracy of magnetic resonance imaging to diagnose superior labrum anterior-posterior tears.
MRIも万能ではなく、画像所見だけで現在の症状の主因を決めることはできません。
疼痛科学からみた肩関節唇損傷|中枢神経での処理も含めて考える
肩関節唇損傷では、局所の組織変化だけでなく、肩関節周囲からの侵害受容信号や感覚入力が中枢神経でどう統合されるのかをみる必要があります。
痛みは関節唇の状態がそのまま表れるのではなく、脊髄や脳での処理を経て出力されます。その過程では、注意、警戒、不安、過去の痛み経験、睡眠、疲労なども影響します。
そのため、肩関節唇損傷では、局所の損傷だけで症状を理解するのではなく、末梢からの入力と中枢神経での処理をあわせて捉えることが重要です。
肩関節唇損傷を末梢神経からどうみるか|分布から読み直す
ここで大切になるのが、末梢神経の視点です。
肩関節唇損傷としてまとめられる訴えの中にも、関連神経の分布を踏まえた方が捉えやすいケースがあります。
肩後上方の深部不快感や挙上時の違和感が強い場合は肩甲上神経、肩外側から上腕外側の症状が前景にある場合は腋窩神経、上腕前面から前腕外側にかけての違和感や筋出力低下が目立つ場合は筋皮神経、肩上部から頸部にかけての張りや肩甲帯の不安定さが強い場合は副神経という見方が役立ちます。
しびれ、接触過敏、放散感、筋出力低下の出方まで追うことで、関節唇そのものだけをみている時には曖昧だった評価の焦点が絞られてきます。
画像上の関節唇損傷があっても、症状分布が神経分布とより強く重なるなら、その解釈は分けて考える必要があります。
結論
肩関節唇損傷をみる際には、診断名や画像所見をそのまま受け取るのではなく、研究知見を踏まえながら、投球終末域や外転外旋位でどう悪化するのか、牽引での違和感や引っかかり感はどう出るのか、不安定感がどの場面で強まるのかを丁寧に読むことが重要です。
関節唇損傷という名称だけで理解を止めず、症状の振る舞いと神経分布まで丁寧に読むことが、臨床では欠かせません。
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