はじめに|コアスタビリティ/安定化エクササイズと腰痛
コアとは、主に体幹部の深層筋(骨盤底筋群・多裂筋・腹横筋・横隔膜)のことを言います。ローカル筋/インナーマッスルとも呼ばれています。
それらのコアを鍛えることで、体幹を安定化させるトレーニングがあります。
コアは深部の筋肉のことであり、表層の筋肉はグローバル筋/アウターマッスルと、呼ばれています。
このコアでよく出てくるのが「腹横筋」です。
腹部のコルセットのようにあるコアマッスルです。
これを鍛えることで、腰痛を軽減させるという考え方は、一般的には広まっています。
しかし、本当に、コアマッスルである腹横筋を鍛えることと、腰痛との関連性はあるのでしょうか?
また、怪我の予防や腰痛の予防にもなるのでしょうか?
コアスタビリティ/安定化エクササイズと腰痛|体幹筋・運動介入の関連性を検証する
コアスタビリティとは、体幹安定化という意味があり、体幹を鍛える、コアを鍛えるという運動が流行しています。
しかし、サイエンスから読み解くと、理論的には問題が多く含まれています。
コアトレーニングと体幹トレーニングの違い
日本では「体幹トレーニング」という言葉が広く使われていますが、海外ではcore stability という表現も多く使われています。
一般的には
コアトレーニング
・腹横筋
・多裂筋
・骨盤底筋
・横隔膜
などの深部筋を中心にしたトレーニングを指します。
一方で体幹トレーニングは
・腹直筋
・腹斜筋
・脊柱起立筋
・広背筋
・股関節周囲筋
などを含めた体幹全体の運動を指すことが多くなっています。
つまり
- コアトレーニング=深部筋中心
- 体幹トレーニング=体幹全体
という使われ方です。
腹筋の弱さや体重増加と腰痛は関係がない
下記論文によると、妊婦の方は腹部の伸張により、腹横筋や腹筋群に力が入らず、シットアップという腹筋運動ができない方が16.6%いるとされています。
この論文によるとシットアップ出来るかどうかと、妊婦の方によくある腰痛との関連性はありませんでした。
つまり、腹筋の弱さと腰痛は関連性が低いのです。
また、肥満と腰痛との関連性も低いと否定されています。つまり体重が多いからといって、腰痛になるわけではないのです。
「実際、妊婦の研究では、この広範な腹部の伸張とそれに続く筋力損失のためにシットアップを行う能力を失っていることが示された。」
「妊娠していないすべての女性がシットアップを行うことができたのに対し、妊婦の16.6%は1回のシットアップを行うことができなかった。」
「しかし、シットアップと腰痛との間に相関性はない、すなわち腹筋の強度は腰痛に関連していなかった。」
「脊柱の安定性を含む局所的な筋骨格系の問題が、妊娠中の腰痛の発症に重要な役割を果たしているという証拠はほとんどない。」
「疫学的研究は、体重増加と肥満が腰痛との関連性が弱いことを示している。」
The Myth of Core Stability
Professor Eyal Lederman
立位や歩行時には体幹筋はほぼ使われていない
立位や歩行中の体幹筋/コアマッスルは殆ど活動しておらず、32キロの荷重を加えても、伸筋と屈筋の共収縮が1%が3%に活性化するだけと言われています。
さらに慢性腰痛の方にコア安定化運動を4週間行わせても、コアマッスルの持久力が変わらなかったとのことです。
また、コアマッスルエクササイズではコア筋の筋肥大は見込めないと言われています。
「立位と歩行中、体幹筋は最小限に活動している。立位時、深部の脊柱起立筋、腰筋、腰方形筋はほとんど沈黙している。」
「一部の被験者では、これらの筋肉に検出可能なEMG活性はない。歩行中に腹直筋は平均2%の最大自発収縮(MVC)、外腹斜筋は5%のMVC 活動を行う。」
「立位中の「能動的」安定化は、体幹に32Kgの荷重が加わったときに1%MVC未満から3%MVCまで上昇すると推定される、体幹屈筋と伸筋の非常に低いレベルの共収縮によって達成される。」
「そのような低い共収縮レベルは、脊髄安定化のために強さの損失が問題になる可能性は低いことを示唆している。」
「コア安定化運動の間、「コア筋肉」の最大随意収縮(MVC)は、筋肥大に必要とされるレベルをはるかに下回るので、筋強度の増加をもたらす可能性は低いことが示されている。」
「さらに、慢性腰痛疲労の研究では、4週間のコア安定化運動は筋持久力の有意な改善を示さなかった。」
「最近の研究では、腹筋の筋力増強を促進するには70%ものMVCが必要であることが実証されている。」
The Myth of Core Stability
Professor Eyal Lederman
脊柱安定性(Spinal stability)の誤解
体幹トレーニングやコアスタビリティでは、「体幹筋を鍛えることで脊柱が安定し腰痛を予防できる」と説明されることがあります。
しかし脊柱の安定性は単純に筋力だけで決まるものではありません。
脊柱の安定性には
・椎間板
・靭帯
・筋活動
・神経系による運動制御
などが関与しています。
つまり脊柱の安定性は筋肉だけではなく、神経系と受動的構造の相互作用によって維持されています。
そのため体幹筋の強化だけで腰痛を説明することは難しいと考えられています。
コアマッスルだけを分けることはできない
コアマッスルだけを分けて使うことも、鍛えることも出来ません。
つまり、インナーマッスルやアウターマッスルというわけ方は、解剖学的な分類なだけであって、機能的には分けられないのです。
「コア安定化の原理の1つは、腹横筋を腹部の他の筋肉から隔離する方法、または「コア」を「全身」の筋肉から隔離する方法を教えることである。」
「毎日の活動またはスポーツ活動中に他のすべての体幹筋とは無関係に機能する体幹筋の「コア」グループが存在することは疑わしい。」
「このような分類は解剖学的だが、機能的な意味はない。 運動出力および筋肉の動員は広範囲であり、全身に影響を与える。」
「実際、腹横筋が特異的に活性化できるという研究からの支持はない。」
The Myth of Core Stability
Professor Eyal Lederman
内部フォーカスは運動熟練者のパフォーマンスを下げる
ある運動の初心者には内部フォーカスが良く、
熟練者には外部フォーカスがパフォーマンスを上げると言われています。
「ある運動の初心者には内部にフォーカスを向けさせることが、運動能力を向上させることになる。」
「しかし、熟練者には、内部ではなく外部にフォーカスを向けさせた方が、パフォーマンスが良くなることが分かってきている。」
「つまり、体幹筋にだけフォーカスを向ける事は、プロのアスリートなどにとって、パフォーマンスを下げさせる。」
「この原則は、腹横筋または他の筋肉群への内部フォーカスが、熟練した運動能力を低下させることを強く示唆している。」
The Myth of Core Stability
Professor Eyal Lederman
ピラティスとコアトレーニングの関係
ピラティスは体幹トレーニングとして広く知られており、腹横筋や骨盤底筋などの深部筋を意識する運動として紹介されることが多くあります。
しかし近年の研究では、体幹筋を単独で分離して働かせることは難しく、運動は複数の筋群の協調によって行われることが示されています。
そのためピラティスや体幹トレーニングを理解する際には、特定の筋肉だけではなく、動作全体の運動制御として考えることが重要になります。
なぜ、コアスタビリティ・エクササイズでも腰痛改善効果を感じるのか
コアを鍛えたから腰痛が減ったのではない
コアスタビリティのエクササイズで腰痛が改善されたと感じることがあります。これは他のエクササイズでもおなじこと。
つまり、コアを鍛えたから腰痛が減ったのではなく、身体的な運動による腰痛軽減だと言われています。
「一見したところ、再発性腰痛の治療のためのコア安定化運動の研究は有望に見える。他の治療法と比較すると、著しい改善が見られることがある。」
「コア安定化訓練が一般的な訓練と比較されるとき、…両方の運動アプローチが同等に有効であることが実証されている。」
「これらの研究は、改善が、脊柱安定性の改善よりもむしろ物理的な運動が患者に及ぼし得る肯定的な効果によるものであることを強く示唆している。」
「コア安定化のエクササイズは、他のどのような運動よりも効果的ではなく、怪我を防ぐこともない。」
「いずれの治療的影響も、コアスタビリティの問題ではなく、運動の影響に関連している。」
The Myth of Core Stability
Professor Eyal Lederman
参考:
The corrective exercise trap、NICK TUMMINELLO、JASON SILVERNAIL、BEN CORMACK
結論
これらの研究から分かることは、次の通りです。
・腹筋の弱さと腰痛の関連性は低い
・肥満と腰痛の関連性は低い
・コア筋だけを分離して鍛えることはできない
・立位や歩行では体幹筋の活動は非常に低い
・運動初心者には内部フォーカスが有効な場合があるが、熟練者ではパフォーマンスを低下させる可能性がある
・コアスタビリティエクササイズは腰痛に効果を示すことがあるが、一般的な運動より特別に優れているわけではない
これらの結果は、「体幹」や「コア」という概念だけで腰痛を説明することの限界を示しています。
インナーマッスルやアウターマッスルといった分類は解剖学的には存在しますが、実際の運動ではそれらが独立して働くわけではなく、全身の運動制御の中で統合的に機能しています。
そのため、特定の筋肉を個別に鍛えることを目的とした運動よりも、身体全体の動作や活動量を高めることが、腰痛に対する運動療法としてより重要になります。
トレーナーや理学療法士にとって重要なのは、「どの筋肉を鍛えるか」だけで運動を設計するのではなく、動作・運動習慣・身体活動量といった全体の文脈の中で運動を処方することです。
また、痛みのない範囲で身体を動かすことは、末梢神経の状態変化にも関係すると考えられます。
このように、運動が腰痛軽減に寄与する背景には、筋力だけではなく、神経系の運動制御や感覚入力の変化といった要素も関与している可能性があります。
そのため、腰痛に対する運動療法は、特定の「コア筋トレーニング」に限定するのではなく、多様な運動を用いた包括的な身体活動として考えることが重要です。
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