骨ランドマーク評価はどこまで信頼できるのか
徒手療法や運動療法では、骨格ランドマークを基準として姿勢評価やアライメント評価を行う方法が広く用いられています。
上前腸骨棘や腸骨稜、大転子などの骨指標を基準に、骨盤の傾きや関節位置を判断する方法は多くの臨床現場で利用されています。
しかし人体の骨格は完全な左右対称ではありません。
骨形態には個体差があり、同一個体でも左右差が存在します。
例えば股関節の寛骨臼構造や大腿骨頸部前捻角、骨盤形態などには個体差があり、これらは左右でも異なることがあります。
そのため、骨をランドマークとして姿勢や動作を評価する方法には一定の限界があります。
骨格形態の違いによって、同じ姿勢や同じ動作でも、関節の位置や運動方向が変化する可能性があるためです。
この点についてはいくつかの研究が報告されています。
骨盤形態の個体差とランドマーク評価の問題
「一般的な評価方法であるように、骨盤の方向を識別するために骨のランドマークを使用することは、通常の形態学的変動によって影響される可能性があり、それはどんな基本的な評価の結果にも大きく影響する可能性がある。」
Variation in pelvic morphology may prevent the identification of anterior pelvic tilt.
Preece SJ, et al.
骨盤の形態には個体差が存在するため、上前腸骨棘などのランドマークのみで骨盤の前傾や後傾を判断すると、実際の骨盤運動ではなく形態差を評価している可能性があります。
骨格構造の違いが姿勢評価の結果に影響するため、ランドマークのみで骨盤位置を判断する方法には限界があると考えられます。
大腿骨頸部前捻角の個体差
「スクワット動作は一般に、理想的な足の位置、スタンスの幅、奥行き、胴体の角度に与えられた基準を守りながら、その個人がどのように動作を実行できるかに基づいて潜在的な運動機能障害を識別するために使用される。
研究では、大腿骨頸部角度の正常な変動だけではなく、個人においても左側と右側の間の非対称的な差異を見いだした。」
A study to determine the angle of anteversion of the neck of femur.
Kingsley PC, Olmstead KL.
Study of femoral neck anteversion of adult dry femora in Gujarat region.
Zalawadia A, et al.
大腿骨頸部前捻角には個体差があり、同一個体でも左右差が存在することが知られています。
こうした骨格形態の違いは股関節の回旋可動域や動作パターンに影響する可能性があります。
そのため左右差だけを根拠に機能障害と判断することは難しく、骨格構造を考慮した評価が必要になります。
寛骨臼構造と股関節可動域
「これは、股関節寛骨臼の構造における通常な解剖学的変化に加えて、個々のスクワットのパフォーマンスに影響を与える。」
The effect of the orientation of the acetabular and femoral components on the range of motion of the hip at different head-neck ratios.
D’Lima D, et al.
Acetabular configuration and its impact on cup coverage of a subtype of Crowe type 4 DDH with bi-pseudoacetabulum.
Yi C, Ma C, Wang Q, Zhang G, Cao Y.
寛骨臼の向きや被覆率などの骨構造は股関節可動域に影響します。
骨格構造が異なれば自然にとれる関節運動の方向も変化する可能性があります。
そのため動作の違いは必ずしも異常ではなく、骨格構造に基づく個体差として理解する必要があります。
スクワット評価と骨格個体差
「股関節構造の通常な解剖学的変化は、胴体、大腿骨、脛骨の長さに加えて、最適なスクワットが個別化されることを示している。したがって、さまざまな足の位置、スタンス幅、奥行き、および胴体角度がある。
ベースラインを作成するために誰もが標準化されたスクワットポジションを使用することを望むかもしれないが、そのようなベースラインは、人間の骨格構造の解剖学的変動のために運動の処方において可能ではないかもしれない。」
The corrective exercise trap.
Nick Tumminello, Jason Silvernail, Ben Cormack.
骨格構造や四肢長には個体差が存在するため、最適なスクワット姿勢も人によって異なる可能性があります。
全員に同じ足幅や姿勢を求めると、骨格構造と一致しない動作となり、かえって関節に不自然な負荷を生じさせる場合があります。
運動フォームは骨格構造を考慮して個別化する必要があります。
結論|骨ランドマークだけで姿勢を評価することの限界
骨格形態には個体差や左右差が存在するため、骨ランドマークのみを基準として姿勢や身体機能を評価する方法には限界があります。
解剖学研究では、骨盤形態、大腿骨頸部前捻角、寛骨臼の向きなどに個体差や左右差が存在することが報告されています。
そのため、骨ランドマークだけで「正しい姿勢」や「理想的な関節位置」を一律に判断することは必ずしも合理的とは言えません。
またスクワットなどの運動で左右同一の足位置を強制すると、骨格構造の違いによって身体に不自然な負荷が生じる可能性もあります。
したがって姿勢評価や運動評価では、骨格ランドマークのみを基準とするのではなく、運動パターン、神経系による運動制御、機能的な動作を含めて総合的に判断することが重要です。
関連コラム|クリティカルシンキングの理解を深める

