アキレス腱炎とは何か|まず押さえたい基本像
アキレス腱炎は、アキレス腱周囲の痛みとして整形外科領域でよく使われる疾患名です。
症状は踵の少し上の痛み、朝のこわばり、歩き始めの痛み、走行やジャンプでの増悪、押したときの圧痛として語られ、一般にはオーバーユース、急な運動量増加、腓腹筋・ヒラメ筋複合体への反復負荷、アライメントやシューズの影響などで説明されます。
保存療法としては、運動量調整、運動療法、物理療法、生活指導、薬物療法、徒手療法などが選択されます。
ただし、急激な疼痛とともに踏み込めない、つま先立ちができない、急な腫脹や熱感が強い、発熱を伴う、夜間安静時痛が強いといった場合は、腱断裂、感染、炎症性疾患、深部静脈血栓なども含めて医師評価を優先すべきです。
最近の研究からみたアキレス腱炎|いま押さえたい知見
アキレス腱炎という名称は広く使われますが、慢性化した症例のすべてを炎症だけで説明する見方は現在では限定的です。近年は、腱の状態を負荷への反応、修復の乱れ、変性の連続体として捉え、病期に応じて介入を考える視点が支持されています。
Is tendon pathology a continuum? A pathology model to explain the clinical presentation of load-induced tendinopathy. Cook JL, Purdam CR.
アキレス腱障害は、局所の痛みだけをみて判断するのではなく、診断、画像、治療、予後、再発予防まで含めて全体として考える必要があります。
診断は臨床所見が中心で、画像は補助にとどまります。治療でも一つの方法に頼るのではなく、患者様ごとの負荷歴、機能低下、再発リスクを踏まえて組み立てることが重要だと下記研究では示しています。
Dutch multidisciplinary guideline on Achilles tendinopathy. de Vos RJ, et al.
アキレス腱炎を再検討する視点|局所所見だけでは足りない理由
一方で、アキレス腱炎には局所所見だけでは読み切れない臨床像もあります。
腱肥厚、圧痛、画像上の変化がみられても、それだけで現在の訴えを十分に説明できるとは限りません。無症候でも腱の構造変化がみられることがあり、逆に症状が強くても画像所見が軽いこともあります。
そのため、異常の有無だけで判断せず、その所見が現時点の痛みや機能低下とどう結びつくのかを考える必要があります。慢性例では、腱炎というより腱症として読んだ方が合う場合も少なくありません。
疼痛科学からみたアキレス腱炎|中枢神経での処理も含めて考える
アキレス腱炎では、局所の組織変化だけでなく、その部位からの入力が中枢神経でどう処理されているかも考える必要があります。
同じような腱の所見があっても、痛みの強さや持続の仕方が一致しないことがあります。これは、脊髄後角や脳での感覚処理、注意、予測、過去の疼痛経験、警戒状態などによって、侵害受容信号の意味づけが変化しうるためです。
そのため、アキレス腱周囲の症状をみるときは、局所負荷だけで直線的に理解するのではなく、歩き始めで強いのか、走行やジャンプ後に増えるのか、階段や坂道でつらいのか、朝の一歩目でこわばるのかを追うことが大切です。
また、局所の状態が大きく変わっていなくても、再発への不安、活動量の変化、競技や日常生活での文脈によって症状が強く感じられる患者様もいます。したがって、局所の腱所見に加えて、その入力が中枢神経でどう処理され、どのような出力として表れているのかまで含めて読む視点が必要です。
アキレス腱炎を末梢神経からどうみるか|分布から読み直す
ここで大切になるのが、末梢神経の視点です。
アキレス腱炎としてまとめられる訴えの中にも、腓腹神経と脛骨神経の分布を踏まえた方が捉えやすいケースがあります。
症状がアキレス腱の外側に偏り、外果後方や足外側へ広がるヒリヒリ感、接触過敏がある場合は、腓腹神経の可能性もあります。靴や靴下、接触で変わる表在症状が起こうる神経です。
一方で、症状がアキレス腱の内側に偏り、下腿後面深部の鈍痛や内果後方、足底方向へ続く違和感を伴う場合は、脛骨神経の視点が加わると焦点を絞りやすくなります。脛骨神経は混合神経であり、皮膚感覚だけでなく筋出力や歩行時の違和感まで含めて考える必要があります。
さらに、症状が腱中央に限局するのか、外側へずれるのか、内側へずれるのか、下腿後面から足底まで続くのかをみると、局所腱障害として読むべきか、末梢神経の状態と入力を補助線として加えるべきかが見えやすくなります。
結論
アキレス腱炎をみる際には、診断名や局所圧痛、画像所見をそのまま受け取るのではなく、研究知見を踏まえながら、どの負荷で増悪し、内側か外側か、どこまで広がり、どのような感覚として現れているのかを丁寧に読むことが重要です。腱の問題として出発しつつも、腱症という理解、中枢神経での処理、腓腹神経や脛骨神経の分布まで含めてみることで、アキレス腱周囲の症状をより立体的に理解しやすくなります。
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