腱症とは何か|足底筋膜炎・アキレス腱炎・上腕二頭筋長頭腱炎を炎症ではなく負荷不耐性から再考する

目次

腱症とは何か|まず押さえたい基本理解

腱症(Tendinopathy)は、反復負荷に対して腱の修復が追いつかず、疼痛、機能低下、負荷耐性低下として現れる病態です。

古くは腱炎という語でまとめられることが多かったものの、長引く例の多くは、典型的な炎症性疾患というより、修復不全、コラーゲン配列の乱れ、基質変化、負荷耐性低下を含む「腱症」として理解する方が、現在の視点に合っています。

この視点が重要なのは、腱の痛みをすべて炎症で説明すると、完全安静と消炎に寄りすぎるからです。

腱炎ではなく腱症という視点|何が新しいのか

腱症を理解するうえでまず重要なのは、画像や組織変化がそのまま痛みと一致するわけではない、という点です。

腱に肥厚や内部変化があっても無痛の例は少なくなく、変性があることと疼痛は同じではありません。

無症状者にも膝蓋腱の異常所見がみられることは、腱の変化そのものが痛みを一義的に決めるわけではないことを示します。

少なくとも、画像で腱の変化があるという事実だけで、今ある痛みをそのまま説明することはできません。

「無症状者集団における膝蓋腱異常の報告有病率には大きなばらつきがあり、方法論のより高い一貫性が求められる。」

Prevalence of patellar tendon abnormality in asymptomatic populations: a systematic review
MacDonald D, et al.

一方で、痛みがある場合も、それを単純に慢性炎症の残存だけで説明するのは十分ではありません。

急性期に炎症反応が関与することはあっても、長引く例では、反復負荷に対して修復が追いつかず、結合組織の配列異常や負荷耐性低下が続いている状態としてみる方が、臨床像を理解できます。

また、腱症では新生血管が注目されることがありますが、新生血管があることだけで痛みを単純に説明することもできません。

新生血管と痛みの関係は、単純な1対1の対応ではなく、慎重に考える必要があります。

▶︎ 新生血管と痛みの関係をどう考えるか

最近の研究からみた腱症|いま押さえたい知見

この論文では、腱障害は単一の状態ではなく、負荷に応じて「反応性腱障害」「腱修復不全」「変性腱障害」へと連続的に変化すると考えられています。

腱の状態を連続体として捉えることで、評価と治療をより合理的に組み立てられる、というのが中心的なポイントです。

Is tendon pathology a continuum? A pathology model to explain the clinical presentation of load-induced tendinopathy.」Is tendon pathology a continuum? A pathology model to explain the clinical presentation of load-induced tendinopathy
Cook JL, Purdam CR.

アキレス腱中部腱症では、画像よりまず臨床で評価し、完全安静ではなく、教育を併用した高負荷の腱負荷運動を第一選択にする、というのが、2024年版JOSPTガイドラインの中心的な方向性です。

Achilles Pain, Stiffness, and Muscle Power Deficits: Midportion Achilles Tendinopathy Revision 2024.」Achilles Pain, Stiffness, and Muscle Power Deficits: Midportion Achilles Tendinopathy Revision 2024
Martin RL, Chimenti R, Cuddeford T, et al.

別の論文でも、腱の病理、痛み、機能の関係は複雑であり、診断は主に臨床所見に基づき、画像は特別な場合の補助とされています。

また、完全な安静ではなく、徐々に負荷を増していくプログラムが支持され、他の治療法は主に補助的に位置づけられています。

「腱の病理、痛み、機能の複雑な関係は完全には解明されていない。腱障害の診断は主に臨床所見に基づいて行われ、画像診断は特別な場合にのみ有用である。腱障害の治療法は急増しているが、そのほとんどは根拠が乏しく、さらなる研究が必要である。

エビデンスは、完全な安静ではなく、徐々に負荷を増していくプログラムを支持しており、他の治療法は主に痛みの緩和を目的とした補助療法として用いられている。」

Current concepts in tendinopathy management: load, education, and progression-based rehabilitation
Malliaras P, Cook J, Purdam C, Rio E.

起こりやすい部位と末梢神経の視点|どこに起こり、何を見落とさないか

腱症は、反復負荷が集中する多くの部位で起こります。

代表的なのは、肩の腱板、上腕二頭筋長頭、外側上顆部、内側上顆部、殿筋腱、近位ハムストリング腱、内転筋腱、膝蓋腱、大腿四頭筋腱、アキレス腱、後脛骨筋腱、腓骨筋腱、足底筋膜です。

名称に「炎」が残っていても、実際には慢性のアキレス腱炎、足底筋膜炎、上腕二頭筋長頭腱炎などの多くが、炎症だけではなく腱症としてみた方が現在の理解に近い可能性があります。

また、長引く例では、変化するのは腱だけとは限りません。同じ部位に高頻度の負荷がかかり続けるのであれば、その周囲を走る末梢神経にも、圧迫、摩擦、伸長刺激が繰り返し加わる可能性があります。

そのため、腱症らしい局所痛に加えて、ヒリヒリ感、接触過敏、しびれ、表層の焼けるような不快感が混ざる場合には、近接する末梢神経の状態を含めて考える必要があります。

たとえば、外側上顆部腱症では橈骨神経系、アキレス腱症では脛骨神経系、膝蓋腱症では伏在神経の膝蓋下枝や大腿神経の前皮枝、足底筋膜症では脛骨神経や足底神経まで含めて読む方が、症状を理解できる可能性があります。

▶︎ 橈骨神経とは

▶︎ 脛骨神経とは

▶︎ 膝蓋下枝とは

▶︎ 大腿神経の前皮枝とは

▶︎ 足底神経とは

評価と対応|腱症をどうみて、どう進めるか

超音波やMRIは、肥厚、血流増加、内部信号変化、周囲組織の状態をみる助けになりますが、画像異常の有無だけで痛みの原因を断定することはできません。画像で変性があっても無症候はありえますし、症状が強くても画像変化が軽いこともあります。

足底筋膜症では朝の一歩目の痛みや荷重後の悪化、アキレス腱症では朝のこわばりやランニング・ジャンプでの増悪、上腕二頭筋長頭腱症では肩前方痛と挙上時痛、テニス肘やゴルフ肘では把持や前腕運動での増悪、膝蓋腱症ではジャンプや減速動作での増悪を確認します。

また、アキレス腱では断裂や滑液包病変、足底筋膜症では踵骨疲労骨折や足根管症候群、上腕二頭筋長頭腱症では腱板障害や肩関節由来の痛みを区別する必要があります。

テニス肘やゴルフ肘でも、局所所見だけで決めつけず、頚椎由来や末梢神経由来の症状が重なっていないかを確認した方がよいです。

メインの対応方法は、負荷管理と段階的な運動療法です。完全安静ではなく、痛みと機能を見ながら、等尺性、等張性、重いゆっくりした抵抗運動、競技復帰に向けた段階的負荷へ進めていく考え方が中心になります。

教育も重要です。痛みが出るからといって完全に止めるのではなく、痛みの許容範囲を設定し、症状の推移を見ながら負荷を再設計する必要があります。

装具、一時的な活動調整、部位によっては注射療法や徒手療法を併用することはありますが、これらは主役ではなく、負荷の段階を進めやすくするための補助として位置づける方が妥当です。

一方で、急性断裂、骨折、感染、腫瘍、全身性炎症疾患、神経脱落症状を示す場合は、単純なオーバーユースとして扱わない方が安全です。

外傷後の急な機能喪失、著明な腫脹、発熱、夜間安静時痛、荷重不能、急速な筋力低下、広範囲のしびれ、進行性の神経症状などがあれば注意が必要です。

▶︎ テニス肘をどう整理するか

▶︎ ゴルフ肘をどう整理するか

▶︎ 膝蓋腱症をどう整理するか

結論

腱症は、腱炎という語で一括りにするより、反復負荷に対する修復不全、結合組織の配列異常、負荷耐性低下として理解するのが現在の視点です。

足底筋膜炎、アキレス腱炎、上腕二頭筋長頭腱炎、テニス肘、ゴルフ肘なども、長引く例では炎症だけでなく腱症としてみる方必要があります。

評価では、画像や局所圧痛だけで完結せず、どの負荷で痛みが出るのか、どういう機能が落ちるのか、末梢神経の症状が重なっていないかまで丁寧にみる必要があります。

対応では、完全安静と消炎に寄りすぎず、教育と段階的負荷によって、結合組織を再構築していく視点が中心になります。

▶︎ 整形外科領域の臨床再考とは何か

 


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