肩の徒手検査は信頼できるのか|肩の痛み評価と触診テストの再現性

目次

はじめに|肩の痛みに対する徒手評価とは

肩の痛みに対して、臨床では多くの徒手検査が行われています。

例えば

  • インピンジメントテスト
  • 回旋筋腱板テスト
  • 抵抗テスト

などです。

これらの検査は、肩の痛みの原因を特定するための方法として広く用いられています。

しかし近年、これらの徒手評価の信頼性や再現性について疑問を示す研究が増えています。

本記事では、肩の徒手評価の信頼性について、システマティックレビューをもとに整理します。

徒手検査の信頼性とは何か

徒手検査の研究では、信頼性(reliability)が重要な概念になります。

信頼性とは、

「複数の臨床医がある検査を実施した場合に同じ結論に達する能力、または1人の臨床医が2回に分けて検査を実施した場合に同じ結論に達する能力」

を指します。

つまり、検査の結果が評価者によって大きく変わる場合、その検査は信頼性が低いと考えられます。

臨床評価として有用であるためには、少なくとも一定以上の再現性が必要になります。

肩の徒手検査の信頼性

肩の評価では、非常に多くの徒手検査が存在します。

代表的なものとして

  • インピンジメントテスト
  • 回旋筋腱板テスト
  • 棘上筋テスト
  • 棘下筋テスト
  • 肩甲下筋テスト
  • 上腕二頭筋テスト
  • 肩甲骨ポジション評価
  • 肩甲骨運動評価
  • 可動域評価
  • エンドフィール評価
  • 関節包内運動評価
  • 肩関節不安定性テスト
  • 肩関節唇損傷テスト
  • 圧痛評価
  • 筋筋膜性トリガーポイント

などがあります。

これらは臨床で広く使用されていますが、その信頼性は研究によって検証されています。

システマティックレビューの結果

「肩痛患者の評価に用いられる徒手検査を調査した36件の信頼性研究が特定された。」

「それらの信頼性については矛盾する証拠があり、そのほとんどが定められた信頼性の許容レベルを下回っていた。」

「これらの手順を用いて診断を行うことは説得力がなく、再現性のない方法である。」

「仙腸関節、腰椎、頚椎の身体検査手順、トリガーポイントの診断に関する多くのシステマティックレビューがある。これらのレビューのいくつかからの結論は今回の結論と非常によく似ており、全般的に信頼性のレベルが低いことが確認された。」

Reliability of physical examination tests used in the assessment of patients with shoulder problems: a systematic review

このレビューは、肩の徒手検査の多くが十分な再現性を持たない可能性を示しています。

評価者の経験や解釈によって結果が変わる場合、特定の組織を正確に識別する診断手段としては限界があります。

徒手検査は身体反応を観察する手段として有用である一方、単独で原因組織を特定する方法としては慎重な解釈が必要と考えられます。

肩甲骨運動異常と肩の痛み

肩の痛みの原因として、肩甲骨の運動異常(scapular dyskinesis)が説明されることがあります。

肩甲骨の運動異常とは、安静時または動作時における肩甲骨の位置や運動パターンの変化を指します。

しかしこの概念についても研究が行われています。

肩甲骨運動異常の研究

「肩甲骨の運動異常は安静時および動的運動時の肩甲骨の位置変化として定義される。」

「肩の症状があっても肩甲骨の運動異常を認めない人はかなり多い。」

「さらに明らかなことは肩甲骨の運動異常が認められた無症状の人の数であり」

「無症状の人の半数近くにおいて肩甲骨の運動異常は正常な所見である可能性を示唆している。」

Is it Time to Normalize Scapular Dyskinesis? The Incidence of Scapular Dyskinesis in Those With and Without Symptoms: a Systematic Review of the Literature

この研究は、肩甲骨運動異常が必ずしも症状と一致しないことを示しています。

無症状者でも高頻度に認められることから、肩甲骨運動異常を痛みの原因として単純に結び付けることには注意が必要です。

姿勢や動作パターンの多様性を考慮すると、身体の動きには個体差が大きく存在する可能性があります。

徒手評価の限界

これらの研究から分かることは、徒手評価には一定の限界が存在するという点です。

徒手検査は

  • 触診
  • 動作観察
  • 疼痛反応

などの情報を得るための方法として有用です。

しかし

  • 特定の組織損傷の特定
  • 痛みの原因の断定

を行う診断ツールとしては、再現性の問題が指摘されています。

そのため近年の臨床では、単一のテストによる診断ではなく

  • 複数の情報
  • 症状の経過
  • 神経生理学

などを統合した臨床判断が重視されています。

なぜ徒手評価だけでは説明できないのか|神経科学の視点

近年のペインサイエンスでは、痛みは単純な組織損傷の信号ではなく、神経系によって生成される体験であると考えられています。

組織で発生した侵害刺激は侵害受容器によって検出され、末梢神経を通して中枢神経へ伝達されます。

しかし、痛みの知覚はこの末梢入力だけで決まるわけではありません。

脊髄、脳幹、視床、大脳皮質などの神経ネットワークが情報を統合することで、痛みという主観的体験が生じます。

そのため

  • 侵害受容信号が存在しても痛みが生じない場合
  • 明確な侵害受容信号がなくても痛みが生じる場合

の両方が起こり得ます。

このような神経科学の視点から見ると、徒手検査によって特定の組織だけを原因として断定することには限界があります。

臨床では末梢神経入力、中枢神経処理、身体機能など複数の要素を統合して理解することが重要になります。

結論

肩の痛みに対する徒手検査は、臨床で広く用いられている評価方法です。

しかしシステマティックレビューの結果では、これらの検査の信頼性は必ずしも高いとは言えないことが示されています。

また肩甲骨運動異常についても、症状の有無と必ずしも一致しないことが報告されています。

これらの研究は、肩の痛みを理解するためには

・単一の徒手検査

・特定の組織モデル

だけではなく、より広い視点で身体機能を捉える必要があることを示唆しています。

痛みを理解するためには、末梢神経入力と中枢神経処理を含む神経科学の視点を統合することが重要になります。

神経科学の理解を深める|DNM JAPAN 理論3つの軸

DNM JAPANでは、ペインサイエンス、末梢神経の構造と機能、そして臨床家に必要なクリティカルシンキングを、神経科学の視点から整理しています。

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