はじめに|関連痛(referred pain)とは何か
臨床では、痛みが実際の刺激部位とは異なる場所に現れることがあります。
例えば
- 肩の問題で腕に痛みが出る
- 腰の問題で脚に痛みが出る
- 内臓の問題で背中に痛みが出る
といった現象です。
このように 刺激部位とは異なる場所に痛みが現れる現象は
関連痛(referred pain) と呼ばれます。
関連痛は、筋骨格系の痛みだけでなく、内臓痛や慢性疼痛でも観察される現象です。
この現象は、神経系の情報処理によって説明される可能性があります。
関連痛の研究の歴史
関連痛の研究は、20世紀初頭から行われてきました。
特に知られているのが、神経生理学者 Henry Head による研究です。
Headは内臓疾患の患者を観察し、内臓の問題が皮膚の特定領域に痛みとして現れることを報告しました。
この皮膚領域は Head’s zone(ヘッド帯) と呼ばれています。
その後の研究では、関連痛は神経回路の情報処理と関係している可能性が示されました。
現在では、関連痛は 脊髄レベルでの神経入力の統合によって説明されることが多くあります。
関連痛の神経メカニズム
関連痛のメカニズムとして広く知られているのが 収束投射仮説(convergence projection theory) です。
脊髄後角では、複数の組織からの神経入力が同じニューロンに収束することがあります。
例えば
- 皮膚
- 筋肉
- 関節
- 内臓
などの情報が同じニューロンに入力されることがあります。
このような神経回路では、脳が刺激の発生源を正確に識別できない場合があります。
その結果、痛みが実際の刺激部位とは異なる場所として知覚される可能性があります。
関連痛とデルマトーム
関連痛は デルマトーム と混同されることがあります。
デルマトームとは、脊髄神経根ごとに対応する皮膚の感覚領域を指します。
神経根障害では、デルマトームに一致した感覚異常や痛みが現れることがあります。
しかし臨床では、痛みの分布が必ずしもデルマトームと一致しないケースが多く見られます。
このような場合、関連痛や中枢神経の情報処理の変化が関係している可能性があります。
関連痛と中枢性感作
慢性疼痛では、関連痛の範囲が広がることがあります。
この現象は 中枢性感作 と関係している可能性があります。
中枢性感作では、脊髄後角ニューロンの興奮性が増加し、神経回路の情報処理が変化します。
その結果、痛みの範囲が拡大し、刺激部位とは異なる場所に痛みが現れることがあります。
このような神経回路の変化は、慢性疼痛の特徴の一つとして知られています。
徒手療法と神経入力
徒手療法や運動療法では、皮膚や末梢神経への刺激が生じます。
これらの刺激は末梢神経を通って脊髄や脳に入力され、神経回路の情報処理に影響を与える可能性があります。
そのため徒手療法の作用を理解する際には末梢神経入力と中枢神経処理という視点が重要になります。
結論
関連痛(referred pain)は、刺激部位とは異なる場所に痛みが現れる現象です。
この現象は、脊髄後角での神経入力の収束や中枢神経の情報処理によって説明される可能性があります。
慢性疼痛では、末梢神経入力と中枢神経の可塑的変化が相互に影響し、痛みの分布が変化することがあります。
そのため痛みを理解するためには、組織損傷だけではなく、神経系全体の情報処理を考えることが重要です。
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