はじめに|中枢性感作と末梢性感作の違い
慢性疼痛では、痛みの強さが組織損傷の程度と一致しないことがよくあります。
軽微な組織損傷にもかかわらず強い痛みが続く場合や、画像検査で明確な異常が見つからないにもかかわらず痛みが持続するケースもあります。
このような現象を理解するために重要な概念が
末梢性感作(peripheral sensitization)
中枢性感作(central sensitization)
です。
これらはどちらも痛みの感受性が高まる現象ですが、起こる場所やメカニズムが異なります。
本記事では、末梢性感作と中枢性感作の違いを神経科学の視点から整理します。
痛み研究の歴史と感作概念の登場
痛み研究の歴史では、いくつかの重要な理論的転換が起こっています。
1965年には Melzack と Wall によって ゲートコントロール理論 が提唱されました。
この理論は、痛みが単なる末梢信号ではなく、脊髄レベルの神経回路によって調整される可能性を示しました。
その後1980年代には、神経科学者 Clifford J. Woolf によって 中枢性感作 の概念が提唱されます。
Woolfの研究は、末梢刺激が脊髄後角ニューロンの興奮性を変化させる可能性を示しました。
一方で、侵害受容器の研究からは 末梢性感作 という概念が明らかになりました。
炎症や組織損傷が起こると、侵害受容器の感受性が変化し、痛み信号が発生しやすくなることが示されています。
現在のペインサイエンスでは、慢性疼痛は
・末梢神経
・脊髄
・脳
の複数レベルの神経回路が関与する現象として理解されています。
末梢性感作とは何か
末梢性感作とは、侵害受容器の感受性が増加し、侵害刺激に対する反応が強くなる現象です。
組織損傷や炎症が起こると、侵害受容器の閾値が低下します。
その結果、通常では痛みを生じない刺激でも侵害受容器が反応するようになります。
炎症部位では
・プロスタグランジン
・ブラジキニン
・ヒスタミン
・サイトカイン
などの炎症性メディエーターが放出され、侵害受容器の活動を増強します。
このような末梢レベルの変化が、末梢性感作の基本的なメカニズムです。
中枢性感作とは何か
中枢性感作とは、脊髄や脳など中枢神経系の神経回路が変化し、痛み信号の処理が増幅される現象です。
侵害刺激が長期間持続すると、脊髄後角ニューロンの興奮性が増加します。
この変化には
・シナプス可塑性
・NMDA受容体活性化
・抑制系神経の機能低下
などが関与すると考えられています。
その結果、同じ刺激でもより強い痛みとして知覚されるようになります。
末梢性感作と中枢性感作の違い
末梢性感作と中枢性感作は、起こる場所とメカニズムが異なります。
末梢性感作
・発生部位:侵害受容器(末梢神経終末)
・原因:炎症や組織損傷
・特徴:組織損傷部位と比較的一致する痛み
中枢性感作
・発生部位:脊髄や脳
・原因:神経回路の可塑性
・特徴:痛みの拡大や異痛症
慢性疼痛では、末梢性感作と中枢性感作が同時に存在することもあります。
感作によって起こる症状
感作が起こると、痛みの感じ方が変化します。
代表的な現象として
痛覚過敏(hyperalgesia)
侵害刺激に対する痛み反応が過剰になる状態です。
異痛症(allodynia)
通常は痛みを伴わない刺激が痛みとして知覚される状態です。
痛みの拡大
痛みの範囲が組織損傷の部位を超えて広がることがあります。
これらの症状は、中枢神経の情報処理の変化と関係している可能性があります。
徒手療法と神経入力
徒手療法や運動療法では、皮膚や末梢神経への刺激が生じます。
これらの刺激は末梢神経を通って中枢神経へ伝達され、痛み処理のネットワークに影響を与える可能性があります。
そのため徒手療法の作用を理解する際には筋肉、関節といった構造だけではなく末梢神経入力と中枢神経の情報処理という視点が重要になります。
結論
末梢性感作と中枢性感作は、慢性疼痛を理解する重要な概念です。
末梢性感作は侵害受容器レベルの感受性変化であり、中枢性感作は脊髄や脳の神経回路の変化によって生じます。
慢性疼痛では、末梢神経入力と中枢神経処理が相互に影響し合う可能性があります。
そのため痛みを理解するためには、組織損傷だけではなく、神経系全体の情報処理を考えることが重要です。
関連コラム|ペインサイエンスの理解を深める

