はじめに|アロディニア(異痛症)とは何か
慢性疼痛では、通常は痛みを伴わない刺激が痛みとして感じられることがあります。
例えば
- 衣服が触れる
- 軽く撫でられる
- 風が当たる
といった刺激で痛みが生じることがあります。
このような現象は アロディニア(allodynia) または 異痛症 と呼ばれます。
アロディニアは、慢性疼痛や神経障害性疼痛で見られる代表的な症状の一つです。
この現象は、神経系の情報処理の変化によって生じる可能性があります。
アロディニアの研究の歴史
アロディニアという概念は、神経障害性疼痛研究の中で整理されてきました。
国際疼痛学会(IASP)は、アロディニアを
「通常は痛みを引き起こさない刺激によって生じる痛み」
と定義しています。
神経障害性疼痛の研究では、神経損傷後に触覚刺激が痛みとして知覚される現象が報告されてきました。
動物研究では、神経損傷後に脊髄後角ニューロンの活動が変化し、触覚入力が痛み回路に伝達される可能性が示されています。
これらの研究は、アロディニアが単なる末梢刺激ではなく 神経回路の変化と関係している可能性を示しました。
アロディニアの種類
アロディニアにはいくつかの種類があります。
代表的なものとして次の3つが知られています。
機械的アロディニア
軽い触覚刺激や圧刺激によって痛みが生じる状態です。
例えば、衣服が触れるだけで痛みを感じることがあります。
動的アロディニア
皮膚を撫でるような動く刺激によって痛みが生じる状態です。
ブラシや手で軽く触れた際に痛みを感じることがあります。
温度アロディニア
通常では痛みを伴わない温度刺激によって痛みが生じる状態です。
軽い温度変化でも痛みとして知覚されることがあります。
アロディニアの神経メカニズム
アロディニアの神経メカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかの仮説が提唱されています。
一つの仮説は 触覚入力の再編成(reorganization)です。
通常、触覚情報はAβ線維を通って脊髄後角に伝達されます。
一方、侵害受容信号は主にAδ線維やC線維によって伝達されます。
しかし神経損傷や中枢神経の可塑性によって、触覚入力が侵害受容回路に伝達される可能性が指摘されています。
このような神経回路の変化が、アロディニアの一因と考えられています。
アロディニアと中枢性感作
アロディニアは 中枢性感作と関連する症状として説明されることが多くあります。
中枢性感作では、脊髄後角ニューロンの興奮性が増加し、神経回路の情報処理が変化します。
その結果、通常は痛みを伴わない触覚刺激でも痛みとして処理される可能性があります。
このような変化は、慢性疼痛や神経障害性疼痛で見られることがあります。
アロディニアと痛覚過敏の違い
アロディニアと混同されやすい概念に 痛覚過敏(hyperalgesia) があります。
痛覚過敏は、侵害刺激に対する疼痛反応が過剰になる現象です。
一方、アロディニアは 通常は痛みを伴わない刺激が痛みとして知覚される現象です。
この違いは、慢性疼痛を理解する上で重要です。
徒手療法と触覚入力
徒手療法や運動療法では、皮膚や末梢神経への触覚刺激が生じます。
触覚刺激はAβ線維を通って脊髄へ伝達され、神経回路の情報処理に影響を与える可能性があります。
このような神経入力の変化が、痛み知覚の変化と関係する可能性があります。
そのため徒手療法の作用を理解する際には筋肉や関節といった構造だけではなく末梢神経入力と神経系の情報処理という視点が重要になります。
結論
アロディニア(異痛症)は、通常は痛みを伴わない刺激が痛みとして知覚される現象です。
この症状は、神経回路の変化や中枢性感作と関係している可能性があります。
慢性疼痛では、末梢神経入力と中枢神経処理が相互に影響し合う可能性があります。
そのため痛みを理解するためには、組織損傷だけではなく、神経系全体の情報処理を考えることが重要です。
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