はじめに|神経障害性疼痛は皮膚レベルでも起きている可能性
神経障害性疼痛の研究では、これまで
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神経損傷
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中枢性感作
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DRG(後根神経節)
などが主な焦点でした。
しかし近年、神経障害性疼痛のメカニズムとして
皮膚レベルの神経再編成
が関与している可能性が示されています。
その一つが
異所性交感神経線維の発芽(sympathetic sprouting)
です。
これは通常存在しない場所に
交感神経線維が新たに伸びてくる現象
を指します。
特に
真皮上部への交感神経線維の発芽
が、疼痛行動に関与する可能性が報告されています。
神経障害モデルで観察された交感神経線維の発芽
神経障害性疼痛モデルとして広く用いられているのが
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カフモデル(神経圧迫)
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SNIモデル(神経結紮)
です。
これらのモデルでは、神経損傷後に様々な神経変化が生じます。
「坐骨神経領域における、カフおよび神経枝の結紮(けっさつ)損傷(SNI)は、神経因性疼痛をモデル化するために広く使用されている。
皮膚の交感神経支配の変化が、神経因性疼痛の狭窄(カフ)および結紮(SNI)モデルにおける交感神経性の疼痛維持に関連した行動に寄与する重要なメカニズムを表すことを示す。」
Sympathetic fibre sprouting in the skin contributes to pain-related behaviour in spared nerve injury and cuff models of neuropathic pain.
Francisney P. Nascimento et al.
真皮上部への交感神経線維の発芽
この研究では、神経損傷後に
通常存在しない真皮上部に交感神経線維が発芽
することが観察されています。
「異所性交感神経線維は、カフおよびSNIモデルにおいて4週間後、6週間後に足底皮膚の真皮上部に発芽した。」
さらに、この変化は
疼痛行動と関連していました。
「これらの繊維はSNIモデルにおける寒冷痛覚過敏、およびカフモデルにおける機械的アロディニアの維持に寄与するように思われた。」
アロディニアとは
通常では痛みを感じない刺激でも痛みを感じる状態
です。
つまり皮膚で起こる神経再編成が
異常な痛覚感受性
に関与している可能性があります。
DRGではなく皮膚で起こる神経相互作用
興味深い点として、この研究では
DRGで交感神経発芽は確認されませんでした。
「交感神経線維はどちらのモデルでもDRGには発生しなかった。」
この結果は、
交感神経と感覚神経の相互作用が皮膚レベルで起きている
可能性を示唆しています。
つまり神経障害性疼痛は
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中枢神経
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DRG
だけでなく、
皮膚の神経ネットワーク
でも調整されている可能性があります。
神経成長因子と交感神経発芽
研究では、この発芽の原因として
神経成長因子(NGF)
の関与が示唆されています。
神経損傷後には
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神経成長因子の増加
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神経再生シグナル
が生じます。
「通常は真皮上部には存在しない交感神経線維が、神経障害モデルにおいてこの領域に広がる。
これらの線維は、真皮下部の血管を神経支配する交感神経線維から生じると考えられており、除神経領域における標的由来の神経成長因子の増加が、この現象を促進すると仮定されている。」
交感神経遮断でアロディニアが消失
さらに重要な結果として、
交感神経遮断薬によってアロディニアが消失しました。
「カフの後、交感神経繊維が真皮上部に存在する場合には、機械的異痛はグアネチジンによってのみ排除され、アロディニアの維持に関与している可能性が示唆された。」
グアネチジンは
末梢性交感神経遮断薬
です。
この結果は
交感神経が疼痛維持に関与している可能性
を示唆しています。
皮膚の細径神経と慢性疼痛
近年の研究では、
慢性疼痛と皮膚の細い神経の関連が多く報告されています。
例えば
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スモールファイバーニューロパチー
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皮膚血管シャント異常
などです。
線維筋痛症の研究では、
患者の約50%にスモールファイバーニューロパチーが存在する
という報告もあります。
これらの研究は
慢性疼痛が
皮膚レベルの神経異常
と関係している可能性を示しています。
結論|慢性疼痛は皮膚の神経再編成も関与する可能性
今回の研究から示唆されるポイントは次の通りです。
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神経損傷後に真皮へ交感神経線維が発芽する可能性がある
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この発芽はアロディニアや寒冷痛覚過敏に関与する可能性がある
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神経相互作用はDRGではなく皮膚で起きている可能性がある
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交感神経遮断でアロディニアが消失する可能性がある
慢性疼痛は
中枢神経の感作だけで説明できる現象ではありません。
皮膚の
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神経線維
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血管
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神経成長因子
などの変化も関与している可能性があります。
慢性疼痛の理解には、
中枢神経と末梢神経の両方の視点
が必要です。
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