はじめに|休みの日に痛みが出るのはなぜか
平日は問題なく働けているのに、休日になると腰痛や頭痛が強くなる人がいます。
仕事が休みの日に限って体調が悪くなる、休暇に入ると頭痛や倦怠感が出る、といった現象です。
このような現象は偶然ではなく、ストレス反応の変化と関係している可能性があります。
研究ではこの現象を レジャー病(leisure sickness) と呼ぶことがあります。
休日に見られる症状としては、頭痛、疲労感、筋肉痛、倦怠感、風邪様症状などが報告されています。
ストレスとは何か|ハンス・セリエとストレス研究
ストレスという概念を医学的に整理した人物として知られているのが ハンス・セリエ です。
セリエは1930年代に、さまざまな負荷に対して身体が共通の生理反応を示すことを報告しました。
彼はこの反応を ストレス反応 と呼び、その原因となる刺激を ストレッサー(stressor) と名付けました。
ストレッサーとは、心理的負荷、身体的負荷、環境変化など、身体に負担を与える要因を指します。
セリエはストレス反応を 警告期・抵抗期・疲弊期 の三段階からなる 一般適応症候群(General Adaptation Syndrome) として説明しました。
この研究は、ストレスが身体にどのような影響を与えるのかを理解する基礎となりました。
ストレスと扁桃体|脳の危険検知システム
ストレス反応の出発点には、脳の 扁桃体(amygdala) が関与しています。
扁桃体は、危険や脅威を検知する役割を持つ脳領域です。
不安や恐怖、強い緊張を感じると扁桃体が活性化し、身体のストレス反応が引き起こされます。
扁桃体が活性化すると、その信号は視床下部に伝えられ、身体のストレス反応システムが作動します。
HPA軸とストレスホルモン
ストレス反応の中心となるシステムが HPA軸(Hypothalamic–Pituitary–Adrenal axis) です。
これは視床下部、下垂体、副腎によって構成される神経内分泌システムです。
ストレスを受けると、このシステムが活性化し、副腎から コルチゾール が分泌されます。
コルチゾールはストレス反応を調整するホルモンであり、エネルギー代謝、炎症反応、免疫反応などに影響を与えます。
ストレスと自律神経
ストレス状態では 交感神経 が優位になります。
交感神経は身体を活動状態にする神経系であり、心拍数や血圧が上昇し、筋緊張も高まります。
このような状態では、身体は「戦闘モード」に入り、一時的に疲労や痛みを感じにくくなることがあります。
つまり症状が消えているのではなく、神経系の状態によって感じ方が変化している可能性があります。
レットダウン型頭痛(let-down headache)
片頭痛の研究では、強いストレスそのものではなく ストレスが低下したタイミングで頭痛が起こる ことが報告されています。
この現象は レットダウン型頭痛(let-down headache) と呼ばれます。
例えば、大きな仕事が終わった後、試験が終わった後、休日に入ったときなどに頭痛が起こるケースです。
研究では、ストレスが低下した 24時間以内に片頭痛が起こりやすい ことが示されています。
この現象は、ストレス反応の急激な変化と関係していると考えられています。
ストレス減少と片頭痛|レットダウン仮説の研究
レットダウン型頭痛については、ストレスの低下と片頭痛の発症の関係を調べた研究があります。
この研究では、17人の被験者が記録した2011件の日記と110回の片頭痛発作が分析されました。
その結果、ストレスそのものよりも ストレスが減少するタイミング が片頭痛発作と関連している可能性が示されました。
「ステロイド産生とその減少は、鎮痛と痛覚過敏の両方を含む、複雑で時には矛盾する作用を引き起こす。」
「グルココルチコイドの減少は、レットダウン型片頭痛の一因となる可能性がある。」
「ある日から次の日にかけてのストレス減少は、翌日の片頭痛発症と関連している。これらの結果は、ストレスレベルではなく、知覚されるストレスの変化が片頭痛発作の発症と関連していることを示唆している。」
Reduction in perceived stress as a migraine trigger. Testing the “let-down headache” hypothesis. 2014
この研究は、片頭痛の引き金が ストレスの高さそのものではなく、ストレスの変化 である可能性を示しています。
つまり高いストレス状態から急激に解放されることで、神経内分泌系や自律神経系の状態が変化し、その結果として頭痛発作が誘発される可能性があります。
レジャー病とは何か
レジャー病(leisure sickness) とは、休日や休暇のタイミングで体調不良が起こる現象を指します。
症状としては頭痛、疲労感、筋肉痛、吐き気、風邪様症状などが報告されています。
研究では、仕事中に強いストレス状態で働いている人ほど、休日に体調不良を経験する可能性が高いことが示されています。
ストレス低下と免疫反応
ストレス状態ではコルチゾールの分泌が増加します。
コルチゾールには 免疫反応を抑制する作用 があることが知られています。
そのため強いストレス状態では免疫反応がある程度抑えられています。
しかし休日になるとストレスが低下し、HPA軸の活動も変化します。
この変化によって免疫反応のバランスが変わり、風邪様症状や倦怠感、頭痛などが生じる可能性があります。
このような現象も、レジャー病の説明として議論されています。
なぜ休日に風邪をひくのか
休日に体調を崩し、風邪のような症状が出る人も少なくありません。
この現象もストレス反応の変化と関係している可能性があります。
ストレス状態では、コルチゾールによって免疫反応が抑制されています。
しかし休日にストレスが低下すると、この抑制状態が変化し、免疫反応や炎症反応のバランスが変わることがあります。
その結果、風邪様症状や喉の痛み、倦怠感などが生じることがあります。
神経系の急激な状態変化
神経系の状態が急激に変化すると、身体にはさまざまな反応が起こることがあります。
ストレス状態では交感神経優位の高覚醒状態が続いています。
しかし休日に入るとこの状態が変化し、副交感神経が優位になることがあります。
この切り替えの過程で、眠気、倦怠感、身体の重さ、頭痛などの症状が現れることがあります。
徒手刺激による反応の違い
身体への刺激によっても神経系の状態変化が起こることがあります。
ただし 強い刺激による反応と穏やかな刺激による反応は同じではありません。
強いマッサージの後に起こる揉み返しは、侵害刺激による反応として説明されることがあります。
強い刺激は侵害受容を引き起こし、炎症反応や防御反応が生じる可能性があります。
一方で穏やかな刺激による身体介入では、副交感神経が優位になり、神経系が回復状態へ移行することがあります。
このような変化には、神経系による疼痛調節の仕組みも関係している可能性があります。
この場合、眠気、だるさ、身体の重さなどの反応が出ることがあります。
特に慢性疼痛が長く続いている人では、神経系が長期間高覚醒状態にあることがあります。
そのため副交感神経優位への切り替えが起こると、一時的に強い弛緩反応として身体症状が現れることがあります。
結論
休日に腰痛や頭痛が出る現象は、レジャー病 として知られています。
この現象の背景には、ストレス反応、HPA軸、コルチゾール、自律神経、免疫反応など複数の生理学的要因が関係している可能性があります。
またストレスそのものだけではなく、ストレスが低下するタイミング が症状の引き金になることもあります。
この現象を理解するためには、単に身体構造だけではなく、神経系とストレス反応の変化を含めて考えることが重要です。
関連コラム|ペインサイエンスの理解を深める

