ヤーガソンテストとは何か
ヤーガソンテストは、上腕二頭筋長頭腱に関連する前方肩部痛を確認する整形外科的テストです。
現在では、上腕二頭筋長頭腱炎/腱症、結節間溝での長頭腱不安定性、SLAP病変を疑う場面で用いられます。
検査は一般的に座位で行います。
肘関節を約90度屈曲し、上腕を体側につけた状態で、前腕回内位から患者様に回外してもらい、検者がそれに抵抗を加えます。
方法によっては、肘屈曲抵抗を併用する場合もあります。
このとき、結節間溝部の痛み、または上腕二頭筋長頭腱の弾発や不安定感が確認されれば陽性と解釈されます。
スピードテストが肩関節屈曲抵抗で前方肩部に負荷をかけるのに対し、ヤーガソンテストは前腕回外と肘屈曲を通して上腕二頭筋長頭腱に張力を加える点が特徴です。
ただし、痛みだけを陽性とするのか、弾発や不安定感まで含めるのかで解釈が変わります。
そのため、ヤーガソンテストは病変名を決める検査ではなく、結節間溝部から前方肩部にかけての症状が、回外抵抗で再現されるかを確認する負荷テストとして扱う必要があります。
ヤーガソンテストと画像所見は一致するのか
上腕二頭筋長頭腱や滑車部を画像で確認する場合、超音波検査、MRI、MR関節造影などが候補になります。
画像では、上腕二頭筋長頭腱の腫大、腱鞘液貯留、部分断裂、脱臼や亜脱臼、滑車部損傷、SLAP病変などが確認されることがあります。
ただし、画像所見があることと、痛みの原因を説明できることは同義ではありません。
前方肩部痛は、上腕二頭筋長頭腱だけでなく、肩甲下筋、腱板疎部、関節唇、肩峰下組織、末梢神経の関与が重なって生じることがあります。
そのため、画像所見とヤーガソンテスト陽性が一致しても、それだけで上腕二頭筋長頭腱やSLAP病変を症状の主因と断定することはできません。
SLAP病変は、上方関節唇が前方から後方にかけて損傷する病態です。
しかし、関節唇の画像所見は無症状例にもみられるため、MRIやMR関節造影の結果は、病歴、症状分布、検査時の再現性と合わせて読む必要があります。
ヤーガソンテストの診断精度はどうか
この論文では、肩痛を訴える患者様を対象に、ヤーガソンテストが上腕二頭筋長頭腱病変およびSLAP病変をどの程度予測できるかが検討されています。
対象は肩痛を有する152例で、そのうち手術基準を満たした50例について、肩関節鏡所見を基準としてヤーガソンテストの診断精度が評価されました。
結果として、ヤーガソンテストは感度43%、特異度79%、陽性的中率60%、陰性的中率65%と報告されています。
この結果は、ヤーガソンテストが陽性であれば、上腕二頭筋長頭腱病変やSLAP病変を疑う参考にはなる一方で、陰性でもこれらの病変を否定できないことを示しています。
したがって、この論文から言えるのは、ヤーガソンテストを単独で病変の確定に使うのではなく、結節間溝部の痛み、不安定感、病歴、画像所見、他の身体所見と合わせて解釈する必要があるということです。
Accuracy of the Speed's and Yergason's tests in detecting biceps pathology and SLAP lesions: comparison with arthroscopic findings
Holtby R, Razmjou H
上腕二頭筋長頭腱病変に関するシステマティックレビューでは、整形外科的テストの診断精度は研究間で大きくばらつくとされています。
その中で、ヤーガソンテストは、SLAP病変を除く近位上腕二頭筋長頭腱病変を確認するうえで、比較的有用な検査として扱われています。
ただし、報告されている要約陽性尤度比は2.56、要約陰性尤度比は0.70であり、陽性で診断確率を大きく変えるほど強い検査ではありません。
また、陰性でも上腕二頭筋長頭腱病変を十分に除外できるわけではありません。
Accuracy of examination of the long head of the biceps tendon in the clinical setting: A systematic review
V. Bélanger, F. Dupuis, J. Leblond, J. S. Roy
ヤーガソンテストを末梢神経の視点から再検討する
ヤーガソンテストで前方肩部から上腕前面にかけて症状が出る場合、上腕二頭筋長頭腱や関節唇だけでなく、筋皮神経の関与も考える必要があります。
筋皮神経は腕神経叢の外側束から分岐し、烏口腕筋を貫いて上腕前面へ向かい、上腕二頭筋、上腕筋、烏口腕筋を支配します。その後、外側前腕皮神経として前腕外側の感覚に関与します。
そのため、ヤーガソンテストで結節間溝の限局痛ではなく、上腕前面の張り、だるさ、前腕外側への放散痛、しびれ、感覚異常が出る場合は、筋皮神経から外側前腕皮神経への繋がりを考える必要があります。
また、頚部、鎖骨周囲、胸郭出口部の影響が疑われる場合は、腕神経叢近位部から筋皮神経へ続く経路も確認します。
結論
ヤーガソンテストは、前腕回外抵抗によって、結節間溝部から前方肩部にかけての症状を確認する整形外科的テストです。
ただし、陽性所見だけで上腕二頭筋長頭腱炎/腱症やSLAP病変を確定することはできません。
重要なのは、痛みが結節間溝部に限局するのか、それとも上腕前面から前腕外側への放散痛、しびれ、感覚異常を伴うのかを分けてみることです。
そのうえで、上腕二頭筋長頭腱や関節唇、筋皮神経、外側前腕皮神経の関与を含めて解釈する必要があります。
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