3つの種類の疼痛とは|侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・痛覚変調性疼痛を理解する

ペインサイエンス

 

目次

3つの種類の疼痛とは

疼痛は臨床で最も一般的な症状の一つですが、その発生メカニズムは一つではありません。

近年のペインサイエンスでは、痛みは主に侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛の3つに分類されます。

この分類は単なる名称の違いではなく、どのような生理学的背景で痛みが生じているのかを整理するための枠組みです。

慢性疼痛では複数の機序が重なっていることも多いため、各分類を理解することは、評価、説明、介入方針を考えるうえで重要です。

▶︎ ペインサイエンスとは何か

侵害受容性疼痛

侵害受容性疼痛(Nociceptive pain)は、

「非神経組織への実際の損傷または、損傷の脅威から生じる、侵害受容器の活性化によって起こる痛み。」

と定義されています。

これは、筋、腱、靱帯、関節、皮膚、内臓などの非神経組織に生じた損傷や炎症、あるいはその脅威によって侵害受容器が活性化されることで生じる疼痛です。

局所では炎症メディエーターや神経ペプチドが放出され、自由神経終末の感受性や興奮性が変化します。

ここで末梢から中枢へ伝わるのは痛みそのものではなく、侵害受容信号です。

その入力が脊髄や脳で処理されることで、はじめて痛みとして知覚されます。

侵害受容性疼痛は急性疼痛の代表的な機序ですが、組織への負荷や炎症が持続すると、慢性疼痛へ移行する一要素になることもあります。

▶︎ 侵害受容性疼痛とは何か

神経障害性疼痛

神経障害性疼痛(Neuropathic pain)は、

「体性感覚系に影響を与える、病変または疾患の直接的な結果として生じる疼痛。」

と定義されています。

これは神経系そのものに病変や疾患が存在し、その結果として生じる疼痛です。

末梢神経系では、絞扼性末梢神経障害、三叉神経痛、神経根障害、腫瘍による神経圧迫、末梢神経損傷後疼痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性ニューロパチーなどが代表例です。

また中枢神経系の病変でも神経障害性疼痛は生じ、脳卒中後疼痛、外傷性脊髄損傷後疼痛、圧迫性脊髄症に関連する疼痛などが含まれます。

臨床的には、灼熱感、電撃痛、しびれ、感覚低下、異常感覚、アロディニアなどがみられることがあります。

ただし、症状の印象だけで判断するのではなく、体性感覚系に病変または疾患が存在するかどうかを評価することが重要です。

▶︎ 神経障害性疼痛とは何か

痛覚変調性疼痛

痛覚変調性疼痛(Nociplastic pain)は比較的新しい概念であり、

「末梢侵害受容器の活性化の原因となる実際のまたは明確な証拠がない組織損傷、あるいは痛みの原因となる体性感覚系の疾患や病変を示す明確な証拠がないにもかかわらず、侵害受容の変化から生じる痛み。」

と定義されています。

この分類は、明確な組織損傷や神経障害だけでは十分に説明できない疼痛を理解するための概念です。

重要なのは、異常がまったく存在しないという意味ではなく、侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛だけでは説明しきれない神経系の処理変化に注目する点です。

代表例としては線維筋痛症がよく挙げられます。

また、慢性腰痛、顎関節症、片頭痛、緊張型頭痛、過敏性腸症候群などでも、痛覚変調性疼痛の要素が関与する可能性が議論されています。

これらの状態では、末梢からの入力だけでなく、中枢神経における感覚処理、注意、予測、情動、過去の経験などが複雑に関与している可能性があります。

▶︎ 痛覚変調性疼痛とは何か

中枢性感作や中枢処理変化との関連

慢性疼痛の一部では、中枢神経系の機能変化が強く関与する状態が報告されています。

「中枢性疼痛症候群の例としては、線維筋痛症、慢性骨盤痛症候群(過敏性腸症候群、間質性膀胱炎/膀胱痛症候群、外陰部痛、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群、片頭痛、慢性疲労症候群、顎関節症)などが挙げられる。」
Potential Mechanisms Underlying Centralized Pain and Emerging Therapeutic Interventions / 2018

この引用は、慢性疼痛の一部が単一の組織損傷だけでは説明できず、中枢神経系における疼痛処理の変化と関連している可能性を示しています。

とくに線維筋痛症や慢性骨盤痛症候群のような状態では、末梢の所見だけで全体像を説明することが難しく、痛覚変調性疼痛を理解するうえでも重要な視点になります。

ただし、痛覚変調性疼痛と中枢性感作は同義ではありません。

中枢性感作は神経生理学的な現象であり、痛覚変調性疼痛は臨床的な疼痛分類です。

▶︎ 中枢性感作とは何か

痛みの分類と神経系

DNM創始者 Diane Jacobs氏は次のように述べています。

「すべての痛みは、神経系から生まれる。その後、どのようなメカニズムが痛みを“引き起こしている”かに応じて、神経障害性疼痛など、異なるカテゴリに分類される。」

この考え方は、痛みを単純な組織損傷そのものとしてではなく、神経系による情報処理の結果として理解する立場を示しています。

つまり3分類は、痛みが神経系の外にあることを意味するのではなく、どの水準の異常や変化が主に関与しているのかを臨床的に整理するためのものです。

この視点を持つことで、組織、末梢神経の状態と入力、中枢神経処理を切り離しすぎずに疼痛を理解できます。

▶︎ 痛みをどう理解するか

疼痛メカニズムは混在する

臨床では、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛が単独できれいに分かれて存在するとは限りません。

むしろ慢性疼痛では、複数のメカニズムが重なっていると考える方が自然なことが少なくありません。

例えば慢性腰痛では、初期には筋や靱帯、関節などの侵害受容性疼痛が関与し、その経過のなかで末梢神経の状態の変化や中枢神経処理の変化が加わることがあります。

さらに神経根障害や末梢神経障害を伴えば、神経障害性疼痛の要素が重なる可能性もあります。

そのため臨床では、一つの分類だけで全体を説明しようとするのではなく、どの要素がどの程度関与しているのかを継続的に評価する姿勢が重要です。

▶︎ 慢性疼痛とは何か

結論

侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛という3つの分類は、慢性疼痛を理解するための重要な枠組みです。

ただし実際の臨床では、これらは相互に排他的ではなく、複数のメカニズムが重なって存在することがあります。

そのため疼痛を理解する際には、単一の組織損傷だけで説明するのではなく、末梢神経の状態と入力、中枢神経処理、そして時間経過による変化まで含めて評価することが重要です。

 


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