胸郭出口症候群の整形外科的テストとは何か
胸郭出口症候群の整形外科的テストは、頚部から上肢にかけての姿勢変化、上肢挙上、牽引、過外転によって、しびれ、痛み、だるさ、冷感、脱力感などが再現されるかをみる検査群です。
代表的なものに、アドソンテスト、ライトテスト、ルーステスト、エデンテスト、ハルステッドテストがあります。
関連テストとして、アレンテストは過外転位に頚部回旋を組み合わせる検査、モーレイテストは鎖骨上窩付近で腕神経叢近位部への圧迫による放散症状をみる補助的な視点として扱われます。
これらに共通するのは、斜角筋部、肋鎖間隙、小胸筋下など、胸郭出口周囲に負荷がかかったときに症状がどう変化するかを確認する点です。
胸郭出口症候群は頻度が高い疾患ではない
胸郭出口症候群は、頚部から上肢へ向かう神経や血管が胸郭出口周囲で圧迫されることで、上肢のしびれ、痛み、冷感、脱力感などを生じるとされる疾患概念です。
ただし、胸郭出口症候群という診断名は広く使われますが、神経性、動脈性、静脈性では病態も頻度も大きく異なります。とくに真の神経性胸郭出口症候群は稀で、動脈性、静脈性の胸郭出口症候群も稀です。
日常臨床で胸郭出口症候群のようにみえる上肢症状には、頚椎由来の症状、末梢神経絞扼、肩関節や肩甲帯周囲の問題が重なっている場合もあります。
そのため、最初から胸郭出口症候群と決めて検査を読むのではなく、頻度の低い疾患概念であることを前提に、症状分布、画像所見、電気検査などを慎重に確認する必要があります。
胸郭出口症候群の検査所見は一致するのか
この論文では、胸郭出口症候群の診断に用いられる臨床テストの妥当性を検討しています。
10本の研究が条件を満たしましたが、最終的に検討対象として残った研究は4本のみで、研究の質は高くありませんでした。また、各研究で用いられた臨床テストや比較基準が統一されておらず、結果を統合して強い結論を出すことは困難でした。
結論として、胸郭出口症候群の診断において、臨床テストの妥当性を支持する証拠は現時点で乏しいとされています。
誘発テストで症状が再現されても、それだけで胸郭出口症候群を確定することはできません。
そのため、アドソンテスト、ライトテスト、ルーステストなどは、疾患を決める検査ではなく、頚部から上肢にかけての肢位変化で症状が再現されるかを確認する材料として扱う必要があります。
Diagnostic Accuracy of Clinical Tests for Neurogenic and Vascular Thoracic Outlet Syndrome: A Systematic Review
Dessureault-Dober I, et al.
この論文では、胸郭出口症候群が疑われた48名に対して、誘発テスト、ドップラー超音波、神経生理学的検査などを行い、それぞれの検査が診断にどの程度役立つかを検討しています。
その中で徒手による誘発テストは、平均感度72%、平均特異度53%と報告されています。
つまり、誘発テストは最終的に胸郭出口症候群と判断された患者様で陽性になりやすい一方、胸郭出口症候群ではない患者様でも陽性になりやすい検査です。
複数の誘発テストを組み合わせると特異度は改善するとされていますが、単独テストで診断を確定するには不十分です。
Diagnosing thoracic outlet syndrome: contribution of provocative tests, ultrasonography, electrophysiology, and helical computed tomography in 48 patients
Gillard J, et al.
この論文では、胸郭出口症候群の臨床テストは感度が比較的高い一方で、特異度は低く、術後成績の予測には使えないと報告されています。テストの陽性だけで胸郭出口症候群を確定したり、経過を予測したりすることはできません。
Thoracic outlet syndrome: do we have clinical tests as predictors for the outcome after surgery?
Sadeghi-Azandaryani M, et al.
各テストの違いを整理する
・アドソンテスト
検査側への頚部回旋と吸気を組み合わせ、斜角筋部を含む近位通過部に負荷をかけるテストです。
・ライトテスト
上肢を過外転位にして、小胸筋下を含む前方の通過部に負荷をかけるテストです。
・ルーステスト
肩関節90度外転・外旋、肘90度屈曲位を保持しながら手指の開閉を続け、持続負荷で症状が再現されるかをみるテストです。
・エデンテスト
肩甲帯を後下方へ引き、胸を張るような肢位で肋鎖間隙に負荷をかけるテストです。
・ハルステッドテスト
上肢への下方牽引を加え、腕神経叢近位部から末梢側への症状変化をみるテストです。
・アレンテスト
上肢を外転・外旋位にし、頚部を反対側へ回旋させた状態で、挙上位での症状変化をみる関連テストです。
・モーレイテスト
鎖骨上窩付近で腕神経叢近位部を圧迫し、上肢への放散症状が再現されるかをみる補助的な視点です。
胸郭出口症候群の整形外科的テストはどの末梢神経を示唆するのか
胸郭出口症候群でまず考えるべきなのは、C5〜T1神経根から連続する腕神経叢です。
ただし、症状の見え方はその先の末梢神経分布を帯びるため、腕神経叢だけでなく、筋皮神経、正中神経、尺骨神経、橈骨神経、腋窩神経まで含めて考える必要があります。
上腕外側から前腕外側の違和感なら筋皮神経系、母指から示指側のしびれなら正中神経系、環指尺側から小指のしびれなら尺骨神経系、上腕後面から前腕後面や手背の症状なら橈骨神経系、肩外側の症状なら腋窩神経系の視点が加わります。
さらに、肩甲帯周囲の症状が目立つ場合には、肩甲上神経、長胸神経、鎖骨上神経などの分布に近い訴えとして現れることもあります。
結論
胸郭出口症候群の整形外科的テストは、診断名を決めるための検査ではなく、頚部から上肢にかけての負荷で患者様の症状が再現されるかを確認する検査群です。
重要なのは、陽性か陰性かだけではなく、どの肢位で、どの症状が、どの分布に出たのかを具体的にみることです。
その反応をもとに、腕神経叢、各末梢神経、頚椎、血管系、肩甲帯周囲の問題を鑑別していく必要があります。
したがって、これらのテストは胸郭出口症候群を確定するためではなく、上肢症状を次にどう評価するかを決める材料として位置づけるのが妥当です。
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