トーマステストとは何か
トーマステストは、股関節伸展制限を確認するための整形外科的テストです。
背臥位で患者様が片膝を胸の方へ抱え込み、骨盤や腰椎による代償を抑えた状態で、反対側の大腿がベッドから浮き上がるかどうかを確認します。
反対側の大腿がベッドに接地できず、股関節屈曲位が残る場合は、股関節伸展制限が示唆されます。
所見には、腸腰筋、大腿直筋、大腿筋膜張筋、縫工筋などの股関節屈筋群、股関節前方関節包、関節性の制限、疼痛回避による筋緊張などが関係します。
ただし、この検査は単純に「腸腰筋原因かどうか」だけをみる検査ではありません。
股関節前面や鼠径部の痛みを伴う場合でも、それが股関節屈筋群によるものか、股関節前方組織によるものか、末梢神経の関与によるものかは、この検査だけでは判断できません。
臨床では、ベッド端で片膝を抱え込み、反対側下肢を下ろして評価するトーマステスト変法も用いられます。この方法では、対側股関節をより伸展位にして確認できるため、制限をより明確にみる目的で使われます。
ただし、骨盤や腰椎の代償が入ると股関節伸展制限を正確に読めなくなるため、検査条件をそろえて観察する必要があります。
トーマステストと画像所見は一致するのか
股関節伸展制限や股関節前面痛を疑う場合、X線、MRI、超音波検査などで股関節の骨形態、変形性股関節症、関節唇、滑膜、関節液、腱周囲の変化を確認することがあります。
ただし、画像所見があることと、痛みや可動域制限の原因を説明できることは同義ではありません。
症状のない被験者を対象にしたMRI研究では、股関節の73%に何らかの異常所見が認められ、関節唇損傷は69%で確認されています。
この結果は、股関節の画像所見をそのまま痛みの原因と断定できないことを示しています。
Prevalence of Abnormal Hip Findings in Asymptomatic Participants: A Prospective, Blinded Study
Register B, Pennock AT, Ho CP, Strickland CD, Lawand A, Philippon MJ
トーマステストが陽性で、MRI上に関節唇損傷や変形性股関節症の所見があっても、それだけで症状の主因を決めることはできません。
反対に、股関節前面痛や伸展制限があっても、画像で明確な異常が確認できないこともあります。
そのため、画像所見は、症状の分布、股関節伸展制限、骨盤と腰椎の代償、末梢神経の関与を含めて読む必要があります。
トーマステストの検査精度と再現性
この論文では、トーマステストが股関節可動域や腸腰筋の柔軟性を評価する検査として、どの程度再現性をもつのかが検討されています。
結果として、トーマステストの判定や角度測定には、検者内・検者間のばらつきがあることが示されました。
つまり、この研究から言えるのは、トーマステストを一回の陽性・陰性だけで強く解釈するのは適切ではないということです。
特に、検者が変わる場合や、骨盤・腰椎の代償を十分に抑えられていない場合には、股関節伸展制限や腸腰筋の硬さを正確に判断したとは言い切れません。
Reliability of the Thomas test for assessing range of motion about the hip
J. Peeler, J. E. Anderson
この論文では、トーマステスト変法が股関節伸展角度を正確に測定できるのかが検討されています。
結果として、骨盤傾斜を制御しないまま行うと、股関節伸展角度の評価としては妥当性が低くなることが示されています。一方で、骨盤傾斜を制御した場合には、股関節伸展角度の評価として有用になる可能性があります。
The modified Thomas test is not a valid measure of hip extension unless pelvic tilt is controlled
Adam D. Vigotsky, Corbin J. Lehman, et al.
トーマステストを末梢神経の視点から再検討する
トーマステストで鼠径部、股関節前面、大腿前面の症状が再現される場合、末梢神経の関与も考える必要があります。
まずは大腿神経です。
大腿神経は腰神経叢から出て、腸腰筋の間を通り、鼠径靱帯の深層を通過して大腿前面へ向かいます。
股関節伸展方向の負荷で、大腿前面の張り、しびれ、放散痛、感覚異常が出る場合は、大腿神経系の関与を検討します。
鼠径部周囲の違和感が強い場合は、腸骨鼠径神経、陰部大腿神経の大腿枝など、鼠径部周囲の皮神経も評価に含めます。
外側大腿部のしびれや灼熱感が目立つ場合は、外側大腿皮神経の関与も考えます。
結論
トーマステストは、背臥位で片膝を抱え込み、骨盤や腰椎による代償を抑えた状態で、反対側股関節の伸展制限を確認する整形外科的テストです。
陽性所見は、股関節伸展制限を示す手がかりになります。
ただし、腸腰筋、大腿直筋、股関節前方関節包、関節性の制限、末梢神経の関与を単独で決めるものではありません。
画像所見が確認されても、それだけで痛みや伸展制限の主因とは判断できません。
また、トーマステストは骨盤と腰椎の代償に影響されるため、検査条件をそろえて解釈する必要があります。
鼠径部、股関節前面、大腿前面、外側大腿部に痛み、しびれ、放散痛が出る場合は、大腿神経、腸骨鼠径神経、陰部大腿神経、外側大腿皮神経などの関与も含めて判断することが重要です。
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