慢性疼痛と触覚の関係
慢性疼痛は、単なる組織損傷だけでは説明しきれない現象です。
近年は、感覚認知と疼痛の関係が重視されており、慢性疼痛では触覚の鋭敏性や身体の感じ取り方が変化する可能性が示されています。
とくに触覚識別能力の変化は、一次体性感覚野(S1)の変化と関連することが報告されており、臨床では何を感じているかだけでなく、どのように感じ分けているかまで確認する視点が重要です。
慢性疼痛では触覚識別能力が低下する
慢性疼痛では、痛みのある部位に対する触覚の鋭敏性や、触れられた位置・大きさ・特徴を識別する能力が低下することがあります。
本研究の著者であるLorimer Moseley氏(ロリマー・モーズリー)は、オーストラリアの理学療法士であり、慢性疼痛研究の分野で広く知られる研究者です。
疼痛科学、神経科学、リハビリテーションの領域で多数の研究を発表しており、慢性疼痛における脳の可塑性や感覚認知アプローチの研究で知られています。
「慢性疼痛は、しばしば、触覚鋭敏性の低下と関連している。痛みの強さ、触覚の鋭敏さ、皮質再編成には関係がある。痛みが消失すると、触覚機能は改善し、皮質構成も正常化する。」
「慢性痛の人は、痛みを感じる身体部位に触覚刺激が与えられた場合、その触覚刺激の位置や特徴を識別する能力が低いという証拠が増えつつある。」
さらに、触覚鋭敏性の低下と痛みの強さの関連も報告されています。
「このような触覚鋭敏性の低下は、痛みの強さと相関しているようであるが、痛みが消失すると、触覚鋭敏性は再び増加する。」
「いくつかの研究で、慢性疼痛患者における一次体性感覚野の再編成が示されており、その程度は、痛みの強さと触覚鋭敏性の低下の両方に関連している。」
「片側CRPS患者の患肢に加える触覚刺激の位置とサイズを識別させることで、痛みと2点識別覚の閾値が低下することができるが、触覚刺激だけでは低下できないことを初めて証明した。」
「知覚認知的アプローチは、患部へ中立的かつ客観的に注意を向けることで(感覚モニタリング)、患部からの体性入力の脅威が軽減され、その結果、痛みが軽減されたことを示唆している可能性がある。」
Tactile discrimination, but not tactile stimulation alone, reduces chronic limb pain
G. Lorimer Moseley, Nadia M. Zalucki, Katja Wiech
この研究が示しているのは、単に触覚刺激を加えるだけでは不十分であり、触れられた場所や大きさを識別する過程そのものが疼痛の変化に関わる可能性があるという点です。
つまり重要なのは、刺激の有無だけではなく、その感覚入力を患者様がどう認知しているかです。
触覚識別と一次体性感覚野の関係
慢性疼痛では、触覚識別能力の低下と一次体性感覚野の再編成が関連することが報告されています。
これは、痛みが続くことで感覚入力の処理のされ方が変化し、身体部位の位置や境界の感じ取り方にも影響が及ぶ可能性があることを示しています。
そのため慢性疼痛は、末梢組織の問題だけではなく、感覚認知と中枢神経処理の変化を含めて理解する必要があります。
臨床で確認すべき視点
臨床では、どこが痛いかだけでなく、その部位を患者様がどう感じ分けているか、どの程度はっきり認識できているかを確認することが重要です。
また、患部へ中立的かつ客観的に注意を向けることが、感覚入力の意味づけを変え、疼痛体験の変化につながる可能性も考えられます。
この視点は、単に刺激を加える発想ではなく、感覚認知を通して神経系の処理をみる発想につながります。
結論
慢性疼痛では、触覚鋭敏性や触覚識別能力が変化する可能性があります。
さらにその変化は、一次体性感覚野の再編成や感覚入力への注意の向け方とも関係していると考えられます。
CRPSの研究は、単なる触覚刺激だけではなく、触覚識別という感覚認知の過程が疼痛の変化に関わることを示しました。
これらの知見は、臨床において刺激の強さそのものよりも、患者様がその感覚をどう認識しているかを確認する重要性を示しています。
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