サルカスサインとは何か
サルカスサインは、肩関節の下方不安定性や下方弛緩性をみる整形外科的テストです。
sulcus は「溝」を意味し、上肢を下方へ牽引した際に肩峰下にみえる窪みを指します。
一般的な方法は、座位または立位で上肢を自然下垂させ、検者が前腕または肘付近を把持して下方へ牽引するものです。
その際、肩峰下に明らかなくぼみが出現すれば陽性とされます。
この検査でみているのは、痛みの再現ではなく、上腕骨頭の下方移動や肩関節周囲の弛緩性です。
そのため、ニアーサインやホーキンスサインのような症状再現テストとは役割が異なります。
サルカスサイン陽性で言えるのは、肩関節に下方移動が生じるということまでであり、それだけで症候性の不安定性とは言えません。
サルカスサインはどの組織をみているのか
一般的には、上関節上腕靱帯、烏口上腕靱帯、回旋腱板間隙、関節包の弛緩性など、肩関節上方の静的支持組織との関連が想定されます。
上肢を自然下垂位に置いて下方牽引を加えるため、肩関節上方の支持機構が下方移動をどの程度制御しているかが反映されます。
ただし、サルカスサインは組織損傷を直接示す検査ではありません。
陽性所見は、関節唇損傷や関節包損傷の証明ではなく、下方への移動性や弛緩性を視覚的・触覚的に捉える所見です。
無症状でも関節弛緩性が強い人では陽性になることがあります。
反対に、症候性の不安定感を訴える患者様でも、診察場面では明らかな陥凹が出ないことがあります。
したがって、この検査だけで損傷部位を決めることはできません。
この検査で言えるのは、肩関節の支持機構に下方移動を許す要素がある可能性までです。
サルカスサインと画像所見は一致するのか
この論文では、サルカスサインは肩関節の下方弛緩性を評価する所見として扱われています。
陽性の場合、上腕骨頭が下方へ移動し、肩峰下に窪みが現れます。
論文では、2cmを超える明らかなサルカスサインでは感度28%、特異度97%と報告されています。
この数値からは、明らかな陽性所見があれば下方弛緩性を示す材料になりますが、陰性であっても下方弛緩性や不安定性を否定できないと読めます。
また、下方弛緩性には個人差があり、無症状でも陽性所見がみられる場合があります。
Physical Exam and Evaluation of the Unstable Shoulder
M. Valencia Mora, A. Ruiz Ibán, M. Díaz Heredia, et al.
この論文では、サルカスサインを含む肩関節不安定性・弛緩性テストについて、検者間信頼性が検討されています。
この研究では、肩峰下の窪みが1cmを超える場合を陽性とし、サルカスサインの検者間信頼性はκ0.43と報告されています。
これは中等度の一致を示しますが、検者間で判定に差があり、下方へ引く力の違いが結果に影響した可能性も示されています。
そのため、サルカスサインは肩関節の下方弛緩性をみる身体所見として参考になりますが、単独で安定した判断材料にするには限界があります。
Intertester reliability of clinical shoulder instability and laxity tests in subjects with and without self-reported shoulder problems
Henrik Eshøj, et al.
サルカスサインを末梢神経の視点から再検討する
サルカスサインでは、下方牽引によって肩外側から上腕近位外側に違和感、だるさ、しびれ感、不快感が出ることがあります。
これは関節包や関節唇だけでなく、牽引負荷によって複数の神経が影響を受けるためです。特に、腕神経叢、肩甲上神経、腋窩神経、上外側上腕皮神経、副神経などの反応を含めて考える必要があります。
結論
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