スピードテストとは何か|整形外科的テストを吟味する

整形外科的テストDNM
目次

スピードテストとは何か

スピードテストは、James Spencer Speed の名に由来する整形外科的テストです。

一般的には、上腕二頭筋長頭腱炎/腱症、SLAP病変を疑う場面で用いられます。

検査は座位で行い、肩関節を屈曲位、肘関節を伸展位、前腕を回外位にして上肢を保持し、検者が下方への抵抗を加えます。

このとき、結節間溝周囲から前方肩部に痛みが誘発される場合、陽性と解釈されます。

ただし、スピードテストは上腕二頭筋長頭腱や上方関節唇だけを選択的にみる検査ではありません。

肩関節屈曲に抵抗を加えるため、上腕二頭筋長頭腱、上方関節唇、三角筋前部、烏口突起周囲、腱板、肩峰下滑液包、前方関節包、末梢神経にも負荷が及びます。

そのため、この検査で言えるのは、前方肩部から上腕前面にかけての負荷で症状が再現されたということまでです。

スピードテストは、病変名を決める検査ではなく、前方肩部症状と末梢神経の関与を含めて考えるための負荷テストとして位置づける必要があります。

※SLAP病変:上方関節唇が前方から後方にかけて損傷する病態です。

スピードテストと画像所見は一致するのか

上腕二頭筋長頭腱症やSLAP病変を画像で確認する場合、MRI、MR関節造影、超音波検査などが候補になります。

ただし、画像所見があることと、痛みの原因を説明できることは同義ではありません。

とくにSLAP病変は、中高年の無症状の肩にもMRI上の所見としてみられることがあります。

手術歴や肩の外傷歴のない無症状の成人を対象にした研究では、上方関節唇損傷に一致すると解釈されるMRI所見が高頻度に確認されています。

つまり、MRIでSLAP病変と読影されても、それだけで前方肩部痛や上腕前面の症状を説明できるとは限りません。

High Prevalence of Superior Labral Tears Diagnosed by MRI in Middle-Aged Patients With Asymptomatic Shoulders

Schwartzberg R, Reuss BL, Burkhart BG, Butterfield M, Wu JY

この研究から言えるのは、画像上の上方関節唇所見をそのまま痛みの原因と断定しないことです。

スピードテスト陽性とMRI上のSLAP所見がそろっていても、それだけで上方関節唇を症状の主因と決めることはできません。

画像所見は、症状の分布、検査時の再現性、病歴、末梢神経の関与と合わせて読む必要があります。

▶︎腱症とは何か

▶︎肩の画像所見と痛み

▶︎肩関節唇損傷を再考する

スピードテストの診断精度はどうか

肩の整形外科的テストを扱ったシステマティックレビューでは、上方関節唇病変に対するスピードテストの診断精度が検討されています。

この研究では、SLAP病変に対するスピードテストの要約感度は32%、要約特異度は61%と報告されています。

感度32%という結果は、SLAP病変があってもスピードテストが陰性になる例が少なくないことを意味します。

特異度61%という結果も高いとは言えず、陽性だからSLAP病変を強く示す検査とは言えません。

したがって、スピードテストはSLAP病変を単独で確定する検査でも、陰性で除外する検査でもありません。

Physical examination tests of the shoulder: a systematic review with meta-analysis of individual tests

Eric J. Hegedus, Adam Goode, Skye Campbell, Amy Morin, Michael Tamaddoni, Claude T. Moorman, Chad Cook

上腕二頭筋長頭腱を対象にしたシステマティックレビューでは、高解像度超音波検査は上腕二頭筋長頭腱の脱臼や完全断裂の確認に有用とされています。

一方で、整形外科的テストの精度は研究間で大きくばらつき、個別の検査を推奨するにはエビデンスが不十分とされています。

この研究で比較的有用とされたのは、SLAP病変を除く近位上腕二頭筋長頭腱病変に対するヤーガソンテストであり、スピードテスト単独で上腕二頭筋長頭腱症を確定できるとは言えません。

Accuracy of examination of the long head of the biceps tendon in the clinical setting: A systematic review

V. Bélanger, F. Dupuis, J. Leblond, J. S. Roy

スピードテストを末梢神経の視点から再検討する

スピードテストで前方肩部から上腕前面にかけて症状が出る場合、まず考えたい末梢神経は筋皮神経です。

筋皮神経は腕神経叢の外側束から分岐し、烏口腕筋を貫いて上腕前面へ向かい、上腕二頭筋、上腕筋、烏口腕筋を支配します。遠位では外側前腕皮神経として、前腕外側の感覚にも関わります。

スピードテストでは、肘関節伸展位と前腕回外位を保ったまま肩関節屈曲に抵抗を加えるため、上腕二頭筋長頭腱だけでなく、上腕前面の筋群と筋皮神経系にも負荷がかかります。

もうひとつ重要なのが、三角筋前部に関わる腋窩神経です。スピードテストは肩関節屈曲位で抵抗を加える検査であり、三角筋前部にも負荷が入ります。

検査中に肩前外側から肩外側の痛み、違和感、感覚異常が目立つ場合は、上腕二頭筋長頭腱やSLAP病変だけでなく、腋窩神経系の関与も考えます。

▶︎筋皮神経とは何か

▶︎腋窩神経とは何か

▶︎腕神経叢とは何か

結論

スピードテストは、前方肩部から上腕前面にかけての症状を確認する整形外科的テストです。

ただし、上腕二頭筋長頭腱炎、上腕二頭筋長頭腱症、SLAP病変を単独で確定する検査ではありません。

画像所見や診断精度の研究を踏まえても、スピードテストの結果だけで病態を強く絞り込むことはできません。この検査では、肩関節屈曲抵抗によって、前方肩部、上腕前面、肩外側にどのような症状が再現されるかを確認します。

上腕前面から前腕外側への放散感や違和感がある場合は筋皮神経を、肩前外側から肩外側の症状が目立つ場合は腋窩神経を含めて判断する必要があります。

スピードテストは病名を決める検査ではなく、腱、関節唇、三角筋前部、末梢神経のどこに症状の手がかりがあるのかを検討する入口として位置づけるのが妥当です。

▶︎ 整形外科的テストを吟味するとは何か


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