サイレント侵害受容器とは何か|NGF・末梢性感作・痛覚過敏の神経科学

目次

サイレント侵害受容器とは何か|炎症時に動員される侵害受容線維

侵害受容器は、侵害刺激を検出する感覚神経線維として広く知られています。

しかしその中には、通常の状態ではほとんど活動せず、炎症が生じたときにのみ感作される特殊な神経線維が存在します。

この神経線維はサイレント侵害受容器と呼ばれます。

サイレント侵害受容器は通常の条件では機械刺激に対して反応しませんが、炎症性メディエーターの作用によって機械刺激に対する感受性が増加し、侵害受容入力を生み出すようになります。

この性質から、サイレント侵害受容器は炎症性疼痛や機械的痛覚過敏の形成に重要な役割を持つ神経線維として位置づけられています。

▶︎ 侵害刺激・侵害受容・痛みの違いとは何か

NGFはサイレント侵害受容器をどう変えるのか|炎症時の感作メカニズム

炎症環境では多くの炎症性メディエーターが放出されます。その中でも重要な分子の一つが神経成長因子であるNGFです。

別の研究では、通常の条件では有害な機械刺激に反応しにくいペプチド作動性C線維侵害受容器の一群が、NGFへの曝露によって機械刺激に感作されることが示されています。

重要なのは、NGFがすべての侵害受容器を一様に感作するわけではなく、サイレント侵害受容器に選択的な影響を及ぼす可能性が示された点です。この結果からは、炎症時の侵害受容入力の増加を、既存の侵害受容器の感度上昇だけで説明するのでは不十分であることがわかります。

少なくとも、これまで機械刺激に反応していなかった侵害受容器が新たに動員されることで、侵害受容入力そのものが大きく増える経路を考える必要があります。

「サイレント求心性神経が炎症時の機械的痛覚過敏に大きく寄与している可能性が示唆されている。」

Genetic identification of mechanoinsensitive ‘silent’ nociceptors
Vincenzo Prato, et al.

サイレント侵害受容器は末梢性感作で何を意味するのか|感度上昇だけではない入力増加

炎症が起こると、組織ではNGF、プロスタグランジン、ブラジキニン、サイトカインなど、多くの炎症性メディエーターが放出されます。

これらの分子は侵害受容器の興奮性を変化させ、末梢性感作を引き起こします。

末梢性感作とは、侵害受容器の反応性が増加し、通常よりも弱い刺激でも侵害受容入力が発生しやすくなる状態を指します。

サイレント侵害受容器が重要なのは、この過程で、単に既存線維の閾値が下がるだけではなく、これまで反応していなかった侵害受容器まで機械刺激に応答するようになるからです。

つまり炎症時の侵害受容入力は、感度上昇と新たな線維の動員の両方によって増加しうると理解できます。

この視点は、炎症性疼痛や機械的痛覚過敏を理解するうえで重要です。

▶︎ 末梢性感作とは何か

ヒト皮膚にも存在するのか|種差を含めた解釈

この研究では、サイレント侵害受容器が膀胱、遠位結腸、膝関節、筋肉などに多く存在することが示されています。

さらに、ヒトやサルの皮神経にも相当数が存在し、ヒト皮膚ではC線維侵害受容器の約25%を占めることが示されています。

一方で、げっ歯類の皮膚では比較的少ないことも報告されており、皮膚侵害受容システムには種差がある可能性があります。

この点は、動物研究の結果をそのままヒトへ当てはめるのではなく、ヒトでの侵害受容の特徴として慎重に読む必要があることを示しています。

炎症時の痛みをどう理解するか|入力増加の神経科学

サイレント侵害受容器の視点を入れると、炎症時の痛みは単純な「刺激が強いから痛い」という説明では不十分になります。

実際には、炎症性メディエーターによって侵害受容器の反応性が変わり、これまで活動していなかった線維まで侵害受容入力に参加することで、脊髄や高次脳領域へ送られる入力量が変化します。

つまり炎症時の機械的痛覚過敏は、既存の侵害受容器の過敏化だけではなく、サイレント侵害受容器の解除という視点からも理解する必要があります。

▶︎ 末梢神経とは何か

結論|サイレント侵害受容器は炎症時に動員される重要な侵害受容線維である

サイレント侵害受容器は、通常は機械刺激に反応しませんが、炎症によって感作され、機械的痛覚過敏の形成に関与する侵害受容線維です。

特にNGFなどの炎症性メディエーターは、サイレント侵害受容器を機械刺激に対して感作させることが示されています。

また、ヒトの皮膚にも相当数が存在することが報告されており、炎症性疼痛や機械的痛覚過敏を理解するうえで重要な神経メカニズムの一つです。

したがって、炎症時の痛みは、既存の侵害受容器の感度上昇だけでなく、これまで機械刺激に反応していなかった侵害受容器の動員という視点からも理解する必要があります。


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