肩こりとは何か
肩こりは日本で非常に多く報告される身体症状の一つです。
首から肩、肩甲骨周囲にかけての重さ、だるさ、圧迫感、張り感などとして感じられることが多くあります。
しかし肩こりは医学的に明確な疾患名ではなく、症状を表す言葉として使われています。
そのため原因についてはさまざまな説明が存在します。
一般的には
- 筋肉の硬さ
- 血行不良
- 姿勢
などが原因として説明されることがあります。
しかし近年の神経科学では、肩こりの理解には神経系の視点が重要である可能性が指摘されています。
筋肉原因説
肩こりは長く筋肉の問題として説明されてきました。
例えば、筋肉の疲労、筋肉の硬化、血流低下などです。
確かに肩周囲の筋肉の緊張は触診で確認されることがあります。
しかし筋肉が硬くなる理由については、必ずしも筋肉そのものの問題だけでは説明できない場合があります。
筋肉は神経系からの信号によって活動しています。
そのため筋肉の緊張を理解するためには、神経系の働きを考える必要があります。
神経系の防御反応
神経科学では、身体は危険や不快な刺激に対して防御反応を起こすことが知られています。
重要なのは、刺激そのものではなく、神経系がその刺激をどのように評価するかです。
神経系が危険や不快な刺激と評価した場合、身体は防御反応として筋緊張を高めることがあります。
このような反応は身体を守るための生理的反応です。
肩こりの筋緊張も、このような神経系の防御反応として生じている可能性があります。
末梢神経の状態と入力
肩や頚部には多くの末梢神経が分布しています。
皮膚、筋肉、関節などの組織には感覚神経が存在し、さまざまな感覚情報を中枢神経へ伝えています。
末梢神経からの入力は脊髄や脳で統合され、身体反応として出力されます。
そのため肩こりのような症状も、末梢神経の状態と入力が関係している可能性があります。
肩周囲の神経としては、僧帽筋を支配する副神経(第11脳神経)があります。
僧帽筋は首から肩、肩甲骨にかけて広く分布しており、神経系の活動によって筋緊張が変化する可能性があります。
また肩甲骨周囲には肩甲背神経が分布しており、菱形筋などの肩甲帯筋群を支配しています。
さらに頚神経叢から分岐する皮神経は、頚部や肩周囲の皮膚感覚を中枢神経へ伝えています。
このように肩周囲には複数の末梢神経が存在しており、肩こりの理解には筋肉だけでなく末梢神経の状態と入力を含めた神経系の視点が重要になります。
強いマッサージはなぜ問題なのか
肩こりに対して強いマッサージや強い指圧が行われることがあります。
しかし強い刺激は神経系に防御反応を引き起こす可能性があります。
神経系が危険な刺激と評価した場合、身体は筋緊張を高めることがあります。
その結果、一時的に楽になったように感じても、その後に再び筋緊張が強くなる場合があります。
また強い刺激は組織損傷や炎症のリスクを伴う可能性もあります。
そのため徒手療法では、強い刺激を加えることよりも神経系に適切な感覚入力を与えることが重要になります。
DNICと一時的な鎮痛
強い刺激で一時的に症状が軽くなる場合があります。
この現象はDNIC(Diffuse Noxious Inhibitory Control)と呼ばれる疼痛調節機構で説明されることがあります。
DNICは「痛みが別の痛みを抑制する」という神経生理学的現象です。
強い刺激によって侵害刺激が加わると、脳幹を介した下行性疼痛抑制系が働き、痛みが一時的に抑制されることがあります。
しかしこの鎮痛は一時的な場合が多く、原因そのものを解決しているわけではありません。
ストレスと肩こり
肩こりは心理的ストレスとも関連することがあります。
ストレス状況では交感神経活動が高まり、身体が警戒状態になることがあります。
このような状態では筋緊張が高まりやすくなる可能性があります。
そのため肩こりは筋肉だけでなく、自律神経やストレス反応とも関連する可能性があります。
慢性疼痛との関係
肩こりが長期間続く場合、慢性疼痛として理解されることがあります。
慢性疼痛では、末梢神経の状態と入力だけでなく、中枢神経の情報処理も関係する可能性があります。
神経系は経験や学習によって変化する可塑性を持っています。
そのため慢性的な痛みや不快感は、神経系の情報処理の変化として理解される場合があります。
結論|肩こりを神経科学から理解する
肩こりは長く筋肉の問題として説明されてきました。
しかし神経科学の視点から見ると、筋緊張は神経系の防御反応として生じている可能性があります。
また強いマッサージで一時的に症状が軽減する場合でも、それはDNICなどの神経調節による一時的な鎮痛である可能性があります。
肩こりの理解には
- 末梢神経の状態と入力
- 神経系の防御反応
- ストレス反応
- 慢性疼痛の神経科学
など複数の視点が重要になります。
そのため肩こりは単一の構造問題ではなく、神経系の相互作用の中で理解することが重要です。
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