肩インピンジメント症候群をどう再考するか|整形外科領域の臨床再考

目次

インピンジメント症候群とは何か|まず押さえたい基本像

インピンジメント症候群は、整形外科領域で長く使われてきた肩痛の疾患名です。

肩の挙上時痛、夜間痛、肩外側の痛み、反復動作でのつらさとして語られることが多く、従来は肩峰下で腱板や滑液包が機械的に挟まることで生じると説明されてきました。

一方で近年は、肩峰下滑液包炎のような局所所見と、腱板関連肩痛というより広い臨床概念を分けて考える見方も広がっています。

つまり、肩峰下滑液包炎は局所組織の変化を示す名称であり、腱板関連肩痛はインピンジメント症候群、滑液包炎、腱板症、部分断裂などを含む、より広い臨床的な呼び方です。

一般名としては肩関節周囲炎という言い方で語られる場面もありますが、実際の症状は一様ではありません。

治療法としては、運動療法、生活指導、物理療法、薬物療法、徒手療法などが選択されます。

しかし、強い安静時痛、急速な腫脹、発熱、著明な外傷歴、明らかな神経脱落症状、急激な筋力低下がある場合は、保存的介入のみで進めず、医師評価や画像検査を優先すべきです。

最近の研究からみたインピンジメント症候群|いま押さえたい知見

インピンジメント症候群は、近年も研究が続いています。

押さえたいのは、肩峰下除圧という構造的介入が、短期だけでなく中期追跡でも優位性が示されなかったことは、インピンジメント症候群を単純な機械的圧迫モデルだけで理解しにくいことを示しています。

「肩インピンジメント症候群の患者を対象としたこの対照試験では、24ヶ月時点での関節鏡視下肩峰下除圧は、診断的関節鏡検査に比べて有益性は認められなかった。」

Subacromial decompression versus diagnostic arthroscopy for shoulder impingement: randomised, placebo surgery controlled clinical trial

手術を受けたグループは、無治療群と比較して肩の痛みと機能に関して良好な結果を示しましたが、この差は臨床的に重要なものではなかった。

さらに、外科的減圧術は、関節鏡検査のみの場合と比べて特別な利点をもたらすようには見えなかった。

手術群と無治療群との差は、例えばプラセボ効果や術後理学療法の結果である可能性がある。」

Arthroscopic subacromial decompression for subacromial shoulder pain (CSAW): a multicentre, pragmatic, parallel group, placebo-controlled, three-group, randomised surgical trial

肩峰下除圧術で一定の改善はみられても、その効果が減圧そのものによるとは言い切れません。

自然経過や期待、術後リハビリの影響も含めて、この手術の意義は慎重に考える必要があります。

▶︎ 整形外科領域の臨床再考とは何か

▶︎ 肩の画像所見と痛みは一致するのか

疼痛科学からみたインピンジメント症候群|中枢神経での処理も含めて考える

インピンジメント症候群は、肩峰下で何かが単純に挟まっているという見方だけでは十分に説明できません。

局所の組織変化だけでなく、肩周囲からの入力が中枢神経でどのように処理され、痛みや防御反応として出力されているのかまで含めて考える必要があります。

▶︎ 痛みの中枢神経処理とは

インピンジメント症候群を末梢神経からどうみるか|分布から読み直す

ここで大切になるのが、末梢神経の視点です。

インピンジメント症候群としての訴えの中にも、関連する神経の分布を踏まえた方が捉えやすい場合があります。

肩後上方の深部不快感や挙上時の違和感が強い場合は肩甲上神経、肩外側から上腕外側の症状がある場合は腋窩神経、上腕前面から前腕外側にかけての違和感や筋出力低下が目立つ場合は筋皮神経、前胸部から肩前面の張りや動作時不快感が強い場合は胸筋神経、肩上部から頸部にかけての張りや肩甲帯の保持のしにくさが強い場合は副神経という見方が役立ちます。

しびれ、接触過敏、放散感、筋出力低下の出方まで追うことで、肩峰下滑液包や腱板だけをみている時には曖昧だった評価の焦点が絞られてきます。

画像上の滑液包炎や腱板所見があっても、症状分布が神経分布とより強く重なるなら、その解釈は分けて考える必要があります。

▶︎ 肩甲上神経とは何か

▶︎ 腋窩神経とは何か

▶︎ 筋皮神経とは何か

▶︎ 胸筋神経とは何か

▶︎ 副神経とは何か

結論

インピンジメント症候群をみる際には、診断名や画像所見をそのまま受け取るのではなく、研究知見を踏まえながら、挙上や反復的な動作でどう悪化するのか、夜間痛や重だるさはどう出るのか、症状がどこに広がるのかを丁寧に読むことが重要です。

インピンジメント症候群という名称だけで理解を止めず、局所所見と広い臨床概念を分けながら、症状の振る舞いと神経分布まで丁寧に読むことが臨床では欠かせません。

 


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