肩腱板損傷(断裂)を組織や構造だけでみてよいのか|整形外科領域の臨床再考

目次

腱板損傷(断裂)とは何か|まず押さえたい基本像

肩の腱板損傷(断裂)は整形外科領域でよくみられる疾患名です。

肩の挙上時痛、夜間痛、上げにくさ、力の入りにくさ、結帯や洗髪、衣服の着脱での困りごととして語られることが多く、肩外側だけでなく前方や後上方に違和感が広がることもあります。

一般には、加齢変性、反復性の負荷、外傷、炎症、オーバーユース、肩峰下組織の環境などで説明され、運動療法、物理療法、生活指導、薬物療法、徒手療法などが選択されます。

また、外傷後の急激な筋力低下、著明な挙上不能、強い安静時痛、発熱、急速な腫脹、明らかな神経脱落症状がある場合は、保存的介入のみで進めず、医師評価や画像検査を優先すべきです。

最近の研究からみた腱板損傷(断裂)|いま押さえたい知見

腱板損傷(断裂)は、近年も研究が続いています。

ここでは、無症状断裂の頻度、動作時痛と画像所見の関係、解剖学的な重症度と疼痛の関係という流れで、現在の評価と説明モデルを確認します。

無症状でも腱板断裂は一定数みられる

まず重要なのは、腱板断裂がみつかっても、それだけで現在の痛みや機能障害を説明できるとは限らない点です。

別の研究では、無症状の肩を持つ411人を対象に画像評価が行われ、年齢が上がるにつれて断裂の割合が増えることが示されました。

50代では約13%、60代では約20%、70代では約31%、80歳以上では約51%に断裂がみられており、腱板断裂は加齢に伴って珍しくない所見であることが分かります。

この結果からは、断裂の存在そのものを症状の原因と直結させるのではなく、その所見が今ある痛みや機能低下と本当に結びついているのかを慎重に考える必要があります。

「したがって、無症状の肩を有する患者における回旋腱板の損傷は、年齢の増加とともに実証された。結果、回旋腱板の裂傷は、必ずしも疼痛および機能障害を引き起こすとは限らない、「正常な」変性衰弱とみなされなければならない。」

Age-related prevalence of rotator cuff tears in asymptomatic shoulders.
Tempelhof, et al.

また別の記述でも、同じ傾向が年齢別の割合とともに示されています。

50代で約13%、60代で約20%、70代で約31%、80歳以上で約51%という分布は、無症状断裂が年齢とともに増えるという先ほどの知見と一致しています。

つまり、腱板断裂は画像で見つかったからといって直ちに異常の中心と決めるべき所見ではなく、ある程度は加齢に伴う変化として理解する視点が必要です。

「肩の無症状患者における回旋筋腱板断裂の割合は、患者の年齢が上がるにつれて驚くほど高くなることが示された。現時点で腱板断裂はある程度までは“正常な”摩耗変性とみなされ、必ずしも痛みや機能障害を引き起こすものではない。」Age-related prevalence of rotator cuff tears in asymptomatic shoulders.

動作時痛の広がりは画像所見の多さと一致しない

次に重要なのは、慢性的な肩痛で感じる痛みの広がりや動作時痛の多さが、MRIで報告される腱板所見の多さと一致しない点です。

肩峰下痛症候群と診断された慢性肩痛の患者様を対象にした研究では、痛みを感じる動作や活動の数と、MRIで異常とされた腱の数や重症度との関係が調べられました。

その結果、動作時痛が多いからといって、より多くの腱異常やより重い画像所見があるわけではありませんでした。

この結果からは、動作時痛を単純に組織損傷の量として読む考え方には限界があると分かります。

痛みの広がりは、局所の組織変化だけでなく、侵害受容信号の処理や予測、注意、回避、身体の反応などを含めて理解する必要があります。

「これは、動作時痛は組織損傷の正確な表現であり、より多くの痛みはより多くの組織損傷の正確な尺度であるとする一般的な見解とは正反対である。」
Shoulder pain across more movements is not related to more rotator cuff tendon findings in people with chronic shoulder pain diagnosed with subacromial pain syndrome.

断裂の重症度と疼痛は相関しない

さらに、解剖学的な重症度そのものと疼痛が一致しないことも別の研究で示されています。

この研究では、関与する腱の数、断裂の牽引量、上腕骨頭の移動、棘上筋の脂肪変性など、一般に重症度を示すと考えられる指標と疼痛レベルの関係が検討されました。

しかし、これらの解剖学的な指標は疼痛と関連していませんでした。

少なくとも、画像上で重く見える断裂ほど痛いはずだという見方は、研究知見からは支持されません。

構造の重症度を確認することは大切ですが、それだけで今ある痛みの強さや広がりを説明することはできません。

「患者が報告した疼痛レベルと回旋筋腱板断裂の重症度を示す解剖学的指標との間に相関関係がないことが示された。」Symptoms of Pain Do Not Correlate with Rotator Cuff Tear Severity.

▶︎ 肩の画像所見と痛みは一致するのか

▶︎ 整形外科領域の臨床再考とは何か

疼痛科学からみた腱板損傷(断裂)|中枢神経での処理も含めて考える

腱板損傷(断裂)では、局所の組織変化だけでなく、そこからの侵害受容信号や感覚入力が中枢神経でどう処理されるのかを含めて理解する必要があります。

同じような断裂所見でも症状が一様でないのは、末梢からの入力がそのまま痛みになるのではなく、中枢神経で統合された結果として出力されるためです。

そのため、画像所見があることと、今ある痛みの強さや動作時痛の広がりを一対一で結びつけない視点が重要になります。

▶︎ 痛みの中枢神経処理とは

腱板損傷(断裂)を末梢神経からどうみるか|分布から読み直す

ここで大切になるのが、末梢神経の視点です。

腱板損傷(断裂)としての訴えの中にも、末梢神経の分布を踏まえた方がよいケースがあります。

肩外側から上腕外側の症状が前景にある場合は腋窩神経、肩後上方の痛みや挙上時の深部不快感が強い場合は肩甲上神経、上腕前面から前腕外側にかけての違和感や筋出力低下が目立つ場合は筋皮神経という見方が役立ちます。

しびれ、接触過敏、放散感、筋出力低下の出方まで追うことで、腱板だけをみているときには曖昧だった評価の焦点が絞られてきます。

画像上の断裂があっても、症状分布が神経分布とより強く重なるなら、その解釈は分けて考える必要があります。

▶︎ 肩甲上神経とは何か

▶︎ 腋窩神経とは何か

▶︎ 筋皮神経とは何か

結論

腱板損傷(断裂)をみる際には、診断名や画像所見をそのまま受け取るのではなく、研究知見を踏まえながら、どの動作で悪化するのか、感覚の質はどうか、症状がどこに広がるのかを丁寧に読むことが重要です。

研究では、無症状でも加齢とともに腱板断裂が増えること、動作時痛の広がりがMRI所見の多さと一致しないこと、断裂の重症度と疼痛が相関しないことが示されています。

つまり、断裂という構造変化だけで現在の訴えを決めつけることはできません。

中枢神経での処理、末梢神経の状態と入力、症状分布の読み方まで含めて考えることで、肩の症状をより立体的に理解できます。

 


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