ファーレンテストとは何か|手根管症候群をみる整形外科的テスト
ファーレンテストは、手根管症候群で正中神経の分布領域に症状が再現されるかを確認する整形外科的テストです。
George S. Phalen の名前に由来し、一般的には両手背を合わせるように手関節を屈曲し、30〜60秒程度保持します。
関連する検査として、両手掌を合わせるように手関節を伸展する逆ファーレンテストがあります。
逆ファーレンテストもは、手関節伸展位を保持し、正中神経の分布領域にしびれ、痛み、感覚異常などが再現されるかをみます。
つまり、ファーレンテストは手関節屈曲、逆ファーレンテストは手関節伸展によって、正中神経の分布領域に症状が再現されるかを確認する検査です。
ただし、ファーレンテスト陽性だけで手根管症候群を確定することはできません。
ファーレンテストと画像所見はどこまで一致するのか
このシステマティックレビューでは、手根管症候群に対するMRI所見の診断的価値が検討されています。
MRIでは、正中神経のT2信号増加、断面積の増大、手根管内での扁平化、屈筋支帯の変化などが、手根管症候群に関連する所見として報告されています。
ただし、対象研究では診断基準、対照群、評価方法にばらつきがあり、各MRI所見の感度や特異度を信頼して評価することは困難でした。
つまり、MRIは正中神経や手根管周囲の構造変化を捉える手段にはなりますが、画像所見だけで手根管症候群を確定する検査ではありません。
Magnetic resonance imaging findings in respect to carpal tunnel syndrome
Pasternack II, Malmivaara A, Tervahartiala P, Forsberg H, Vehmas T
この研究は、MRIが手根管症候群に関連する構造変化を捉え得る一方で、画像所見だけで診断や症状説明を完結できないことを示しています。
したがって、画像で正中神経の変化がみられても、それだけで今あるしびれや痛みの原因を確定することはできません。
次のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、手根管症候群の診断における超音波と、神経伝導検査・筋電図検査の診断性能が比較されています。
結果として、超音波の統合感度は0.80、統合特異度は0.90でした。
一方、神経伝導検査と筋電図検査を合わせた結果では、感度0.89、特異度0.77と報告されています。
この結果から、超音波は神経伝導検査や筋電図検査に近い診断性能を持ち、正中神経の形態変化を確認する検査として有用です。
A Comparative Analysis Between Ultrasound and Electromyographic and Nerve Conduction Studies in Diagnosing Carpal Tunnel Syndrome (CTS): A Systematic Review and Meta-Analysis
Zaki HA, Ibrahim MI, Mrevlje B, et al.
ただし、超音波も臨床症状や徒手検査を置き換えるものではありません。
二次性の手根管症候群では、腫瘤、骨折後変形、腱鞘滑膜炎、関節リウマチ、透析、糖尿病、甲状腺機能低下症など、正中神経圧迫の背景に明確な要因がある場合があります。
そのため、ファーレンテストだけでなく、超音波やMRIで手根管内外の状態を確認する意義があります。
ファーレンテストの診断精度をどう読むか
このシステマティックレビューでは、手根管症候群に対する徒手検査の診断精度が検討されています。
ファーレンテストは最も多く研究された検査で、感度68%、特異度73%と報告されています。この結果から、ファーレンテストは正中神経の分布領域に症状が再現されるかを確認する材料にはなります。
しかし、単独で手根管症候群を確定する検査ではありません。
陽性でも手根管症候群と断定できず、陰性でも正中神経の関与を否定できません。
Clinical diagnosis of carpal tunnel syndrome: a systematic review
MacDermid JC, Wessel J
次の研究では、逆ファーレンテストが手根管内圧と正中神経の感覚伝導に与える影響を検討しています。
結果として、逆ファーレンテストは通常のファーレンテストより手根管内圧を高め、手根管症候群のある群では、正中神経の感覚伝導がより遅くなることが示されました。
このことから、逆ファーレンテストは手根管内の条件変化を強める誘発テストとして理解できます。ただし、手根管内圧が高まりやすいことと、診断精度が高いことは同義ではありません。
逆ファーレンテストも、単独で手根管症候群を確定する検査ではありません。
Reverse Phalen's maneuver as an aid in diagnosing carpal tunnel syndrome
Werner RA, Bir C, Armstrong TJ
ファーレンテストを末梢神経の視点から再検討する
ファーレンテストで中心になる末梢神経は、手根管を通過する正中神経です。
母指、示指、中指、環指橈側にしびれや痛みが再現される場合、正中神経の分布領域と一致します。ただし、正中神経の症状が出たとしても、それが手根管内だけの問題とは限りません。
前腕での正中神経の通過部位、神経根、腕神経叢でも、似た症状が出ることがあります。
とくに円回内筋症候群では、前腕近位部で正中神経本幹が影響を受けるため、手根管症候群と似た手指のしびれや前腕痛として現れることがあります。
また、正中神経の手掌枝は手根管を通らないため、手掌中央部や母指球寄りの症状が強い場合は、手根管内だけで説明しない方が自然です。
したがって、ファーレンテストは正中神経を確定診断する検査ではなく、手関節肢位の変化で正中神経の分布領域に症状が再現されるかを確認する検査として扱う必要があります。
結論|ファーレンテストの臨床的な位置づけ
ファーレンテストは、手関節屈曲によって正中神経の分布領域に症状が再現されるかを確認する整形外科的テストです。
ただし、陽性所見だけで手根管症候群を確定する検査ではありません。
診断精度研究では感度と特異度は中等度であり、単独で病態を絞り込むには限界があります。
また、MRIや超音波で正中神経や手根管周囲の変化がみられても、それだけで今あるしびれや痛みの全体を説明することはできません。
そのため、ファーレンテストは手根管症候群を証明する検査ではなく、手関節肢位への負荷で正中神経の分布領域に症状が再現されるかを確認し、画像所見、神経伝導検査、症状分布、前腕での正中神経障害との違いを合わせて解釈する検査として位置づけるのが妥当です。
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